【特集】パーキンソン病の症状をボクシングで改善を 元プロボクサーが施設を開業 高松市

手や足が硬直するなどして体がスムーズに動かせなくなる「パーキンソン病」。その症状を「ボクシング」で改善しようというリハビリが世界中で広がっています。高松市にはこのリハビリで多くの患者の助けになろうと取り組む男性がいます。

2023年12月、高松市の病院に集まったのは「パーキンソン病」と診断された患者ら12人。背中が丸まっていたり、歩幅が小さかったりと、体が固まってスムーズに動かせなくなっています。

(パーキンソン病と診断された患者は―)
「首と肩がキーンってなって、猫背のようになってしまう」
「だんだん動かなくなってきた。薬が切れた段階では、体がほとんど動かないので手が震えたりとか」

それでもグローブをはめると……。

力強いパンチを次々とミットに打ち込みます。前へ踏み込むステップは、歩く時より素早く、スムーズです。

(リハビリに参加した患者は―)
「楽しいです。憂さが晴らせるっていうか、上手なんですよ、『パン』って音を立てて受けてくださるので、本当に気持ちがいい」
「人を殴るのは初めてやから気持ちがいいですね(笑) 家におっても、こんなに笑ったりはしゃいだりすることないですからね」

(ボクシング療法の教室を開く/松本健嗣さん)
「みんな強いです。素晴らしい、激しいでしょ(笑)」

パンチを受けているのは理学療法士の松本健嗣さん(39)。2022年4月から月に1回ほどこのリハビリ教室を開いています。

(松本健嗣さん)
「(パーキンソン病には)どうしても体が丸くなって縮こまってしまうという症状があるんですけど、パンチを出すことで体がしっかり伸びてくる。一番いいところは、うつ病だったり、気持ちが内向的になってしまうのを発散させること」

「パーキンソン病」は体が動きづらくなるとされる指定難病で、日本には10万人あたり100人から180人の患者がいるといわれています。現時点で病気を根本的に治す方法は開発されていません。

そんな中、症状を少しでも改善させようとアメリカで開発されたのが、ボクシング療法「ロックステディ・ボクシング」です。
日本で初めて教室を開いた神戸市の団体によりますと、現在では世界10カ国以上で取り組まれているということです。
日本神経学会のガイドラインでも「運動療法」は強く推奨されています。

リハビリのメニューを参加者に伝える松本さんはただの理学療法士とは思えない素早いステップと強烈なパンチをみせます。

実は香川県で初めて高校在学中にライセンスを取得した元プロボクサーなんです。

(松本健嗣さん[当時高3])
「敵のパンチをかわしながら相手の嫌がるボクシングをして、最終的に僕が勝ちたいです」

155cmと小柄な松本さんは相手の懐に潜り込んで、じわじわと相手を弱らせるスタイルを得意としていて、ついたリングネームは「讃岐の白蟻」でした。

(松本健嗣さん)
「最後の3戦くらいで改名があったんです。当時の会長の息子さんが『シロアリじゃかわいそうだから、リングネーム、暴れ龍にしてあげたら?』ってなって、最終的に僕は『讃岐の暴れ龍』」

松本さんは通算11試合を戦い5試合で勝利しましたが、けがをきっかけに26歳で引退しました。

その後、理学療法士になりパーキンソン病の患者のリハビリを支援する中で「ボクシング療法」と出会いました。

(松本健嗣さん)
「まさか医療でボクシングっていう名前が出てくると思わなかったので、見つけた時に『あっ』て思いましたね。自分だからこそできることかなと」

すぐに「ボクシング療法」のトレーナーの資格を取得し、教室を始めた松本さんは、これまで20人以上の患者のパンチを受けてきました。

そして2024年1月、松本さんは「次のステップ」を踏み出しました。

(松本健嗣さん)
「ワンツーいきましょう!」

高松市にデイサービスを兼ねたメディカルフィットネス施設を開業。中にはボクシングリングを設置しました。

(リングに入った男性)
「気合が違いますね。気合が入ります」

リングの設置費用130万円のうち、50万円はクラウドファンディングで調達。

ロープを簡単に取り外せるものにしたり、床をクッション素材にしたりするなど、どんな人でも利用しやすいようにしました。

(松本健嗣さん)
「病気だからできないだろうとかじゃなくて、どんな方でもリングに上がったら、その人がそこでのスターになれる。こういうところから 健康を発信できるような場所になってくれたら」

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