【漫画】苦悩するアメフト選手、なぜイップスを乗り越えられた? 徹底的な分析と成長を描いたSNS漫画が熱い

1月29日発売の週刊少年ジャンプで、アメリカンフットボール漫画の金字塔『アイシールド21』の14年半ぶりの新作となる読み切りが掲載され、ファンの喝采を浴びた。日本では普段、あまり触れる機会が多いとは言えないアメフトの面白さを再認識した読者も少なくなかっただろう。そんななか、同じくアメフトをテーマにした熱いオリジナル漫画がXで公開されている。2023年12月下旬にポストされた『イップスになった男がボールを投げる話』(鬼と金棒)だ。

QBの鬼頭裕也とWRの金森ハジメ=“鬼と金棒コンビ”は超ロングパスを武器に、高校アメフト日本一を決めるクリスマスボウル出場を目指して順調に駒を進めていた。しかし、鬼頭は関東大会準決勝で相手チームのラフプレーを受けた影響で“イップス”になり、まともにボールが投げられなくなってしまう。夢の舞台まで目前だったため、鬼頭のメンタルはどん底になるが、持ち前の分析力と向上心を持ってこの困難に立ち向かう――。

本作を手掛けたのは、現在大学を休学し、アシスタントなどを勤めながら漫画家の道を検討しているという神田環さん(@Kanda_Tamaki)。夢に向かって様々な選択肢に直面している神田さんが、熱くてまっすぐな本作をどのようにして描いたかなど話を聞いた。(望月悠木)

■作者はアメフト経験者!

――『イップスになった男がボールを投げる話』制作のキッカケは何ですか?

神田:当時お世話になっていた出版社さんの企画でスポーツ限定の漫画賞があり、それに向けて制作を進めようと思ったことがキッカケです。結局は間に合なかったのですが、このことをキッカケに「スポーツ漫画をしっかり1本描こう」と思って制作しました。スポーツ漫画の構成の難しさを痛感した一作です。

――なぜ高校アメフトを舞台にして、イップスになるQBの葛藤を軸にしたのですか?

神田:“イップス”と聞くと、野球やゴルフなどを思い浮かべやすいです。実際私も「アメフトでイップスになった」という話はあまり聞いたことはありません。ただ、「聞いたことがないって新しさかな」と思って設定に組み込みました。また、野球のバッテリーは恋人と例えられますが、「アメフトも投げる人間と捕球する人間の間には関係性があるのでは」と考え、そのコンビが活躍する漫画にしました。

――ちなみに、神田さんはアメフト経験があるのですか?

神田:高校1年間だけですがあります。お恥ずかしい経歴ですが(笑)。ただ、あれだけ濃密な1年間を過ごせたことはあの時が初めてで、「楽しかった」という記憶が強く、「スポーツ漫画を描くならアメフトで描きたい」と常々思っていました。

■あの名作も参考に

――努力と研究で上手くなる過程が好感を持てました。

神田:アメフトは単純な力だけで競うスポーツではなく、相手を研究して、自分を研究して、作戦を練ることが重要です。「身体や動きは熱く、だけど頭はクール」という意識を持っています。鬼頭は真面目な性格ですので、「現状を打開しよう」と彼なりにもがいた結果、自分を徹底的に分析して成長するという展開にしました。

――アメフト漫画といえば『アイシールド21』(集英社)が有名です。

神田:『アイシールド21』はものすごく参考にさせていただきました。アメフトは防具を着て闘うため、「どこを描いてどこを省略するか」「ぶつかり合いの魅せ方」など、いろいろ作画を参考にしました。また、「どう伝えればアメフトを知らない人も楽しめるのか」ということも参考にしています。

――アメフトは投げたりタックルしたり、様々な動きが見られるスポーツで、表現することが特に難しいように感じます。

神田:アメフトは1つ1つのプレーに名前があり、選手の動き方が決まっています。どのシーンを描くにしても「どのプレーをするか」ということを裏で決めており、そのプレーの通りに描くことは結構苦労しました。ちなみに、最初の見開き、試合開始後最初のパスのシーン、最後の見開きのパスのシーンなど、とてもこだわって描いているので、ぜひ読んで確かめてほしいです。

――今後の進路も気になる神田さんですが、どのように漫画制作を展開していく予定ですか?

神田:現在すぐに公開できるような情報はまだありませんが、ゆくゆくは「少年向け週刊誌で連載を持ちたい」という野心を持って活動しています。Xでは過去作をたくさん載せているので、もし良かったらチェックしてみてください。今後とも神田環をよろしくお願いします。

(取材・文=望月悠木)

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