フィルムライクな写りを求めてーー『写ルンです』を再利用したレンズ『Utulens』レビュー

生成AIの台頭をはじめ、テクノロジー分野の発展が目覚ましい昨今。一方で、フィルムカメラやレコード、文房具の人気再燃など、アナログ回帰の動きがここ数年にわたり広がり続けている。

シンプルかつ直感的に使えて、独特の質感やあたたかみを楽しめるのは、アナログ製品のたまらない魅力。……ただし、ランニングコストの面ではデジタルと比べて高額になりがちな実情がある。

今回の記事でフォーカスするカメラの分野なら、カメラ本体の所有を前提としても、価格高騰を続けているフィルム代に加えて、現像やデータ化の費用がかかる。ざっくりとした計算だが、一度の撮影と現像だけでも、一般的には3,000~4,000円程度が必要になることを考えると、なかなかにリッチな趣味だと言わざるを得ない。

しかし、手元に欲しいのはフィルムライクな写りの写真データのみ……といったケースはないだろうか? 筆者も時折フィルムカメラで撮影するが、写真の主な用途はSNS投稿が多い。

そこで試してみたのが、トイデジやカメラアクセサリーなどを手掛けるブランド・GIZMONのミラーレスカメラ用レンズ『Utulens』だ。かの有名なインスタントカメラ『写ルンです』のレンズを再利用することで、フィルムカメラさながらのローファイでエモーショナルな写りが楽しめるという。実際にGIZMONより製品をお借りしたので、作例と共にレビューしていこう。

■各社ミラーレスカメラのマウントに対応

セット内容は、マウントアダプターにレンズユニット、取り扱い説明書など。レンズユニットの角度変更に使うL型レンチや、レンズユニットの見た目をカスタマイズできるスキンシールも付属する。

公式の通販ページによると、対応マウントは下記の通り。

マイクロフォーサーズ
ソニーEマウント
富士フイルムXマウント
キャノンEOS Mマウント
キャノンRFマウント
ニコン1マウント
ニコンZマウント

今回は、愛用しているSONY『α7 IV』に装着できるソニーEマウントのモデルをチョイスした。

レンズのスペックは、単焦点32mm/F16 (絞り固定)と、再利用している「写ルンです」に準拠する。プラスチッキーな質感が、どこか懐かしくかわいらしい。

■取り付けは簡単だが、ちょっとした注意点も

カメラへの取り付けは非常に簡単。レンズユニットをマウントアダプターに取り付けてから、アダプターをカメラのマウントにセットするだけでOKだ。

なお、マウントに取り付ける際、手応えが固すぎたり、音がするまで回らないときは要注意。ボディやレンズの機構にダメージを与える場合もあるので、無理に回すのは禁物だ。

カメラ側の設定としては、「レンズなしレリーズ」をオンにする必要がある。これを設定しておかないと、シャッターが切れないので、事前に確認しておこう。

いわゆる“パンケーキレンズ”に該当するので、装着時の見た目は驚くほどにコンパクト。重さは約46gで、いつも装着しているズームレンズと比べると1/10程度に収まる。う~ん、これは旅行や街角のスナップに持ち出したくなる。やはり、「気軽に使える」「持ち出したくなる」のは重要だと痛感した。

■いざ実写レビュー まさに『写ルンです』な懐かしくもエモい仕上がりが楽しい

果たして、その実力やいかに? ということで、街へ繰り出してパシャパシャと作例を撮影してみた。『Utulens』そのものの写りをチェックするために、RAWデータの加工は行わず、JPEG撮って出しの状態だ。ホワイトバランスはオートに設定している。

また、SONY『α7 IV』には、撮影段階で写真や映像の質感、色味などを思い通りにカスタマイズできる「クリエイティブルック」機能が搭載されているが、今回はあえて活用せず。幅広いシーンに対応する「ST」モードをデフォルト状態で設定した。

結論から言うと、その描写はかなりエモーショナルでフィルムライク。強い光を取り込んだ際のレンズフレアや、色収差によるローファイな色合いは、まさに多くの人がイメージする『写ルンです』そのものと言えるだろう。

オートフォーカスに慣れた身からすると正確なピント合わせは至難だが、ボケ具合もむしろ味わい深いかも。とはいえ、被写体から1m程度離れないと、想像以上にボケて腑抜けた雰囲気になってしまうので、注意が必要だ。

露出を調整すれば、コントラストが強い写りにすることも可能。前述の通り、カメラ側の設定次第でよりフィルムっぽい仕上がりにすることもできるだろう。当然、RAWデータを現像したっていい。

とはいえ、気軽に使えるコンパクトさと軽さ、F値やピント固定のオモチャっぽさが魅力的なので、細かい設定を気にしないで使うのがいいのかも。記録媒体はカメラ準拠なので、偶然のベストショットを求めて、枚数を気にせず思う存分撮りまくれる。原初的なカメラの楽しさを思い出させてくれるレンズだ。

本稿を執筆している1月下旬時点では、高価なモデルでも6,160円(税込)というリーズナブルさもうれしい。カメラ初心者から上級者まで楽しめるレンズなので、ミラーレスカメラをお持ちなら、ぜひチェックしてもらいたい。

(文・写真=山科 拓郎)

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