【共通テスト2024】東大生が解説、テクニックの通用しない「数学1A」の良問

試験会場に向かう受験生たち

2024年(令和6年)度の大学入試共通テスト(旧・大学入学センター試験、以下共通テスト)が、1月の13日、14日に行われた。毎年50万人ほどが受験するこの共通テストだが、近年では、論理的思考力が問われる難問も増え、教育業界でも話題になっている。

受験生のみならず、実際には受験をしない学生や先生など、多くの人がこの共通テストの問題を毎年確認し、勉強する際の参考にしていることだろう。そこで、東大生集団 カルペ・ディエムの永田耕作氏に、先日終わったばかりの2024年度の共通テストの「数学1A」の問題を解いてもらい、「良問」と感じた問題について解説してもらった。

今年は「テクニック」の通用しない出題も

共通テストは、「マークシート型」の試験だ。つまり、基本的にはすべての教科のすべての問題の解答が「数字」で表されることになる。

そのため、国語や英語などの教科では、「1) make 2)take 3) get」のように、問題ごとに解答の選択肢が与えられ、そこから正しいものを選んでその番号のマークを塗りつぶすことになる。数学では、答えが数字で表されるものが多いため、「解答 アイ」が「10」なのであれば、アに「1」を、イに「0」をマークすることになる。

しかし、近年では数学の問題でも、数字だけで表すことができない複雑な解答が増え、他の科目と同じように選択肢から選んでマークする問題も登場するようになった。

今年の試験問題から例をあげてみる。

今回解説する共通テスト数学1Aの試験時間は70分。その時間内で4つの大問を解くことになる。大問は1から5まであるが、3から5は選択問題であり、そこから2つの大問を選んで解くため、どの大問を選ぶかも受験生にとっては大事なポイントになるだろう。

問題の傾向は年々少しずつ変わっているが、基本的には「難しい問題を、誘導にしたがって1つずつ噛み砕いて解き進める」というものになっている。そのため、問題文に載っている式変形や、選択肢などから逆算して答えを導き出すというテクニックが重宝される。

しかし、今回の共通テストではその手段が通用しない問題が出た。それが三角比の問題だ。

まずはこちらの図をご覧いただきたい。

この問題は、「水平な地面に垂直に立っている電柱の高さを、その影の長さと太陽高度を利用して求める」というものだ。今年度の共通テスト数学1Aの、大問1の後半で出題された必答問題である。

この問題をぱっと見て、「こんなに実世界に即した状況設定の問題が出題されるのか」と感じた人もいるのではないだろうか。近年では、「実用的な思考力」が重視されているため、数学や物理の理系科目でも、ただ計算式を闇雲に解くだけの問題ではなく、このような社会生活につながる問題が多く出題される傾向にあるのだ。

ちなみにこの問題は、この斜面の傾斜を表す道路標識が登場し、そこに「7%」と表示されている、という設定になっている。この「7%」の斜面は、実は角度7度の斜面と同じ意味ではない。このパーセンテージは水平距離と垂直方向の高さの比を表しているため、「sin,cos,tan」の三角比の1つである「tan」を用いて実際の角度を計算することができる。

実際、7%の斜面とは約4度の傾斜のことを表すが、このような知識も数学では必要となってくるのだ。

さてこの問題は、ここから影の長さと太陽高度の値が与えられ、先ほど求めた傾斜角度も合わせて用いて電柱の高さを求める式を立式する、という流れで進んでいく。もちろん難しい計算にはなるが、しっかり誘導がついているのでここまではなんとか食らいつくことができるだろう。

柔軟な思考力が求められる

多くの受験生を悩ませたのは、この大問の最後の問題ではないだろうか。

この問題は、求めた電柱の高さと、斜面の角度を用いて、太陽高度が変わった場合に影の長さがどのように変化するかを考える問題である。考え方自体は1つ前の問題の立式と同じだが、式変形がとても大変な問題になっている。

問題用紙に「CD」を求める式があり、その中に「テ」「ト」「ナ」「ニ」の4つの問題がある。ここに解答群から答えを当てはめたり、当てはまる数字を考えていくのだが、この式から求めようとしてもうまく行かない。ここがこの問題の「大きな落とし穴」なのだ。

冒頭でも述べたとおり、共通テストの問題は問題文がヒントになることが多い。あまり考え方がわかっていなくても、「こういう式が立っているということは、きっとこのような順序で考えるのだろう」という予測で問題が解けてしまう、ということは非常によくある。しかし、今回の場合は逆に、問題文を参考にすると遠回りになってしまうのだ。

この問題は、

__AE = AB \- CD sinDCP
ED = 7 + CD cosDCP__

という2つの式を連立し、さらにAE/EDが三角比のtanで表せることを利用してCDの値を求めていく。つまり、この問題文にある式の形に最初からするのではなく、連立した式を解き進めた結果がこの式になるのだ。このようなパターンはかなり珍しいため、多くの受験生が苦戦する問題となった。

今回のこの問題から何が言えるのか。ズバリ、「既存のパターンにとらわれない柔軟な考え方」が求められているということだ。

先に記したが、共通テストはすべてマークシート型の問題である。すなわち、答えに至るまでの過程の記述は評価の対象にはならない。これは言い換えれば、当てずっぽうの答えでも考え抜いたうえでの答えでも、点数は変わらないということになる。だからこそ、共通テストはしばしば「この試験では正確な頭の良さは測れない」と批判されてきた。

しかし、今回の問題から読み取れるように、そのような状況から脱却しつつあるのだ。もはや共通テストは、「単なる傾向と対策をつかむだけのゲーム」ではないのだ。共通テストはより今の世の中に合ったスキルを測るものへと、進化を続けていくだろう。

カルペ・ディエム

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