幕を下ろした県下一周駅伝 親子の絆、次世代の選手… 長崎の「大運動会」が育んだもの

壱岐の8区川下和(郷ノ浦町漁協、左)から9区川下蒼(郷ノ浦中)へ親子リレー=雲仙市

 長崎新聞社主催で最後の開催となった第70回県下一周駅伝大会が28日、3日間の全日程を終えた。郷土の誇りを背負って県内各地を巡る「大運動会」は、地域に活力を与え、名ランナーを育て、家族や仲間の絆を育んできた。
 大会最終日の28日。40歳以上の壮年が走る8区と中学生区間の9区で、今年も恒例となっている「親子リレー」が実現した。
 壱岐チームの川下和明(44)=郷ノ浦町漁協=は高校時代から数えて24度目の出場。中学生になった息子の蒼希(13)=郷ノ浦中=との初めてのたすきリレーだった。
 「蒼希の顔が見えた瞬間、ぐっと来るものがあった」。両手でたすきを渡して息子を見送った。幼いころ、ロードワークに出る父の背中を追いかけたのをきっかけに走り始めた蒼希は「こんな機会はめったにないからうれしかった」。未来の箱根ランナーを目指す少年は目を輝かせた。
 父が名残惜しそうに続けた。「今までたくさんの思い出をもらった。県下一周に向かう日々が日常の一部だった。本当にいい大会だった」
 1952年、佐世保市-長崎市の93.4キロで始まった大会。当初は1日だけの開催だったが、回を重ねるにつれて規模を拡大した。走行距離とともに2日間、3日間と開催日数が増え、県本土を一周する現在のスタイルとなった。
 さらに89年の第38回に女子区間、99年に中学生区間、2007年に小学生区間を創設。子どもからシニアまで幅広い年代がチームを組む大会に発展した。選手からは仲間意識を育む場として、沿道の人にとっては自宅の近くをランナーが走る「早春の名物行事」として愛されるようになった。第1回からの出場人数は延べで約2万4千人に上る。
 今大会、区間賞2個を獲得した長崎の向晃平(27)=マツダ=は「社会人から子どもまで一体となれるのがこの大会のいいところだった。子どもたちは刺激を受けるし、社会人の自分にとっても、年下の子たちと触れ合うことで新鮮な気持ちになれる。そうやって次の時代の選手が生まれてきたんだと思う」と大会の意義を強調する。その言葉通りに、中学生区間を創設して以降、県内から3人の五輪選手が誕生、世界選手権出場者は6人に上った。
 一方、長年の懸案事項だった運営面の問題をクリアできず、節目の70回で区切りをつけることになった。25日の開会式で大会会長の徳永英彦社長は「誠に残念だが、本県長距離界の発展に資するとの目的を一定達成したと判断して幕を下ろす」と理解を求めた。
 28日午後4時前、ゴールの長崎新聞社前で、多くのチーム関係者や応援の人たちが最後の瞬間を見守った。涙を流す人の姿もあった。昭和、平成、令和と歴史をつないできた県下一周は、多くの県民に見守られながら、そして惜しまれながら幕を閉じた。

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