馬毛島基地 着工から1年たっても県と種子島1市2町は協議会設立に至らず…まとめ役不在のまま国主導で整備は進む

鹿児島県の塩田康一知事(右)と八板俊輔西之表市長

 「地元から意見を伺い、要望してきた。防衛省から一定の協力を得られている」。鹿児島県の塩田康一知事は19日の定例会見で、西之表市馬毛島の基地整備を巡る課題を問われ、淡々と答えた。

 2022年11月に「理解せざるを得ない」として基地計画を容認。強硬に手続きを進める国に対し、種子島1市2町の首長らとの協議会をつくる必要があると強調した。

 だが、着工から1年たっても協議会設立には至っていない。塩田知事は、基地計画の賛否を保留する八板俊輔西之表市長の方向性が見えないため、他の2町が参加しないと説明。「実質的に問題は生じていない」とする。

 県は1市2町と事務レベルの連絡会を定期的に開いている。南種子町の小園裕康町長も「現状で支障はない」とする一方、中種子町の田渕川寿広町長は「首長協議があった方がいい。問題提起する際に力になる」と指摘する。

 八板市長は「私は協議会をつくってくださいと言っている。知事提案なので、こちらがとやかく言うことではない」と話す。基地に対する温度差も相まり、地元トップはまとまって動けずにいる。

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 2町は基地に賛成し、市も明確な反対を示さない今、国にとっての「障壁」はほぼない状況だ。防衛省関係者は「知事と市長はどこかですり合わせしたのだろう」とみる。

 八板市長が米軍再編交付金の受け取り意向を示し、事実上の「黙認」に転じたのは着工より1年前の22年2月にさかのぼる。防衛省が非公式に「10年で290億円」という交付金の規模を、地元関係者に示した後のことだった。

 基地工事の入札に抗議していた塩田知事も、市長の黙認以降は同調。防衛省内で「『反対』とさえ言わなければ、交付金は出せる。言えば大混乱だ」との声が出る中、知事は市長より先に容認した。

 県庁内や県議には「交付金の予算化に向け、知事が助け船を出した」との見方が多い。与野党の県議からは「首長が集えば国も真剣に向き合う」「県は当事者意識が欠ける。意見が異なるからこそ、知事がまとめるべきだ」との声がくすぶる。

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 かつて反対で一枚岩だった地元も、安全保障環境の変化などから抵抗は格段に薄まった。23年度の交付金は1市2町で計28億3200万円。西之表市分の約20億7000千万円は市当初予算の約16%に相当する。今後、基地負担とともに増額される見通しだが、同時に依存が進むのも確実だ。

 馬毛島の基地は1970年代から場所を探した米軍空母艦載機の離着陸訓練を恒久的に担う。爆音がネックだった日米の難題は、運用までの道筋ができつつある。

 政府の決定を地元に事後報告し、理解を求める-。かつてない防衛力強化が進む中、これまでと同じ流れが繰り返されないか。国、地元の責任者の姿が見えないまま、島は刻々と姿を変えている。

(連載「基地着工1年 安保激変@馬毛島」5回目より)

〈関連=変わりゆく馬毛島。1年前と現在の様子を比べて見る〉北側上空から見た馬毛島。左は2023年1月12日撮影、右は24年1月8日撮影=いずれも本社チャーター機から撮影

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