川勝知事の「嘘」の根源は静岡県庁の機能不全|小林一哉 新年早々、川勝知事はリニア妨害宣言をし、リニアにとっては苦難の一年になるだろう。なぜ、川勝知事は、平気で「嘘」を繰り返すのか――。

昨年もリニア妨害宣言

「南アルプス保全は2037年のリニア全線開通までに解決すればいい」

静岡県の川勝平太知事は、ことし1月1日付新聞各紙の新春インタビュー記事でそう述べた上で、1月4日の新年会見、15日の定例会見でも「(リニア開業は)2027年のくびき(縛り)がなくなった。2037年がデッドライン(最終期限)」だから、「南アルプスの問題は2037年までに解決すればいい」と発言した。

すなわち、知事任期中(2025年7月まで)はリニア問題の解決はなく、静岡工区着工の許可を棚上げすると宣言したのである。
2024年もリニア妨害に徹することは、1月12公開の『新年早々、川勝知事の「リニア妨害」宣言!』で詳しく紹介した。

ただもう一度、今回の知事発言を確認してみると、そうか、これでは昨年と全く同じではないか、と気づかされた。筆者は昨年、一昨年の取材メモを取り出してみた。

昨年1月4日の新年会見では、田代ダム案をやり玉に挙げて、川勝知事は「(水利権について)当事者でもない(JR東海が)、水利権について当時者である東京電力との関係を明らかにされる必要がある」など、やはり年頭からリニア妨害に徹することを宣言していた。

つまり、リニアの水環境問題解決でカギを握る田代ダム案は、水利権に絡むから河川法違反に当たるとして、認めない姿勢を明確にした。

この結果、2023年1年間を通じて、田代ダム案が何度も議論の中心となり、静岡県とJR東海の間でいたちごっこが繰り返された。

田代ダム案とは、山梨県側からのトンネル掘削工事で、湧水が県外流出する約10カ月間、東京電力RPに田代ダム取水分の約5百万トンを抑制、大井川にそのまま放流してもらう、川勝知事の要求する「全量戻し」の解決策である。

東電RPは毎秒4・99トンの水利権を有し、単純に計算すれば、日量約43万トン、月量約1300万トンという膨大な水を静岡県から山梨県に放出している。リニア工事による県外流出など取るに足らない量でしかない。

田代ダム案は、毎秒0・2トン程度の取水抑制だから、東電RPにとって何らの問題も生じない。
こうした状況を踏まえた上で、JR東海は2022年4月、東電RPの内諾を得た上で田代ダム案を提案した。

東電RPは、田代ダム案が「水利権」に絡まないことを利水者らに理解してもらう条件をJR東海に託した。

川勝知事の「嘘」に踊らされ

2022年夏、田代ダムを視察した川勝知事(静岡市、筆者撮影)

しかし、提案直後から、川勝知事は「JR東海は関係のない水利権に首を突っ込んでいる」、「突然、水利権の約束を破るのはアホなこと、乱暴なこと」などとんでもない勘違いをしたかのように、田代ダム案に強く反発した。

同年8月に田代ダムの現地視察を行い、川勝知事は「田代ダム取水抑制案はJR東海の地域貢献であり、リニア工事中の全量戻しにはならない」という発言に終始した。

その後の会見の度(たび)に、「全量戻しとはトンネル掘削中に出る水を戻すということ」など訳の分からないことを繰り返して、田代ダム案を否定した。

JR東海は同年10月31日、12月4日の2回にわたる県地質構造・水資源専門部会で「田代ダム取水抑制案」が水利権にからまないことを詳しく説明した。また国土交通省が、田代ダム案が水利権に関わる河川法に触れないとする政府見解を示した。

さらに、流域10市町の首長らが加入する大井川利水関係協議会でも田代ダム案を高く評価する意見が続出した。

当初、川勝知事が単なる“勘違い”をしているだけなのだろう、と思われた。担当の森貴志副知事はじめ事務方がちゃんと説明すれば、川勝知事の誤解も解けると甘く見ていた。

県専門部会はじめ大井川利水関係協議会の議論を、担当者が丁寧に説明すれば、知事も理解できるはずだと期待した。
しかし、川勝知事は、同年12月16日の会見で、「田代ダム取水抑制案は別の事柄(JR東海の地域貢献)、南アルプストンネル工事と結びつくものではない」とし、さらに12月27日の会見で、「全量戻しは掘削中に出る水をすべて戻すことであり、田代ダム取水抑制案は全量戻しとは違う認識」などとあらためて否定した。
そして、2023年1月4日の新年会見で、田代ダム案は水利権と絡む河川法違反を繰り返したのだ。ここまで来ると驚き、あきれて言うべき言葉もなくなった。
ついには川勝知事の「嘘」に踊らされていることに気づくしかなかった。

この結果、2023年の1年間、同じような議論が繰り返された。その度に、川勝知事が決まりきったように田代ダム案を水利権と結びつけて否定した。

意味のない、らちのあかない状態を招き、1年間を終えた。

川勝知事に事務方が何らの進言もできない状況だけが明らかになった。県庁組織は機能不全に陥っているのか、川勝知事の「嘘」をそのまま受け入れることで、機能不全の状態をよしとしているのかのいずれかである。

静岡県庁の怠慢

今回の「リニア問題は2037年までに解決すればいい」はどうか?

まず、昨年12月県議会で、川勝知事は「リニア問題の解決策は『部分開業である』」と断言した。「開通できる状況になった区間から開通させることが解決策となる」などと説明した。

当事者のJR東海が否定しているのに、事務方は、川勝知事の「部分開業」論を県の公式見解とした。

事務方は、「事実」か「虚偽」かお構いなしで、川勝知事の主張をそのままに発信することが役割だと思い込んでいる。

昨年12月26日の会見で、川勝知事は「JR東海は、名古屋間までは2027年までにつくると言っていた。名古屋までは2027年以降とされたが、それ以上伸ばしてはいけない期限がある」として、「全線開通2037年」をJR東海の守るべき最終期限としてしまう。

東京・品川、名古屋間の2027年開業は実施計画として、国の認可を受けている。

しかし、静岡工区の着工ができないことを理由に、JR東海は昨年12月に2027年から「2027年以降」に開業変更を申請して、国の認可を得た。

2037年大阪までの開業は、JR東海の目標としていただけに過ぎない。

名古屋開業を経て、ようやく名古屋以西の着工が始まる。どう考えても、2027年名古屋開業が伸びれば、2037年大阪までの開業も延期せざるを得ないことがわかる。

しかし、川勝知事に掛かれば、「リニア全線開通で2037年は伸ばしてはいけない期限」となり、知事発言がそのまま新聞、テレビで報道される。

1月24日静岡市で開かれたJR東海の会見(JR東海提供)

次から次へと嘘を繰り出し

「リニア問題は2037年までに解決すればいい」は一人歩きしてしまい、県民らに多大な誤解を与えている。

JR東海の会見で記者たちの質問が集中するから、丹羽俊介社長はさまざまな知事発言を打ち消すことに躍起となった。

このため、JR東海は1月24日、静岡市で記者会見を開いて、報道各社に正確に事実を伝えてもらえるよう要請した。ただ、これが火消しとなるのかどうかわからない。

実際には、昨年の田代ダム案同様に、川勝知事だけでなく、静岡県庁全体の問題だからである。

2022年8月発刊した拙著『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太静岡県知事「命の水」の嘘』(飛鳥新社)第2章「静岡県庁のごまかし全内幕」で、静岡県職員らのとんでもない事例を紹介した。

職員たちが率先して、リニア妨害の「嘘」に加担しているのだ。

これではいつまでたっても静岡県のリニア議論は終わらない。

このままでは、ことし1年間も、川勝知事の新たな「嘘」に踊らされ、振り回される。次から次へとびっくりするような「嘘」が繰り出され、リニア問題が解決へ向かうことなどありえない。

リニア開業を遅らせる静岡工区未着工の責任を問われる川勝知事の“悪名”が歴史にしっかりと刻まれるのは間違いない。しかし、それもいつになるのかわからない。

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小林一哉(こばやし・かずや)

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