トランプはなぜこんなに強い?言動は問題だらけ、でも有権者は「違う部分」を見ていた…既に事実上の共和党候補に【混沌の超大国 2024年アメリカ大統領選①】

2024年1月23日、ニューハンプシャー州ナシュアで演説するトランプ氏(AP=共同)

 やっぱりドナルド・トランプ前大統領(77)は強かった。いよいよ開幕したアメリカ大統領選で、返り咲きを目指すトランプ氏が共和党指名候補争いの序盤2戦で連勝し、破竹の勢いを見せつけている。既に「事実上の共和党候補」だとの見方を疑う声はほとんどない。法や民主主義を軽視する言動で問題視されながらも、なぜ熱狂的な人気を集めるのだろうか。ポイントは、トランプ氏の「行儀の悪さ」だ。(共同通信ワシントン支局=比嘉杏里、武井徹)

※この記事は記者が音声「共同通信Podcast」でも解説しています

 ▽マラソンレース、心身ともにタフさ必要
 大統領選は、二大政党の民主党と共和党が候補者を絞り込む「指名争い」と、各党の指名候補が対決する「本選」の2段階で進む。トランプ氏は2022年11月に出馬を表明しており、選挙戦は長期にわたるマラソンレースだ。この間、一挙一動が耳目を集め続けるため、人並み外れた体力や精神力が必要になる。心身ともにタフでなければ、大統領にはなれない。
 指名争いは、州ごとの投票による「予備選」や話し合いによる「党員集会」を通じて候補者を絞り込む仕組み。共和党の勝者は7月の党大会で指名を受け、民主党の指名が確実視されている現職ジョー・バイデン大統領(81)と11月5日投票の本選に臨む。
 共和党のレースで、トランプ氏は1月15日に開かれた初戦の中西部アイオワ州党員集会と、23日の第2戦、東部ニューハンプシャー州予備選での得票率がいずれも5割を超えた。共和党支持者の7割がトランプ政権の復活を望んでいるとの世論調査結果もあり、もはや党内で向かうところ敵なしだ。
 共和党の有力政治家も続々とトランプ氏を推薦しており、早くも勝ち馬に乗ろうとする動きが広がっている。100人で構成する上院に共和党議員は49人いるが、トランプ氏支持を打ち出したのは既に30人を数える。

アイオワ州デモインの教会で開かれた共和党員集会で、トランプ氏の名前が書かれた投票用紙=2024年1月15日(共同)

 ▽「強い大統領」、再選なら初日だけ独裁者?
 トランプ氏の力の源泉は「米国を再び偉大に(Make America Great Again)」というスローガンの頭文字を取り、「MAGA(マガ)」と呼ばれる岩盤支持層の存在だ。
 暴言にも悪びれず、職業政治家を「無能」と一刀両断し、政治の現状に憤る大衆の心をわしづかみにする異端児トランプ氏。支持者にとっては、南部国境から流入し続ける不法移民の問題を解決し、長引くインフレを克服できるリーダーに映る。「米国第一主義」に歓喜し、酔いしれる傾向は、移民流入によって近い将来、米国で少数派になることに焦燥感を募らせる白人層の間で特に強い。
 トランプ氏は、ホワイトハウスに戻れば「初日だけ独裁者になる」と権力乱用を示唆して民主党側で物議を醸したが、こうした発言も支持者にはどこ吹く風だ。
 アイオワ州に住むバーバラ・アルビンさん(78)は手放しで評価する。「トランプ氏は強い指導者。国境の問題を完全決着できる」。2016年、2020年もトランプ氏に投票した。

2024年1月23日、ニューハンプシャー州ナシュアで、トランプ氏の登壇を待つ支持者ら(AP=共同)

 トランプ氏は議会襲撃や私邸への機密文書持ち出しなど四つの事件で起訴され、性的暴行の被害を訴えた女性作家への名誉毀損などの民事訴訟も抱えている。それでもMAGAは意に介さない。バイデン民主党政権による「政治的な魔女狩りだ」と信じて疑わないからだ。
 バイデン氏が当選した2020年の大統領選はそもそも不正で、トランプ氏の勝利が民主党に「盗まれた」との思いの共有も結束を強くしている。
 実際は選挙不正の主張には根拠がない。民主党は繰り返し「トランプ氏の主張はうそだ。民主主義を軽視し、アメリカを危うくする」と訴えている。だが、トランプ氏の支持者には関係ない。起訴や訴訟は誰も気にしないし、民主党が反論すればするほど、トランプ氏支持者の結束は固くなるという構図が続く。

2024年1月23日、バージニア州マナサスで演説するバイデン氏(ロイター=共同)

 ▽輝きを増す過去、バイデン氏がアメリカをだめに?
 4年に一度の大統領選では、こんな問いかけが繰り返される。
「4年前と比べてアメリカは良くなっただろうか」
1980年の大統領選で共和党のロナルド・レーガン氏が、現職だった民主党のジミー・カーター氏とのテレビ討論で国民に向かって訴えた言葉だ。
 「みなさんには投票所で、4年前よりも自分は恵まれているのか自問してみてほしい。4年前と比べて、買い物は楽になっただろうか。失業率は4年前より増えているのか、減っているのか。アメリカは以前と同じように世界で尊敬されているのか。治安は4年前と同じくらい安全だろうか」
 レーガン氏が発した本質的な問いは、カーター氏の再選の望みを打ち砕く一撃となり、その後の選挙でも現職に挑戦する各陣営が繰り返し使ってきた。
トランプ氏の復権を待望する有権者らは口をそろえる。「トランプ政権の4年間は、ウクライナや中東での戦争がなかった。アメリカが強かったからだ。国内のインフレも含め、バイデン政権になってからやっかいな問題が山積みになった。バイデン氏が弱いからだ」

1986年12月、ホワイトハウスで、愛犬を抱えた妻ナンシー氏と歩くレーガン氏(AP=共同)

 2021年1月に発足したバイデン政権の下で雇用は堅調で、アメリカ経済は底堅い成長を続けている。だが有権者が持つのは、世界はより危険になり、米国は弱く、貧しくなったという感覚だ。
 「不動産王」として名を成し、セールスマンシップに秀でるトランプ氏は、事実にとらわれない宣伝やマーケティングの達人だ。「バイデン氏がアメリカをだめにした」との認識を有権者心理にすり込み続けており、こうした戦略が効いている。
 ロシアの横暴な振る舞いやパレスチナ自治区ガザを巡る悲劇、米国との対話を無視する北朝鮮のニュースを耳にし、米国内では景気が好調だとされながらも増え続けるホームレスを目にする国民は以前を懐かしみ、トランプ政権という過去が輝きを増す。
 バイデン政権は「米国は前進している」と訴えているが、「米国第一」を掲げるトランプ氏に酔いしれる有権者には響かない。
 半世紀以上、アメリカ政治を見つめてきたアイオワ州立大のステフェン・シュミット名誉教授はこう指摘する。「バイデン氏はインフレ対策や雇用創出などの実績をうまく示せておらず、現職の強みを生かせていない」

 ▽あざ笑うトランプ氏、溜飲下げる支持者
 現在、トランプ氏との指名争いに踏みとどまっているのは、ニッキー・ヘイリー元国連大使(52)だけになった。南部サウスカロライナ州でインド移民の子として生まれ、同州初の女性知事を経て、トランプ政権で国連大使を務めた人物だ。
 「本選でバイデン氏に勝てるのは私だけ」。トランプ氏の過激な言動を快く思わない共和党穏健派や、インディペンデントと呼ばれる無党派層を引きつけ、じわりと支持を伸ばしてはいるが、トランプ氏に追いつけていない。
 ヘイリー氏はニューハンプシャーで敗北した1月23日夜、「戦いの終わりには、ほど遠い」として選挙戦の継続を力強く宣言した。故郷サウスカロライナの予備選がある2月24日まで持ちこたえられるかが目下の焦点だ。

2024年1月23日、ニューハンプシャー州コンコードで演説するヘイリー氏(ロイター=共同)

 トランプ氏の指名獲得が濃厚になるにつれ、ヘイリー氏が資金集めに苦労し、撤退を余儀なくされるとの観測は根強い。サウスカロライナはトランプ氏支持のキリスト教右派の福音派が多く、ヘイリー氏は地元とはいえ旗色が悪い。自身の知事時代に副知事だったヘンリー・マクマスター現知事がトランプ氏支持を表明したことも逆風になっている。
 トランプ氏は同じ1月23日夜、指名争いから脱落した黒人のティム・スコット上院議員や、インド系の実業家ビベック・ラマスワミ氏を背後に従え、余裕の表情で勝利を宣言した。ヘイリー氏について「『勝つ、勝つ、勝つ』と言っていたのに、大敗したじゃないか」とあざ笑った。
 こうした歯に衣着せぬ物言いが、ポリティカル・コレクトネス(政治的建前)を求めるリベラル派にうんざりし、行儀の良い政治を嫌う人々の心の琴線に触れている。
指導者としての振る舞いに賛否は分かれるが、今のアメリカのかなりの数の国民が、少なくともトランプ氏の言動に溜飲を下げているのは間違いない。それが、有権者の熱狂を得られず、さえないバイデン氏との最大の違いだ。
 2020年の大統領選に続いてトランプ氏とバイデン氏の再対決になる場合を想定した世論調査で、政治サイト、リアル・クリア・ポリティクスが集計した全米支持率の平均は2月5日時点でトランプ氏が46・7%、バイデン氏が44・6%。トランプ氏が2・1ポイントリードしている。

 トランプ氏はバイデン氏を破り、再びホワイトハウス入りするのだろうか。私たちは今後も大統領選の動きを随時、報告していく。

© 一般社団法人共同通信社