イメージと違ったトランプ支持者、人口250人の町で見た「草の根民主主義」 アイオワ州の町長宅で開かれた共和党員集会【混沌の超大国2024 アメリカ大統領選③】

アイオワ州シルバーシティーの自宅で開いた党員集会であいさつするシャロン・マクナット町長=1月15日午後(共同)

 今年1月、米中西部アイオワ州で開かれた共和党員集会は米大統領選の候補者選びの初戦となった。人口約250人の町シルバーシティーでは、町長のシャロン・マクナットさん(77)が自宅で集会を開いた。かつて自宅で開く党員集会は珍しくなかったが、アイオワ州では最後に残った“リビング党員集会”だ。現地を訪れ、ホームパーティーのようなもてなしと真剣な議論が同居する「草の根民主主義」に触れた。(共同通信ワシントン支局 建部佑介)

※アメリカ大統領選については、記者が音声「共同通信Podcast」でも解説しています。「問題だらけの言動なのに、なぜトランプ氏はこんなに人気?」

 ▽全米注目、長丁場の初戦
 米大統領選は今年11月5日の投票まで約10カ月の長丁場だ。民主、共和両党が候補者を絞る「指名争い」と指名候補同士による「本選」の2段階で、アイオワ州の共和党員集会は最初の指名争い。アイオワ州は長く初戦に位置づけられ、注目度が高い。

 指名争いは党員集会や予備選によって、州ごとに候補を選ぶ。投票によって選ぶ予備選に対し、党員集会は地区ごとに党員が集まり議論を通じて候補者を絞り込む。アイオワ州では約1650の地区で、学校や集会所などで実施された。

アイオワ州シルバーシティーの町長宅で開かれた共和党員集会=1月15日午後(共同)

 ▽手作りクッキーで談笑も空気一変
 1月15日。州都デモインから西に180キロ、レンタカーで凍結した道路を3時間ほど走り、民家の点在するシルバーシティーにたどり着いた。外は気温がマイナス20度を下回るが、暖炉の火で温められたリビングは集まった党員たちの熱気で汗ばむほどだ。町長宅には40人以上の参加者のほか、米紙ニューヨーク・タイムズの記者やカメラマンも駆けつけた。

 「ゆっくりしてね」。マクナット町長は訪れた一人一人に声をかける。マクナット町長宅は米国の平均的な古い一戸建て。会場となったリビングは30畳ほどの広さがあるが、それでも入りきらず10人ほどが廊下にまであふれる盛況だ。党員らは町長手作りのクッキーとコーヒーを手に談笑していた。

 集会が始まると空気は一変した。マクナット町長は段取りを説明し「すべての候補者に敬意を払うことを忘れないで」と付け加えた。

アイオワ州シルバーシティーの共和党員集会の終了後、町長手作りのクッキーを囲んで談笑する参加者=1月15日午後(共同)

 ▽お互いを非難せず意見を尊重
 集会ではまず、候補者ごとに支持者が挙手で意見を表明する。南部フロリダ州のデサンティス知事(1月21日に大統領選から撤退表明)の支持者は「彼には知事、議員、軍隊の経験がある」と豊富な経歴を列挙した。性的少数者に対する保守的な姿勢で、米娯楽・メディア大手ウォルト・ディズニーと対立したことを念頭に「大企業とも戦える」と訴えた。

 ヘイリー元国連大使の支持者は「彼女には品がある。国連や州知事の経験があるのも素晴らしい」と強調した。

 党員の発言が最も多かったのはトランプ前大統領だった。「彼は外国のためでなく、米国第一であらゆる決断をしてくれる」、「11月(の本選)に勝てるのは彼だ」と支持する声が相次いだ。

 集会では支持する候補とは別の候補者に対する批判は聞かれず、皆が支持候補の良さを訴えた。発言は温かく受け入れられ、尊重されていた。町長が求めた「敬意を払うこと」を実践したとみられるが、当の候補者同士が非難しあう姿とは対照的だ。

 討論が終わると参加者は小さな紙に支持する候補を書き、かごで集めて集計。結果はトランプ氏23票、ヘイリー氏10票、デサンティス氏8票だった。各地区の結果は、州で取りまとめる。シルバーシティーでの結果同様、トランプ氏がアイオワ州を制する結果となった。

アイオワ州シルバーシティーの党員集会で、投票用紙に候補者名を記入する参加者=1月15日午後(共同)

 ▽米国に必要なのは「政治家ではなくビジネスマン」
 私にとって印象的だったのは、トランプ氏の支持者がこれまでのイメージと異なったことだ。トランプ支持者と言えば2021年の議会襲撃事件で「選挙が盗まれた」と叫んだり、陰謀論勢力「Qアノン」のようにトランプ氏をあがめたりする人々が米国内でもよく報道されている。

 しかし、シルバーシティーの党員集会で出会ったトランプ支持者は親切で、自分の意見を持つまっとうな大人だった。陰謀論や議会襲撃を支持する人はおらず「彼のすることの多くは好きではない。でも、今の米国に必要なのは政治家でなく、ビジネスマンなんだ」との声も聞かれた。支持者に共通していたのは既存の政治に対する強い不信感と変化への渇望だ。

アイオワ州シルバーシティーの共和党員集会で、票を集計する町長(中央)ら=1月15日午後(共同)

 集会では20代の若者から「エスタブリッシュメント(既存の支配層)に任せたらどうなるかは、(民主党のバイデン政権の)3年間で分かっただろう。トランプ氏はエスタブリッシュメントでなく、われわれの側だ」と主張した。

 集会後、この発言者に「トランプ氏は富裕層だが『われわれの側』と言えるのか」と問うと「トランプ氏は少なくとも政治家ではない。今、必要なのは非政治家による政治なんだ」と熱弁。「経済は堅調だ」とアピールするバイデン政権について「物価は上がるのに給料は上がらない。生活は苦しく、バイデン氏はうそつきだ」と批判した。

アイオワ州シルバーシティーの町長宅で開いた共和党員集会で、廊下から発言する参加者=1月15日午後(共同)

 ▽自宅開催は「伝統だもの」
 党員集会の結果を伝え終えると、マクナット町長は「共和党候補への投票は、成功を保証するものではないかもしれない。でも、民主党に投票すれば、失敗を保証するわ」とにやり。会場はこの日、一番の盛り上がりを見せた。

 マクナット町長は子や孫と3代で集会に参加した。息子ジョンさん(53)は「小さな町の集会だけど、大統領選への第一歩。そこで自分の意見を伝えられるのは素晴らしいことだ。しかも、自分の育った家でね」と党員集会の意義を語る。町長になぜ自宅で集会を開くのか問うと「伝統だもの。素晴らしい議論ができたでしょう」。満面の笑みが返ってきた。
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 トランプ氏は初戦のアイオワ州党員集会で圧勝し、第2戦のニューハンプシャー州予備選もヘイリー氏を破り、勢いに乗る。取材をしていると、バイデン政権関係者や民主党支持者から「議会襲撃を扇動するようなトランプ氏を支持するなんて理解できない」との話を聞くことがある。

 しかし、私が出会ったトランプ支持者は、同意とまではいかなくとも理解のできるそれぞれの支持理由を持っていた。それを十把ひとからげにして「おかしな人々」と突き放すのは、バイデン政権への国民の不満を見過ごすことにはならないか。不満に真摯に向き合わなければ、選挙で報いを受けることになるかもしれない。

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