陳謝の先に見えた、原点回帰の重み。「トヨタグループビジョン説明会」は他人ごとでは捉えられない?【スタッフブログ号外】

2024年1月30日、トヨタ自動車株式会社代表取締役会長(以下、会長)の豊田 章男氏が、創業の原点を振り返り、トヨタグループが進むべき方向を示すビジョン「次の道を発明しよう」を発表しました。相次ぐグループの不正問題につき陳謝する一方で、新たなリーダーシップへの取り組みについても、明らかになりました。

もっといいモノをつくること=発明

日野自動車、ダイハツ、豊田自動織機、とグループ内で続く「不正」問題。単にいちメーカーとしてではなく、日本のモノづくりの根本を支えてきた企業体のひとつとして今、トヨタグループが問題に対してどんのように取り組み、改善してくのか、が問われています。

元町工場の混流生産ライン。トヨタ生産方式の理想であり、日本のモノづくりの本領を実感できる現場だ。

そんな中、トヨタは改めて、モビリティサービスとしての多様化や、グローバルな目線での価値を提供するための企業グループとしての「モデルチェンジ」に向けて、新しいビジョンを発表しました。

会場は、トヨタスピリットの原点を象徴する、トヨタ産業技術記念館。午前中に、社員向けの発表が行われ、トヨタグループ17社(※)会長、社長、現場のリーダーが出席しました。

それを受けて、午後1時半から、メディア向けに説明会が開催されました。その壇上ではトヨタグループ全体のリーダーに立つ豊田章男会長が陳謝するとともに、さまざまな質問に答える形で、新たなグループビジョンとそこから生まれる取り組みを明らかにしました。

新たに提示されたトヨタグループが進むべき方向を示すビジョンは「次の道を発明しよう」。それに基づいて、すべてのグループ社員が抱くべき5つの心構えが提示されています。

【心構え】
誰かを思い、力を尽くそう。
仲間を信じ、支えあおう。
技を磨き、より良くしよう。
誠実を貫き、正しくつくろう。
対話を重ね、みんなで動こう。

豊田章男会長コメント

「トヨタグループの原点は、『多くの人を幸せにするためにもっといいモノをつくること』、すなわち『発明』にあります。『次の道を発明しよう』。このビジョンのもと、一人ひとりが、自分の中にある発明の心と向き合い、誰かを思い、技を磨き、正しいモノづくりを重ねる。互いに『ありがとう』と言い合える風土を築き、未来に必要とされるトヨタグループになる。本日、私たちの原点とも言える、この産業技術記念館で、そう誓い合いました」

失敗を回避するのではなく乗り越える「異常管理」

このタイミングでのグループビジョンの表明は、豊田会長自身の危機感に基づいているようです。グループ各社が成功体験を重ねていく中で、大切にすべき価値観や物事の優先順位を見失いかけている、という危惧があるといいます。

「やっちゃいけないことをやったグループの責任者として、お詫びするとともに、責任者として動いていくので、叱咤激励をお待ちしております」というコメントで説明会は締めくくられた。(オンライン説明会より)

発表、質問に対するコメントを見ていくと、今回のビジョンと心構えの共有は、今後も失敗を恐れずにさまざまな領域にチャレンジし続けるための「基盤づくり」である、という印象を受けました。

「変革」がある以上、なにがしかの問題は常に起こりうる。と豊田会長は断言します。大切なのは、その問題にともなう「やってはいけないこと」を明確にすること、そしてそれが限度を超えた時に糺していくこと。

もともとトヨタ生産方式には「異常管理」という考え方があります。「異常」を察知し、修正する、そのサイクルを回していくことこそが、よりよい企業に近づいていく・・・掲げられたビジョンには、異常を異常として判断するための「正常」を定義する意味合いもあるようです。

席上において今後のグループ、企業としての具体的な取り組みについては、多くは明らかにされませんでした。ただ「リーダーとして」豊田会長は、自らが抱くトヨタの原点を伝えていくためのアクションをすでに起こしていることを明らかにしました。

たとえば、全17社が開催するすべての株主総会に、株主の目線から出席する、とのこと。さらに「マスタードライバー」という商品開発の最前線に立つ資格を持つものとして、同じ目線で会話ができるメンバーの選抜を、各グループ会社に指示したそうです。

豊田会長にとって「マスタードライバー」とは商品コンセプトを越えた、クルマの役割、使命を感知できるセンサーの持ち主。企業内での肩書ではなく、もっと根本的なモノづくりの現場で共感し、会話が成り立つ人材を求めていくそうです。

もしかするとイメージ的には、会長と開発スタッフという堅苦しい関係ではなく、「モリゾウと素敵な仲間たち」といった感じなのかもしれません。

14年越しの立て直しを経て、ふたたびの覚悟

思えば2009年、全世界的に起こった「リコール問題」でトヨタは、企業イメージに深い傷を負いました。豊田会長はそれを振り返り「この時、トヨタは一度つぶれた」と考えたといいます。そしてその時も、トヨタの責任者としてすべての責任を負う覚悟を決めたそうです。

2022年12月、タイトヨタ設立60周年記念式典でのトヨタ自動車株式会社 代表取締役社長 豊田 章男氏(当時)。2023年6月の取締役会で会長職となって以来、どちらかと言えば「モリゾウ」としての認知度が高まっていたような気も。

それから14年、事業体としてのトヨタグループの業績自体は、絶好調と言っていいでしょう。1月30日に発表された2023年の年間(1月-12月)販売・生産・輸出実績レポートでは、ダイハツ工業と日野自動車を含むグループ全体でのグローバル販売・生産が過去最高となりました。トヨタ単体の実績値としても、初めて1000万台を超えています。

今、ふたたび表明された「覚悟」の延長線上に、豊田会長は「商品が中心で人中心の企業風土ができると確信している」と力強く語ります。トヨタは今回の問題を乗り越える中で、グループ全体でのさらなるグレードアップを果たすことになりそうです。

同時にそこには、根本としての「日本らしいモノづくり」についても、考えさせられるものがある、と感じられました。見失いかけた原点を今一度振り返るべきはもしかすると、トヨタグループだけではないのかもしれません。

※トヨタグループ17社
株式会社豊田自動織機/トヨタ自動車株式会社/愛知製鋼株式会社/株式会社ジェイテクト/トヨタ車体株式会社/豊田通商株式会社/株式会社アイシン/株式会社デンソー/トヨタ紡織株式会社/トヨタ不動産株式会社/株式会社豊田中央研究所/トヨタ自動車東日本株式会社/豊田合成株式会社/日野自動車株式会社/ダイハツ工業株式会社/トヨタホーム株式会社/トヨタ自動車九州株式会社

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