乳がんの患者数が急増!医師が教える予防・早期発見する日常的ケアと痛くない新検査法とは

2月4日は国際的に定められた「World Cancer Day(世界対がんデー)」。各自が癌(がん)という病気への意識を高め、知識を増やし、適切な行動を起こすことを目的に、世界各地でさまざまな取り組みが催されます。“行動を起こすこと”が強く求められるのは、世界的にもがんに罹患する人やがんによる死亡者数が年々増えているから。このネガティブな傾向を食い止めるためにも、第一に予防、次に早期発見、最後に適切な治療を受けることが大切なのです。

今回は、さまざまながんがあるなかでも、この30年(※)で罹患者数が約2.7倍に増えている「乳がん」を取り上げます。予防はできる? 早期発見のために何ができる? そんな不安と疑問に対し、東海大学 医工学科教授で医学博士の高原太郎先生に解説していただきました。高原先生が開発した「無痛MRI乳がん検査」は、着衣のまま受けられ、痛みも恥ずかしさもなく、がん発見率も高い画期的な検査方法として昨今注目されています。後半では、この無痛MRI乳がん検査についても詳しく紹介します。

※国立がん研究センター がん情報サービス「がん統計」(全国がん罹患モニタリング集計(MCIJ))を基にした1985~2015年における罹患者数

がんのリスクを下げるために生活習慣を見直す12か条

そもそも、がんはなぜできるのでしょうか? この問いについて実は、はっきりとした原因はわかっていません。ただ、最近の研究から、がんのリスク(がんになる危険性)を高める生活習慣、生活環境、その他の環境諸因子については明らかになっています。これらの情報を簡潔にまとめたものが『がんを防ぐための新12カ条』。下表を参考に、まずは自身の生活習慣をチェックしてみてください。

※各項目の詳細についてはこちら

がんを防ぐための新12か条

□ たばこは吸わない
□ 他人のたばこの煙をできるだけ避ける
□ お酒はほどほどに
□ バランスのとれた食生活を
□ 塩辛い食品は控えめに
□ 野菜や果物は豊富に
□ 適度に運動
□ 適度な体重維持
□ ウイルスや細菌の感染予防と治療
□ 定期的ながん検診を
□ 身体の異常に気づいたら、すぐに受診を
□ 正しいがん情報でがんを知ることから

※出典=『がんを防ぐための新12か条』公益財団法人がん研究振興財団

乳がんに特化した最新研究の中で、高原先生が注目しているのは、京都府立医科大学が2023年12月に発表した論文で、「1日7時間以上座っていることが乳がんの罹患リスクを上げる」こと。1日1時間以上歩いたり、運動をまとめて行っていても、1日7時間以上座っている人では乳がん予防の効果は認められないそうなので、日々のこまめな運動を心がけましょう。

日本人女性がもっともかかりやすい「乳がん」とは、どんな病気?

生活習慣を改善し健康的な毎日を送っていたとしても、がんを完全に予防できるわけではありません。そこで重要になるのが「できたがんを早期に発見できるか」。なかでも「乳がん」は、高齢になるほど罹患者数が増える他のがんと異なり、30代から急増するため、若いうちから「私もかかるかもしれない」という危機感をもって、乳がん検診など積極的に受けたいところです。

参照=国立がん研究センター がん対策情報センター

では、「乳がん」とは、どういうがんなのでしょうか?

「乳房は、主に脂肪と乳管でできています。乳管は母乳をつくるための器官ですよね。だから妊娠して、授乳するときには母乳がいっぱいつくられて、乳管を通って出てくるわけです。その管にできるのが乳がんです」(医学博士・高原太郎先生、以下同)

近年の乳がんの傾向として、高原先生が「女性の皆さんにぜひ覚えておいてほしい」と語るのは、以下3つのポイント。

・近年の30年で乳がん罹患者数は約2.7倍に増えている・女性のおよそ9人に1人が一生のうちに乳がんを経験する・日本人女性がもっともかかりやすいがんである

この30年で乳がん罹患者数が約2.7倍に

出典=国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん罹患モニタリング集計(MCIJ))

乳がんが増加した理由として考えられているのが、食生活の欧米化や、女性の社会進出です。乳がんの約70%は、月経中に多量に分泌される女性ホルモンの一つ、エストロゲン(卵胞ホルモン)の影響で大きくなる性質があります。食生活の欧米化に伴い、高タンパク質・高脂肪の食事が増えて体格が良くなった結果、初潮が早まり閉経が遅くなる人が増えました。さらに、女性の社会進出によって妊娠・出産を経験する人が減少したこともあり、生涯の月経回数が非常に多くなってしまいました。月経回数が増えたことが乳がん罹患者数の増加に関係している可能性があります。

女性のおよそ9人に1人が一生のうちに乳がんを経験

「9人に1人と聞くと、自分にはまだ遠い話のようで、不運な人がかかる病気のように思えるかもしれません。でも、ご家庭にはお母さんやおばあちゃん、娘がいたりしますね。一世帯に女性が2人以上いるとしたら、5世帯で女性が10人。将来、このうちの1人が生涯のうちに罹患することになるかもしれないのです。世帯単位で考えると5分の1ですから、決して低い確率ではないのではないでしょうか。
もう一つ重要な事実は、お母さんが乳がん罹患者である場合、娘の罹患リスクは2倍以上になるということです。つまり4人に1人の割合で乳がんにかかるということですね。ご家族に一人以上の罹患者がいるなら、遺伝の可能性も視野に入れて、1年に1回の検診を推奨します」

日本人の女性がもっともかかりやすいがん

出典=国立がん研究センター がん対策情報センター「がん情報サービス」

上図の通り、乳がんは罹患者数が最も多いがんですが、がんと診断された人が5年後に生存している割合を示す「5年生存率」を見た時、ステージ0~Ⅰでは90%を超えます。早期に発見し、適切な治療を行えば治る確率が高いがんであることも事実です。

ステージⅠ以下の乳がんを見逃さないための「ブレスト・アウェアネス」とは

近年の乳がんの傾向について見てきましたが、ここからは乳がんを小さいうちに発見するための具体的な方法を教えていただきます。

「乳がんの進行過程における『早期』とは、ステージ0~1を指します。最初、乳がんは乳管の中をはうようにして広がりますが、がん細胞が管の中にあるうちはステージ0です。そのうちがん細胞が大きくなり乳管の壁を突き破って脂肪のほうへ侵攻すると、ステージⅠとなります。ステージⅠの定義は、『しこりのサイズが2cm以下で、転移がない状態』。この段階で治療をスタートできれば、基本的には1か月で職場復帰が可能です。

しかし、ステージⅡ以上になると、患者さんの状況は大きく変わります。がんが転移している可能性もあり、手術、化学療法(抗がん剤)、放射線療法、ホルモン療法を組み合わせた治療が長期にわたり続きます。体調も悪くなるので、フルタイムで働いていた人はパートタイムに切り替えることも多いようです。収入が減るうえ治療費はかかりますから、ライフスタイルへの影響は計り知れないですよね。だからこそ、ステージⅠ以下で見つけたいんです」

乳がんの早期発見のために、日頃から乳房の状態を意識する生活習慣=「ブレスト・アウェアネス」が大切だと高原先生は言います。次にブレスト・アウェアネスを実践する4つのポイントを見ていきます。

1.普段から乳房をチェックする

「鏡で顔を毎日見ていると、『新しいシワができた』『マッサージしたらリフトアップした』など、些細な変化に気づきますね。同じように、乳房も毎日チェックして変化に気づこう、というのがブレスト・アウェアネスの基本的な考え方です」

乳房のチェックは、着替えや入浴、仰向けになるなどのタイミングで、「見る、触る、感じる」だけでOK。

2.乳房の変化に気をつける

乳房のチェックでは、以下の変化に気をつけましょう。

・乳房や脇の下のしこり
・乳首からの分泌物
・皮膚の凹みやひきつれ
・乳房の痛み

3. 変化に気づいたら、すぐに医師に相談する

乳房の変化がすべて乳がんというわけではありません。しかし、乳がんの早期の症状である可能性もあるため、次回の検診を待たず、すぐに乳腺外来のある医療機関を受診してください。

4.2年に1回は検診を! マンモグラフィや超音波検査の落とし穴も知っておく

一般的な乳がん検査は、マンモグラフィ検査(乳房エックス線撮影)と超音波検査(エコー検査)の2種類。ただし、それぞれにメリット・デメリットがあります。

「『デンスブレスト』という言葉を聞いたことはありますか? 『高濃度乳房』とも呼び、体質的に乳房内の乳腺の割合が高い状態を指します。日本人は、欧米人に比べてデンスブレストの割合が高く、50歳以下では約80%がデンスブレストです。乳腺の密度が濃いと、マンモグラフィ検査で乳房が真っ白に写ります。同様に、がん細胞も白く写るため、見落とす可能性があるんです」

マンモグラフィ検査による乳房のエックス線写真。デンスブレストの乳房(右)は乳腺とがんが、ともに白く写るため見分けがつきづらい。

「だからといって、超音波検査だけで良いとされているわけではありません。学会ではいま、両方の検査を容易に受けられるようにしたいという議論がなされています」

女性たちが乳がん検診を受けないのはなぜか?

一部抜粋=gooリサーチ「第6回 乳がんに関する3万人女性の意識調査」調査結果

乳がん検診の重要性は年々増していますが、検診率は5割以下。なぜ伸び悩んでいるのでしょうか? 過去の調査(上図)を見てみると、興味深いことに「恥ずかしい」「面倒くさい」「検診が痛そう」など、“気持ちの問題”を挙げた人が多く見受けられました。実は、こうした従来の検診の負のイメージを払拭する、まったく新しい検査方法が登場しています。

ためらう女性の背中を押すMRIを活用した乳がん検診のメリット

無痛MRI乳がん検診「ドゥイブス・サーチ」は、2017年に高原先生により考案された乳がん検査です。着衣のまま15分間うつぶせになっているだけで検査は終わります。MRI検査では、造影剤を注射するケースもありますが、ドゥイブス・サーチでは造影剤注射は不要で、身体に痛みも負担も一切ありません。

現在、全国59か所の病院にて実施されています。「痛くない」「恥ずかしくない」という嬉しい特徴の他にも、ドゥイブス・サーチにはさまざまなメリットが。最新検査の魅力を紹介します。

メリット1.受付から会計まで約1時間! 隙間時間に検診を受けられる

検診は、問診票を記入したり着替えたりしたあと、MRIの寝台に空いている穴に乳房を入れ、15分間うつぶせになるだけ。病院に来てから出るまで、約1時間で終わります。予約もインターネットで取れるため、仕事や育児の合間に気軽に受診できます。

メリット2.不安を払拭してくれる検診結果報告書

検診結果報告書は、後日郵送にて届きます。ドゥイブス・サーチがこだわっている一つがこの報告書です。

「通常のがん検診の場合、皆さんいろいろな不安を問診票に書いてくださるわけですが、報告書には一言『異常は認められませんでした』と記されるのみです。ドゥイブス・サーチでは、利用者が問診票に書いた気になる部分(しこり、違和感など)を丁寧に診断し、『その部分、ちゃんと診断しました。こういう理由で異常は認められなかったので安心してください』と短い説明を添えます。利用者の心のケアも大切にしているんです」

メリット3.乳がんが高い確率で見つかる

デンスブレストの場合、マンモグラフィでは白く写った乳腺の中に、同じく白く写ったがん細胞が隠れてしまうため、発見が難しくなります。ドゥイブス・サーチではにMRIを使用するため、がん細胞が黒く写り、がんが見つけやすくなります。また、マンモグラフィでは撮影が難しかった乳房の奥(胸壁)や脇の下でも、ドゥイブス・サーチでは撮影が可能で、どの部分でも高精度に検査できるというメリットがあります。

メリット4.被ばくがない

MRIの内部は磁石とコイルでできており、エックス線(レントゲン)を使用しません。このため被ばくが「完全にゼロ」であるという特長があります。安心してくり返し検査を行うことが可能です。

メリット5.乳房再建手術・豊胸手術によるインプラント挿入後でも受診できる

乳がんで乳房を切除し、乳房再建手術をした場合、あるいは豊胸手術をした場合、インプラントを挿入することが多くあります。インプラントは強く圧迫すると破裂して炎症などを起こし、乳房の変形にもつながることから、乳房を圧迫するマンモグラフィは一般的に受けられません。また、超音波検査は、圧迫することはありませんが、インプラントの後ろ側は見えにくいため、受診を断られるケースも。ドゥイブス・サーチなら、インプラント挿入後にも受診可能です。

「ドゥイブス・サーチは、身体への負担が小さい検査で、がんを小さいうちに見つけて、可能な限り小さい治療法で治そうという選択肢です。痛くないし、胸を見られることもないから、どうぞ気軽に受診してください。予約もインターネットで簡単、病院に1時間ちょっといれば検診は終わります。だから、自覚症状がない人も、しこりがあって不安な人も、どうぞ受けてみてください」

がんで死なない未来をめざして、世界中でがん研究が日々進んでいます。私たちも「予防」や「早期発見」に向けて行動を起こしていきましょう。

Profile

医師 / 高原太郎

東海大学 医工学科教授、医学博士、放射線科専門医。2004年、MRIを活用して全身のがんの有無や分布を診断できる撮影法「DWIBS(ドゥイブス)法」を開発。2017年、世界で初めて着衣のまま検査できるよう改良された無痛MRI乳がん検診「ドゥイブス・サーチ」を開発。2018年、ドゥイブス・サーチ普及のため会社を設立。現在では、全国59か所の病院でドゥイブス・サーチでの検診を実施しており、のべ2万8千人が受診している。
「ドゥイブス・サーチ」公式サイト

取材・文=中牟田洋子(Playce)

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