映画「ガンダムSEED FREEDOM」を「SEED」リアタイ世代のライターがレビュー――「DESTINY」最終回で抱いていたモヤモヤが綺麗に消えた

2002年と2004年にそれぞれTVアニメが放送され、共に大きなムーブメントを巻き起こしたTVアニメ「機動戦士ガンダムSEED」(以下、「SEED」)&「機動戦士ガンダムSEED DESTINY」(以下、「DESTINY」)。いよいよ公開がスタートした映画「機動戦士ガンダムSEED FREEDOM」は、「DESTINY」の2年後を描く「ガンダムSEED」シリーズ最新作です。

いよいよ公開日を迎えた「機動戦士ガンダムSEED FREEDOM」ですが、ここに至るまでは本当にいろいろな紆余曲折がありました。

元々「ガンダムSEED」シリーズの劇場版自体は2006年頃に一度発表されていたのですが、そこからガンダムシリーズも次々と新作が制作されていく一方、「SEED」劇場版については目立った続報が一切ないまま。ファンの誰もが、もう劇場版が作られることはないだろうと諦めかけていました。

そんな中、2021年からスタートした放送20周年記念プロジェクト「GUNDAM SEED PROJECT ignited」にて、劇場版の製作が決まったことが改めて告知。その後もPVや公開日などが順調に発表されていき、今日に至ることになります。

筆者はリアルタイムで「SEED」のTV放送を観ていた直撃世代のファンでして、劇場版の発表から公開までの流れも、ずっとハラハラしながら見守っていました。そうした古くからの熱心な「SEED」ファンの視点にはなりますが、実際に劇場版を観ての見どころと感じた部分を紹介していければと思います。

※レビュー記事につき、ネタバレありのためご注意ください

■「DESTINY」から2年、デュランダル亡き後の混迷に戻った世界が描かれる

本作の舞台となるのは、冒頭でも触れた通り「DESTINY」の2年後の世界。「DESTINY」の終盤では、遺伝子から人間のやるべきことを決める社会を作る計画である「デスティニープラン」をギルバート・デュランダルが提唱。キラ・ヤマトやラクス・クラインはそれを否定し、自由な世界を勝ち取るために戦うという、「デスティニープラン」という計画を中心にストーリーが展開されていました。

最終的にはキラたちによってデスティニープランは否定されたのですが、放送から20年近く経った現在でも、キラ達がやったことは本当に正しかったのか、ファンの間で議論が定期的に起こるくらい、視聴者がいろいろな感じ方をする作品が「DESTINY」でした。

冒頭でも触れた通り、劇場版で描かれるのはその2年後。デュランダル亡き後、世界では戦争がなくなることはなく、地球連合とザフトの間の戦いが終結した後も、ブルーコスモスは今もコーディネーターの排除を訴えて各地で暴動やテロを起こしています。

「DESTINY」最終話で「覚悟はある。僕は戦う」とデュランダルに表明した通り、キラはザフト・連合・オーブが協同で設立した世界平和監視機構「コンパス」のMS部隊の隊長として戦い続けていますが、いくらキラが圧倒的な力でテロを鎮圧しても、戦いがなくなることはありません。

これはデュランダルが予期した通りの流れであり、キラたちはデスティニープランを否定し、戦いがあっても自由な世界を選んだ決断は、本当に正しかったかという問題に直面します。劇場版では、こうした「DESTINY」からの流れをしっかりと受け継いだドラマが描かれることになります。

これは他の項目にも関わってくるのですが、劇場版では「DESTINY」でやり残していたことを描く、というのがテーマにもなっている印象でした。

キラとラクスの恋愛模様など、キャラクターのドラマについてもそこは同じで、「DESTINY」の時にいろいろな感情を抱いた人ほど楽しめる作品になっていると感じました。

あんまり内容を覚えていない……という人は、総集編にあたるスペシャルエディションや、ガンダムチャンネルで公開されている、西川貴教さんがナレーションを務める「SEED」および「DESTINY」の振り返り動画をチェックするのがオススメ。ミゲルやハイネを贔屓する西川さんならではの面白いナレーションもありつつ、本編の内容が40分くらいの尺にかなりうまくまとめられています。

■驚きのMSや懐かしいキャラの登場もあり、画面情報量とファンサービスが凄い

個人的に圧倒されたのが、その画面情報量の多さ。劇場版では、主役格以外にも「SEED」「DESTINY」から引き続き多くのキャラクターが登場しています。主に活躍するのはキラをはじめとするコンパスに所属するキャラクターにはなるのですが、それ以外にも「SEED」および「DESTINY」に登場したキャラクターが多数登場しています。

中には、台詞なしで背景の中に一瞬映るだけのキャラクターもいて、「今ちらっと映ったのってひょっとして……」みたいな発見もあり、とにかく画面から一時たりとも目が離せません。

熱心なファン同士で観に行けば「俺あのキャラ見つけた」みたいな話で盛り上がれること間違いなし。自分も一回観ただけでは、まだまだ隠されたネタの見落としがありそうなので、何度も観に行きたいと思えるような密度の情報量が詰め込まれています。

個人的に、「DESTINY」での動向が分からないままだった、とあるキャラクターが再登場したのがとても嬉しかったですね。台詞こそなかったものの、画面には複数回しっかりと映っていたので、ほとんどの方が「あっ」と思うのではないかなと思います。

また、登場したMSの数がとても多かったのも大満足なポイントでした。

劇場版ではMSは基本的に3DCGで描かれていることが多いので、たくさんMSを登場させる場合はその分の3Dモデルを用意する必要があります。バリエーションを用意するのは相当な予算が掛かるわけですから、TVシリーズと比べて登場するMSはかなり限られるんだろうなと思っていたのですが、「この機体までいるのか!」と驚かされることが何度もありました。

予告映像の時点でも、劇場版から登場するライジングリーダムガンダム、イモータルジャスティスガンダムといった新機体だけではなく、ジン、105ダガー、デストロイガンダムといった歴代「SEEDシリーズ」に登場したMSの姿が公開されていましたが、まだ存在が明かされていない機体も多数います。

戦闘シーンのクオリティ自体も凄まじいです。最近はガンダムシリーズのアニメでもMSの戦闘シーンが3Dで描かれることが珍しくなくなってきましたが、その中でも本作の3DCGのクオリティは間違いなく最高峰に位置すると思います。

元々「SEED」の頃から3DCGは使われていたものの、MSに関しては作画だったので、多少違和感もあるのかなと心配してはいたのですが、まったくの杞憂でしたね。観ている途中で戦闘シーンが3DCGになったことを忘れていたくらい、どこが作画でどこが3DCGなのか、ぱっと見だと見分けが困難なレベルで溶け込んでいます。

このクオリティの戦闘シーンを劇場のスクリーンと音響で味わえたのは、本当にファンとして幸せなことだと感じました。

■対立した二人の主人公がついに共闘。とくにシン・アスカファンは必見

「DESTINY」では主人公であるシン・アスカと、「SEED」の主人公であるキラ・ヤマトがほぼ最後まで敵対する展開が大きな物議を醸していました。

「SEED FREEDOM」では、再びキラが主人公となり、キラとラクスとの関係性というのが大きなメインのドラマになっています。一方、シンはキラと共にコンパスに所属し、MS隊の部下としてキラと共に戦争のない世界を作るために戦い続けています。

まずあれだけ本気で殺し合った二人の主人公が、約20年の時を経て共闘すること自体が非常に熱いです。また「DESTINY」の時のシンは、アスランに対してめちゃくちゃ刺々しい態度を取っていました。今回キラのことは素直に尊敬して慕っており、劇場版で受ける印象がかなり変わるキャラクターにもなっています。まぁ思い返すと、シンはアスラン以外とはそこまで人間関係は悪くなかったので、アスランとの相性が極端に悪すぎたという説もありますが……。

ただ、劇場版の主役はキラであることは確かなので「またシンは割を食うのか」と感じられるシンのファンも居られるかもしれません。ですが、実際に観終えた感想としては、実質キラとシンのW主人公に近いといってもいいかもと思ったくらい、シン側のドラマもしっかりと描かれていました。

放送から20年近く経った今では、「DESTINY」はシンが自分の運命から解放されるまでの物語なんだと思えるようにもなってきたんですが、シンが好きだった身としては、TV版の最終回の放送当時は、やはりモヤモヤした想いを抱えていたのが正直なところでした。

そこから、期待半分不安半分といった心境で劇場版を観ることになったわけですが……湧き上がってきたのは、本当にシンが好きで良かったなという想いでしたね。

自分の中である程度整理はついていたとはいえ、やはり胸のどこかには「DESTINY」最終回のモヤモヤは燻り続けていたのですが、それがあったからこそ、より今回の劇場版で感動することができたと感じています。

もし放送当時や、リマスター版を観て自分と同じような感情を抱いているという方がいるのであれば、劇場版は絶対に観に行って欲しいです。自分の場合は、残っていた自分の中に残っていたモヤモヤとした感情が消し飛んで、ただ「ありがとう」という感謝の気持ちで満たされました。

TV版の放送が終わってから約20年、当時はキラやシンとほぼ同年代だった自分も、気がつけばムウやマリューの年齢よりも年上になってしまいました。

しかし映画が始まってキラたちの姿を見ると、20年前の頃の気持ちのまま物語に向き合うことができ、その間だけ時間が巻き戻ったかのような、不思議な体験も味わえました。自分のようなリアルタイム世代の多くは、観終わった時に満足感と寂しさが入り混じった感動も湧き上がってくるのではないかなと。

ストーリーはガンダムシリーズの映画の中でもかなり分かりやすい方だと思いますし、戦闘シーンがとにかくカッコいいので、「SEED」にさほど詳しくなくても楽しめる内容ではありますが、我々が見たかったサービスがこれでもかと詰め込まれていて、何よりもファンの方向を向いて作ってくれたというのが、本作に対する一番の印象です。ファンが「こんなのなら続きがない方がよかった」と思うような内容には、絶対になっていないと断言できます。

「SEED」に思い入れがあればあるほど、観る価値がある作品なのは間違いありません。キラ達の行く先を見届けるためにも、是非期間中に劇場に足を運んでみることをオススメします。

■「機動戦士ガンダムSEED FREEDOM」公式サイト
https://www.gundam-seed.net/freedom/

■公式SNS
X(旧Twitter):https://twitter.com/SEED_HDRP
TikTok:https://www.tiktok.com/@seed_freedom_official
【期間限定OPEN!】※2024.3.31(日)23:59まで

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