『春になったら』裏のキーマンは濱田岳? なぜか応援したくなる“カズマルくん”

売れない芸人、バツイチ、子持ち、東大中退……いざ並べてみると、一馬(濱田岳)は結婚相手として最適な人物だとは言えないかもしれない。雅彦(木梨憲武)が、瞳(奈緒)に「俺は結婚を認めねえからな!」と言うのもよく分かる。わたしも最初は、「助産師としてバリバリ働く瞳には、もっといい人がいるのでは? ほら、学生時代からの友人・岸くん(深澤辰哉)も、瞳のことを想ってくれているっぽいし……」なんて思っていた。

しかし、なぜだろう。回を重ねるごとに、“カズマルくん”のことが大好きになっていくのは。彼は、とにかく優しい。でも、優しいだけじゃない。ひとりで子どもを育て、一途に夢を追い続ける強さを持っている。瞳がそんな一馬を支えたいと思うようになったのは、必然だったのだろう。

わたしは、『春になったら』(カンテレ・フジテレビ系)の裏のキーマンは、濱田岳だと思っている。濱田が演じる一馬がどれだけ魅力的に見えるか。また、応援したいキャラクターでいれるかが、本作の成功の鍵を握っているのだ。

濱田は、つくづく不思議な俳優だなぁと思う。『プロポーズ大作戦』(フジテレビ系)のツルや、『HERO』(フジテレビ系)の宇野のようないじられキャラがいちばんハマるのかと思いきや、『VIVANT』(TBS系)で演じていたホワイトハッカー・東条のようなキレ者も、「濱田岳っぽいよね」となる。

最近だと、『マイファミリー』(TBS系)の東堂なんかは、濱田の凄みを再確認させられる役柄だったように思う。元刑事の東堂は、その推理力を生かして、娘が誘拐事件に巻き込まれて途方に暮れている親友の手助けをしていた。まるで自分ごとのように必死になって、事件を解決しようとする姿。「なんていい友達なのだろう……」と感動していたが、実はその娘を誘拐していたのは東堂だったという恐ろしすぎる結末に、呆然としてしまった。

いま思い出しただけでも、ゾワっとしてしまうような東堂の表情。しかし、なぜかサイコパスには見えなかったのは、濱田がその奥にある悲しみや苦しみを自分のなかで消化してから、台詞として吐き出していたからだと思う。この奥行きのある演技こそが、濱田岳という俳優の強みなのだ。

「ドンマイドンマイ! 僕は好きだよッ」

一馬のネタの決め台詞。これは、瞳が彼のファンになったきっかけの言葉でもある。文字にすると、「そんな単純な思考で生きられないわ!」なんて思ってしまうかもしれないが、一馬が言うとなぜだかスッと胸に入ってくる。それは、彼がただ楽観的に生きてきただけじゃないのが分かるから。

一馬はこれまで、幾度となく挫折をしてきた。小さいころから芸人になりたくて、でもなれなくて。周囲から「まだやってんの?」なんてバカにされて自信をなくしたり、自分のことが嫌いになってしまった夜もあったかもしれない。そんな時に、自分自身に向かって「ドンマイドンマイ! 僕は好きだよッ」と言い聞かせてきたのではないだろうか。この決め台詞を言うときの濱田の表情から、そんな背景を想像することができる。

1月29日放送の第3話、一馬はお笑い賞レース『D1グランプリ』に出場することになる。もし優勝すれば、雅彦に結婚を認めてもらえるかもしれない。これまでは2年連続で予選落ちだったが、今回こそ。瞳に幸せになってもらうためにも、全力で“カズマルくん”を応援したい。

(文=菜本かな)

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