ヒット曲「幸せなら手をたたこう」 誕生物語が漫画に 原点は青年の葛藤…長崎の西岡さん描く

「幸せなら手をたたこう 誕生物語」を漫画で描いた西岡さん=長崎市、長崎新聞社

 「幸せなら態度でしめそうよ」-。60年前に発売され、明るいメロディーと故坂本九さんの歌声で大ヒットした「幸せなら手をたたこう」。長崎市の漫画家、西岡由香さん(58)が歌の誕生の経緯を描いた「幸せなら手をたたこう 誕生物語」(いのちのことば社)を発刊した。西岡さんは「坂本さんを知っている世代も子どもたちも、歌詞の意味に思いをはせてほしい」と話した。
 作詞は、当時早稲田大院生の木村利人さん(90)=同大名誉教授=。1959年に農村復興のワークキャンプで訪れたフィリピン北部での体験が基になっている。木村さんは、衛生環境の整備などに取り組んでいたが、住民らに受け入れられない日々が続いた。やがて太平洋戦争中に日本軍が同国を侵略し、多くの国民の命を奪ったことを初めて知る。戸惑い、悩む中で信仰している聖書の一節から、思いを態度で示せば誰かに届くことに気付き、これまで以上に作業に打ち込むように。次第に住民らとの距離も縮まった。
 ある時、ボランティア仲間の青年から「殺したいと思っていた」と打ち明けられる。青年は日本軍に家族を奪われていた。しかし懸命に働く木村さんの“態度”に「忘れることはできないがゆるすことはできる」と心境が変化。二度と悲惨な戦争を起こさないよう誓い合った。
 木村さんは人々への感謝を込め、帰国の船中で現地で聞いたメロディーに、歌詞を付けた。12番まである歌詞には全て「幸せなら」から始まる。「手を」「足を」動かしたり「泣こう」「笑おう」と感情を“態度”で示すことで、人と人との理解が生まれることをそっと訴えている。
 国際ジャーナリストの伊藤千尋さんが2021年に出版した著書でこのことを知った西岡さんは、「漫画で描きたい」と決意。コロナ禍で現地には行けなかったが、写真などを参考に街並みなどを描き、2年半かけ出版にこぎ着けた。西岡さんは「『手をたたこう』には、幸せのためには両手に何も持たず、武器を捨てよう、と行動を促すメッセージも感じる」と話す。
 漫画を監修した木村さんは「多くの人にアピールできる漫画で、長崎から平和のメッセージを発信でき、感慨無量。ウクライナやガザへの侵攻は、かつて日本がフィリピンにしていたことでもある。漫画を読み、そんな視点で今の状況を見てほしい」と期待を込めた。
 A5判160ページ。県内ではメトロ書店長崎本店などで販売中。いのちのことば社の通販でも購入できる。1540円。

漫画を監修した木村利人さん(本人提供)

© 株式会社長崎新聞社