教養としてのポップミュージック【ドラムマシンの名曲 TOP10】テクノロジーは止まらない!  人気連載!教養としてのポップミュージック、いよいよ第3弾!

教養としてのポップミュージック Vol.3 【ドラムマシンを使った楽曲 TOP10】 テクノロジーの進化は止まらない

ローランドのドラムマシンが使用されたピコ太郎の「PPAP」

2020年12月16日、ローランド株式会社が東京証券取引所に再上場を果たした。この会社は、1972年の設立以来、国際的に電子楽器や音響関連機器を展開してきており、音楽ファンの皆さんにはそれなりに馴染みがあると思う。かく言う僕も例外ではなく、ギターアンプやエフェクターを愛用してきた、とてもお世話になった会社である。

ローランドは電子楽器の先駆けとして、新たな製品を生み出し続け、特に1983年の世界共通規格『MIDI』(Musical Instrument Digital Interface)誕生の際には中心的な役割を果たした、まさに名門企業であった。だが、リーマンショック以降は4期連続の赤字となり、2014年にはMBO(経営陣が参加する買収)によって上場を廃止。その後、収益構造を見直し、経営を立て直した上で6年ぶりの再上場となった訳だが、実はその間、ローランドにはちょっとした追い風が吹いていたことに皆さんは気づいていただろうか。

そう、ピコ太郎「PPAP(ペンパイナッポーアッポーペン)」のヒットである。実はこの曲の中でローランドのドラムマシン『TR-808』のカウベルのサウンドが使われており、そのことでこのローランド製品が再び注目を浴びたのだ。とても特徴的な電子音なので、きっと皆さんの耳にも残っているのではないかと思う。

世界の音楽シーンを大きく変えた「TR-808」

ⓒ Roland Corporation

『TR-808』はリズムを自由に作成できる画期的なツールとして、1980年に発売された。ところが、当時は市場からほとんど相手にされず、サンプリング音源を利用した『LinnDrum(リンドラム)』のようなドラムマシンが広まってくると次第に廃れていき、83年には製造中止となってしまう。

だがその後、先鋭的なクリエイター連中が未開拓だった『TR-808』の可能性を見出し、世界の音楽シーンを大きく変えていくことになるのだから、世の中何が起こるか分からない。21世紀に入ってからも、アウトキャスト「ザ・ウェイ・ユー・ムーヴ」、カニエ・ウェスト「ラヴ・ロックダウン」、デヴィッド・ゲッタ「ウィズアウト・ユー(feat.アッシャー)」といったヒット曲の中で『TR-808』が使われている。

日本では ”808” という名から “ヤオヤ” の愛称で親しまれているので、皆さんも名前くらいは聞いたことがあるかもしれない。とにかく、この独特なサウンドは今もなお根強く支持されていて、そのひとつが「PPAP」だったということである。と言うことで、前置きが長くなったが、今回のテーマは “ドラムマシン” である。

ドラムマシンが効果的に使われている作品を10曲紹介

先に挙げた『TR-808』や『LinnDrum』に限らず、1970年代の終わり頃から電子楽器メーカー各社が挙ってドラムマシン市場に参入した結果、ポップミュージックのリズムの中に電子音と機械的なビートがどんどん入り込むようになった。これは生歌生演奏志向の僕にとっては好ましい変化ではなかったが、文句を言っても仕方がない。いつの時代だって、テクノロジーの進歩が人類の生活を変えるのだ。

今回も1980年代前後のヒット曲の中から、ドラムマシンのサウンドが印象的な作品、ドラムマシンが効果的に使われている作品を10曲紹介したい。これらの楽曲を続けて聴いたら、この時代に起きたアナログからデジタルへのテクノロジーの変化の過程を体感できるはずだ。僕が以前書いたコラム、80年代は洋楽黄金時代【シンセリフ TOP10】エイティーズサウンドの特徴って何?と併せて読んで頂くと、そのことがより伝わると思う。

ヒューマン・リーグ初の世界的ヒット

【第10位】 ヒューマン・リーグ「愛の残り火(Don't You Want Me)」

英国シェフィールドで結成されたエレクトロポップ・ユニット。彼らにとって初めての世界的ヒット曲で、サードアルバム『ラヴ・アクション(Dare)』に収録。ここでは『LinnDrum (LM-2)』の前身である『LM-1』が使われている。1981年の作品だが、このドラムマシン を使用した楽曲としてはかなり早い方だったと思う。

【第9位】 ビリー・アイドル「アイズ(Eyes Without A Face)」

英国出身シンガー。1983年のアルバム『反逆のアイドル(Rebel Yell)』から2枚目のシングルとしてリリース。彼にとって初めての全米トップテン・ヒットで、パンクロック出身者とは思えないバラード風の楽曲である。ドラマー不在の状態でレコーディングが開始されたので、ドラムマシンが使用されることになったらしい。

【第8位】 ソフト・セル「汚れなき愛(Tainted Love)」

米国出身の黒人シンガーでマーク・ボラン(T.レックス)の交際相手だったグロリア・ジョーンズが1965年にリリースした楽曲を、英国のエレクトロポップ・ユニットが82年にカバーした。デビューアルバム『エロティック・キャバレー~汚れなき愛(Non-stop Erotic Cabaret)』に収録。低予算だった故に、英国の男女デュオ、マーシャル・ヘインのキット・ヘインからローランドのドラムマシンを借りて録音したとのこと。

【第7位】 ダリル・ホール&ジョン・オーツ「アイ・キャント・ゴー・フォー・ザット」

彼らの全盛期であった1981年にリリースされたアルバム『プライベート・アイズ』からの第2弾シングル。ローランドが初めてマイクロコンピュータを搭載し、78年に発売したドラムマシン『CR-78』を全面的に採用している。英国の音楽サイト『WhoSampled.com』によると、この曲をサンプリングした作品が78曲も存在するらしい。シンプリー・レッドは、2003年にリリースした「サンライズ」でこのバックトラックを使っている。

プリンスが天才たる所以のユニークなアレンジ

【第6位】 プリンス「ビートに抱かれて(When Doves Cry)」

アルバム『パープル・レイン』からの先行シングルとして1984年にリリース。プリンス本人が全ての楽器を演奏しているが、歌の本編は『LM-1』のビートとシンセサイザーのリフだけで、ベースが入っていないという、とてもユニークなアレンジである。ただ、当時デジタル楽器を導入した際にどうしても拭えなかった “違和感” が、彼の楽曲に限ってはほとんどなく、そんな所も彼の天才たる所以かもしれない。

【第5位】 ホイットニー・ヒューストン「すてきなSomebody(I Wanna Dance With Somebody (Who Loves Me)」

1987年リリースの2ndアルバム『ホイットニー II ~すてきなSomebody(Whitney)』に収録。85年に発表された「恋は手さぐり(How Will I Know)」と同じ制作チームによる作品で、“二番煎じ” と言われて賛否両論もあったが、ドラムサウンドのインパクトが、より高まっているのは間違いない。正直なところ “けたたましい音” に感じなくもないが、これこそがローランド『TR-808』のサウンドだ。

【第4位】 フィル・コリンズ「夜の囁き(In The Air Tonight)」

1981年にリリースした初のソロアルバム『夜の囁き(Face Value)』からの先行シングル。曲の大半は『CR-78』によるリズムパターンの繰り返しとシンセサイザーだけの静かなサウンドだが、終わりの方で突然ゲートリバーブのかかったドラムが飛び込んでくる。このユニークさに飛びついたのが、ほぼラップしか聴かずに育った ”TwinsthenewTrend” という双子のYouTuberで、2020年には彼らの “聴いてみた動画” が話題となった。

ドン・ヘンリーのようなプロのドラマーが積極的にドラムマシンを導入

【第3位】 ドン・ヘンリー「ボーイズ・オブ・サマー」

1984年のソロアルバム『ビルディング・ザ・パーフェクト・ビースト』に収録。トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのギタリスト、マイク・キャンベルとの共作で、『LinnDrum』を使ったリズムパターンも彼が作ったのだそうだ。ところで、先ほどのフィル・コリンズもそうだったが、ドン・ヘンリーのようなプロのドラマーが積極的にドラムマシンを導入するのは、とても不思議である。逆に「プロのドラマーだから」かもしれないが…。

【第2位】 マーヴィン・ゲイ「セクシャル・ヒーリング」

結果的に遺作となってしまったアルバム『ミッドナイト・ラヴ』に収録。1982年リリース。『TR-808』を使った作品として初めての世界的ヒット曲と言われるが、マーヴィン・ゲイがこのツールを導入したのには理由がある。当時、彼は公私に多くの問題を抱えており、予算上の制約から自分自身で多くのパートを録音しなければならなかったのだ。だが、このトラックが後のR&Bやヒップホップに大きな影響を与えることになった訳で、まさに “結果オーライ” と言えよう。

【第1位】 ブロンディ「ハート・オブ・グラス」

1978年のアルバム『恋の平行線(Parallel Lines)』に収録。全米全英ともシングルチャートで1位を獲得。この曲では、当時発表されたばかりの『CR-78』にプリセットされた ”ルンバ” のリズムパターンが使われているが、今思えば、このイントロこそが新しい時代の幕開けだったような気がする。何はともあれ、このバンドがいなければマドンナもレディー・ガガも存在していなかっただろうから、そういう意味でも革新的であった。

カタリベ: 中川肇

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