横浜・野毛で70年続くベーカリー 昔ながらのコッペパンが愛される理由

コッペパンにコロッケを挟んだ人気商品「ハーフコロッケコッペ」=横浜市中区のキムラヤベーカリー

 ほどよい甘さのこしあんやピーナツクリームを挟んだ、ふんわりとした食感のコッペパンには不思議な魅力がある。飲食店が軒を連ねる野毛の街で、そのコッペパンを売りにしているのが「キムラヤベーカリー」(横浜市中区)。今年、創業70年を迎えた名店のこだわりはシンプルなようで、実に奥深い。「現状維持でいい。変わらぬ味を守り続けたい」。客足が途切れない理由を探った。

 JR桜木町駅から徒歩約5分。繁華街の一角、約23平方メートルのレトロな雰囲気が漂う店舗には、会社員の男性や女子大生らが次々と訪れていた。定番のカレーパンなどの総菜パンに加え、人気を集めるのは、その場でイチゴジャムやチョコなどを挟んでくれる昔ながらのコッペパンシリーズだ。3代目の廣枝秀豪さん(52)は「変にもっとおいしくさせようとはしたくない。今来ているお客さんが好んでくれている味を守りたい」と表情を崩した。

 1954年に現在の場所で秀豪さんの祖父が創業。父の一豪さん(75)が継ぎ、2001年からは秀豪さんにバトンが託された。現在は息子の秀一さん(26)ら家族5人で切り盛りし、地域に不可欠なお店となっている。

 こだわりのコッペパンのレシピは代々受け継がれているが、その日によって発酵時間や焼き加減を変えている。「気温、湿度、水温、小麦の温度が1度でも違えば、同じものは作れない」と秀豪さん。店を手伝う一豪さんが午前3時半から開店準備を始め、午前5時には秀豪さんが厨房(ちゅうぼう)に立つ。店内には閉店の午後7時まで香ばしい匂いが漂う。

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