都市のための自然SBTs 2025年に初期ガイダンス公開へ

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気候変動や自然に関する科学に基づく目標設定を推進するSBTネットワーク(SBTN)は、COP28(第28回気候変動枠組条約締約国会議)で、都市のための自然に関する科学に基づく目標設定(Science-Based Targets for Nature)の推進計画を発表した。最初に目指すのは、都市が気候・生態系システムに及ぼす影響を考慮した目標設定のための指標枠組みの策定だ。初期ガイダンスは2025年春には公開される予定だ。(翻訳・編集=小松はるか)

SBTNが参画するグローバル・コモンズ・アライアンス(GCA)の創設者パトリック・フリック氏は、「この取り組みは、都市、気候変動目標、自然資本関連目標との間の複雑な関係を理解するというすでに行われている努力と、併せて進めていく重要なものだ。SBTNの既存の取り組みを基盤としながら、都市が自然の喪失を止め、再生するという役割を果たすのに役立つだろう」と話す。

ネイチャーポジティブな都市・地域の実現

「都市のための自然に関する科学に基づく目標設定(以下、都市のためのSBTs for Nature)」は、企業や特定の産業が、生物多様性・環境にもたらす負荷を把握し、さらに健全性を守り、保全できるよう測定可能かつ科学的根拠に基づいた目標を設定できるよう支援するツールだ。COP28の議長国イベントでも、「都市のためのSBTs for Nature」は、地方自治体が土地や水を管理し、生物多様性を保全し、気候レジリエンスを高めるのに役立つ新たな取り組みとして紹介された。

「ネイチャーポジティブな都市・地域のための地域生態系の回復」と題したセッションでは、首長、政策決定者、ビジネスリーダーが集結し、自然に基づく解決策を推進する上で、都市・地域が果たす重要な役割について議論がなされた。また、ネイチャーポジティブな発展に向けて行動を起こすよう呼びかけられ、未来の課題に備えて都市を支援するための実用的なプロジェクトやツールが紹介された。

今回のプログラムのパートナー企業で、システム・チェンジを促進するコンサルティング会社メタボリック(アムステルダム)の創業者兼CEOのエヴァ・グラデック氏は、「この『都市のためのSBTs for Nature』によって、都市は、自然を気候変動対策や都市政策に統合することに、最優先課題として取り組むことになる。取り組みには、緑地・水域の創出や保全に向けた明確な目標を設定することも含まれている。また、気候変動・自然資本に関する科学に基づく目標を設定する都市は、生物多様性に関する地域戦略・行動計画(LBSAPs)や国の生物多様性戦略との連携や相乗効果を図るだろう」と語った。

なぜ都市には科学に基づく目標が必要か

世界人口の57%は都市に暮らしており、都市は世界的に環境に悪影響をもたらす最大の要因となっている。都市で暮らす人口は2050年までに68%にまで増加すると予想されている。米国では、建物を利用することで排出されるCO2の量が国全体の排出量のおよそ4割を占める。北米地域では、建物を低炭素化する改修を行っている割合は約1%だが、パリ協定に整合する気候変動目標を達成するには、少なくとも3倍に引き上げる必要があると予測されている。都市がもたらす直接・間接的な影響を、自然が支えきれる量に合わせる必要がある。

2022年のCOP15(国連生物多様性条約第15回締約国会議)で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」では、2030年までに生物多様性の損失を止め、反転させる国際目標が設定された。この目標は、企業や政府が世界的に取り組みを進めるカーボンニュートラルやネットゼロの目標とも関連しており、人類を持続可能で安全な未来へと導く羅針盤といえる。

こうした動きを背景に、地域や都市はネイチャーポジティブな発展を進める上で、非常に重要な触媒の働きをする存在として注目されている。都市向けの目標は、地球委員会(Earth Commission)が2023年に発表した「安全で公正な地球システム・バウンダリー」に沿って取り組みを進める上でも重要だ。

「都市のためのSBTs for Nature」は、ネイチャーポジティブな政策を取り入れ、かつ実践する上で、地方自治体や地方政府、その他のステークホルダーが果たす重要な役割を認識させ、温室効果ガスの排出量のネットゼロ化、生物多様性の向上、気候レジリエンスに関する取り組みを加速させることを目指すものだ。

SBTNは今回の取り組みを、エンジニアリング・コンサルティング会社の英Arup、CDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)、C40(世界大都市気候先導グループ)、英ダラム大学、ICLEI(持続可能な都市と地域をめざす自治体協議会)、ザ・ネイチャー・コンサーバンシー、WRI(世界資源研究所)、WWF(世界自然保護基金)などと連携して進める。

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