【バレーボール】五輪、世界選手権、ワールドカップ。国際大会の”格”すっきり解説

日本男子は2023年ネーションズリーグで3位に入った=FIVB公式サイトより、以下すべて

2024年が始まりました。今年はパリ五輪が7月26日から8月11日まで開催されます。そのうちバレーボール(インドア)男子が7月27日、女子は7月28日に競技が始まり、男子決勝は8月10日、女子決勝は五輪閉会式と同日の8月11日。会場はパリ南アリーナ(ポルト・ド・ヴェルサイユ見本市会場)です。バレーボール男子日本代表は2023年秋に行われた五輪予選(ワールドカップ)で16年ぶりに自力で五輪出場権を獲得しました。一方、日本女子はこの大会で出場権を獲得できず、2024年6月時点での世界ランクによって五輪に出場できるか否かが決まります。

バレーボールを取材していると、五輪を頂点としたバレーの数ある国際大会がいろいろあり過ぎて、それぞれがどういう格付け、位置づけなのかわかりにくいという声をよく耳にします。

今回はそんな疑問に応えて、バレーボールの国際大会を解説していきます。

オリンピック:世界最高峰の大会、出場男女各12か国

バレーボール界で最もプライオリティが高いのはオリンピックだ。世界選手権、ワールドカップと合わせ、バレーボールの国際三大大会とされる。男女とも1964年東京オリンピックから正式競技となり、女子バレーは五輪競技に採用された最初の女子団体競技だ。

オリンピックには男女それぞれ12カ国しか出場できない。開催国で一枠。(パリ五輪は男女ともフランス)。その他11枠をかけて熾烈な戦いが繰り広げられるが、パリ五輪に関しては、男女とも昨秋の五輪予選(ワールドカップ)で6か国ずつが出場権を獲得した。残る枠はそれぞれ5枠で、2024年6月時点のFIVB(国際バレーボール連盟)ランキングで決まる。

出場資格は年代により変化してきた。2016年までの数回は、オリンピックの前年に行われるワールドカップで上位3チーム(2015年は2チーム)が出場権を獲得できた。それ以外は各大陸予選と世界最終予選で選出されてきた経緯がある。 

最も歴史ある「世界選手権」 

2022年の男子バレー世界選手権では、イタリアが4回目の優勝を果たした

そして世界選手権。これはバレー界で最も歴史があり、規模も大きい。4年に一度世界各地で開催されてきた。1998年と2006年に男女とも日本で開催され、女子は2010年、2018年も日本で開催されている。ただ、男子は2006年を最後に日本開催はない。FIVBは2025年から2年に1回と頻度を増やし、オリンピック出場権を獲得する大会にする予定だ。 

ワールドカップ:男子は1965年スタート

FIVBパリ五輪予選/ワールドカップ2023、日本-ブラジル戦=2023年9月24日

ワールドカップというと、サッカーのそれを指すのが一般的かもしれない。ラグビーワールドカップも有名になってきた。2023年はバスケットのワールドカップも日本の沖縄開催で名前を上げた。しかし、Jリーグが開幕する1993年以前は、日本でワールドカップといえば、サッカーに先んじてバレーボールだった。

バレーボールのワールドカップは、4年に1度開催される、オリンピックと世界選手権の間を埋めるための第3の国際大会として、1965年男子大会からスタートした。

歴史的には世界選手権が最も古い。男子の第1回が1949年、女子が1952年にスタート。オリンピック競技として採用されたのが1964年の東京五輪(「東洋の魔女」優勝の大会)。ワールドカップと合わせて世界3大大会と呼ばれるようになる。

女子ワールドカップは1973年からスタートした。当初予定されていたチェコスロバキア大会が経済的事情やその他の理由で開催できなくなり、1973年の第1回はウルグアイで開催された。

1977年からは男女とも日本で開催されてきた。このとき日本は女子が優勝、男子が準優勝した。またフジテレビがゴールデンタイムに日本戦を放映したこともあり、大会が非常に盛り上がった。 

そしてFIVB(国際バレーボール連盟)の幹部も治安、会場運営の良さ、テレビ放映での盛り上がりなどで日本開催が大成功に終わったことをことのほか喜び、日本バレーボール協会、フジテレビとも協議して2019年まで恒久開催となった。しかし「日本恒久開催」という文言はどこにもなく、毎回次の大会の開催について契約を交わし、暗黙の了解のもと、日本開催が続けられるという状況であった。 

1995年からワールドカップにジャニーズ登場

1995年からはジャニーズ事務所とのタイアップが始まり、V6がデビュー。このあと嵐、NEWS、Sexy Zoneといったジャニーズの「デビュー」の場としてジャニーズファンや芸能メディアからも注目されるイベントとなった。同時に、多くの批判を呼ぶことにもなった。2011年にはコート上でのパフォーマンスがなくなったが、「FIVBが神聖なコート上でのパフォーマンスを禁止した」というデマが飛び交った。筆者が当時JVAに直接問い合わせたところ「そういった事実はありません」とのことだった。 

2019年にはワールドカップ上位国にオリンピックの出場権を与えるシステムがなくなり、事実上この大会が従来のワールドカップの終えんとなった。2023年に開催された大会も日本では「ワールドカップ」と呼称されていたが、パリ五輪予選を3か所にわけて行われたうちの日本開催の大会というのが俯瞰した立ち位置であった。大会アンバサダーはジャニーズ事務所のタレントではなく、「 Mrs. GREEN APPLE」となった。 

ネーションズリーグ:毎年開催

このほか、毎年開催される世界大会として「ネーションズリーグ」がある。これは16カ国で6カ国ほどずつに分かれて予選ラウンドが行われ、ファイナルラウンド(トーナメント制)で決勝まで進む。これは前身が男子は「ワールドリーグ」といって世界的なホーム&アウェイで行われた。

女子は「ワールドグランプリ」という大会で、アジアを中心に数カ国を回って行われた。ホーム&アウェイの場合は当然参加国はどの国もホーム大会がある。ワールドグランプリも開催可能な国が限られていたため、日本が開催地の一つとなることも多かった。これらはランキングポイントはつくが、五輪出場権には直結しなかった。パリ五輪に向けてはランキングによって出場権が決まるため、2024年のネーションズリーグはヒリヒリするような戦いが繰り広げられるだろう。 

「アジア大会」と「アジア選手権」は似て非なるもの

2023年杭州アジア大会で銅メダルを獲得

アジア大会は4年に一度開催される総合大会でOCA(アジアオリンピック評議会)が主催する、いわばアジア版オリンピックだ。バレーボール以外にも、陸上や水泳など各競技が開催される。2023年は中国・杭州で行われた。バレー日本代表は柳田将洋主将のB代表で銅メダルを獲得。FIVBと関係ない大会。本来はオリンピック中間年に行われるが、コロナ禍のため延期されていた。 

アジア選手権はこれまでは4年に1度行われてきたバレーボールのみの大会。2023年度はA代表が出場し、10年ぶりに優勝した。FIVB管轄の大会で、ランキングポイントに反映される。アジア選手権は今後2年に1度の開催となり、五輪前の優勝国には大陸代表としてオリンピック出場権も与えられる。このほか「アジアカップ」という大会もあるが、ランキングポイントには関係がない。

消えた大会:「グラチャン」1993年~2017年 

2017年のワールドグランドチャンピオンズカップ(グラチャン)でプレーする山内晶大

すでになくなった大会についても解説しよう。2017年まで4年に1度「ワールドグランドチャンピオンズカップ」という世界大会が日本で行われていた。こちらは歴史がだいぶ浅く、1993年に第1回が開催された。五輪翌年に行われ、参加チームも6カ国と少なくランキングポイントがつかないため、五輪を一区切りにした各国代表が世代交代のために活用した大会というイメージが強い。 

この大会は略称「グラチャン」と呼ばれ、日本テレビ系列が放送した。日本テレビでは五輪、世界選手権、ワールドカップにこのグラチャンを加えて「世界4大大会」と称していた。2009年大会で男子日本代表は銅メダルを獲得している。このため2023年ネーションズリーグで男子日本代表が銅メダルを獲得したことをカウントするかしないかによって、「主な世界大会では」〇〇年ぶりという解釈が揺れた。大会は2017年を最後に廃止された。 

「ワールドスーパーバレー4」「日ソ対抗」「日米対抗」

「ワールドスーパー4バレー」という大会もあった。1988年から1996年にかけて偶数年に日本で開催された。テレビ朝日系列で放映。1998年に世界選手権を日本で開催することになり、96年をもって終了した。これ以降テレビ朝日ではオリンピックを除き地上波でインドアバレー放送を一切行っていない。80年代は世界選手権の放映権をテレビ朝日が持っていたが、TBSに移行した。 

この他に日ソ対抗、日米対抗という親善大会があった。日本とソビエト連邦、アメリカが連日親善試合を行うもので、NHKなどが放映した。 

大きかった松平康隆氏の存在

これまでバレーボールの国際大会がとりわけ日本で開催される機会が多いとの指摘をよく耳にしてきたが、上記のような経緯を鑑みると、事実と言える。

しかし一部の批判で言及されているように「日本マネーで買い叩いた」という事実はない。むしろ、ワールドカップ女子の第1回大会が会場変更されたように、世界情勢が危ういときにも安定的に日本がホスト国として務めを果たし、それにFIVB側の思惑が合致した。

またミュンヘン五輪金メダル時の監督であった故松平康隆氏がFIVB副会長であり、大会招致の役割を果たしたことも大きかった。監督としてだけではなく、バレーボールを日本でも世界でも認知普及を高めようと苦心した松平氏は、テレビ局ごとに大会をもたせる「テレビ行政」を行って、日本国内でのバレーボールのテレビ放映を増やした。

賛否両論あったジャニーズとの提携だが、発案は当時のフジテレビのスポーツ局員だった。おそるおそる当時の協会会長であった松平氏に相談に行くと「いいじゃない。少しでも観客、視聴率を上げられるならもちろん構わない。そういうのを待っていたんだよ」と諸手を挙げて賛同してもらったという。 

松平氏がスキャンダルなどで一線を退いたあと、いろいろなきしみが表面化した。一局に独占放送させる方式は、その局では大いに取り上げてもらえるが、他局にはスポーツニュースですらとりあげてもらえないという事態を招いた。ジャニーズとの提携は多くの男性からバッシングを浴びた。「日本でばかり」という批判も多くなった。 

「日本開催」意義と誤解

日本で開催されたパリ五輪予選/ワールドカップ2023。写真は東京での日本ーアメリカ戦

親善試合を国内で行うことは特に悪いことではないと筆者は思う。サッカーで言うなら「キリンカップを日本でばかりやっている!」ということにでもなろうか。代表戦を毎年国内で見られるのは、認知の意味では意義が大きかったと思う。ただ、関係者から「毎年国内でゴールデンタイムで放映があると、世代交代や若手を試すことができない。ゴールデンタイムで惨敗してしまうことのデメリットもかなりある」という苦悩も聞いた。 

またワールドリーグの世界的ホーム&アウェイシステムを理解してもらえない一部からバッシングを招いた。ホーム&アウェイであるからにはどの国もホーム開催があるが、これも「日本でばかり」と誤解して非難されることがあった。世界選手権については、男子は2006年を最後に日本開催はない。2010年、2018年にイタリア、2014年、2022年にポーランドと、こちらのほうが頻繁に開催されている。それには誰も目を向けていない。 

2023年のワールドカップ終了後、スポーツ紙から「今後のワールドカップのフジテレビ中継は白紙?」という記事が出て、心底驚いた。正式にはワールドカップは2019年の時点で終了しており、今大会は便宜上「ワールドカップ」という名称を使用したというのがバレー関係の報道陣の暗黙の了解だったためだ。これを掲載した運営に問い合わせたところ返信はいただけなかったが記事はすぐに消えた。変化が大きくてメディアもついていくのが大変なのが実情だが、正確な情報を発信していければと思う。 

女子日本代表は2024年のネーションズリーグでランキングポイントを稼ぎ、アジアトップ、またはアジアトップとアフリカトップを除いた上位3チームに入れば出場権を得られる。ランキングポイントのシステムも2020年に大きく変わったのだが、それについてはまた稿を改めたい。(Pen&Sportsコラムニスト・中西 美雁

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