「仕事休みたい」が言えなくて…追い詰められた若手女性社員の悲しい決心 上司は多忙、母親とは口論【東尋坊の現場から】

福井県坂井市三国町にある東尋坊

 能登半島地震の影響で、東尋坊(福井県坂井市)は観光客もまばら。そんな1月下旬のある日の昼のことでした。吹雪の中、崖近くにある電話ボックスの中にたたずむ20代くらいの女性を発見。自殺防止活動に取り組む私たちは女性に声をかけ、相談所に来てもらいました。涙を見せる女性と会話を重ねていくうちに徐々に心を開き、東尋坊を訪れた理由について打ち明け始めました。

 関東地方から訪れたという女性は大学卒業後、大手スーパーで勤務。仕入れから売上管理まで重要な仕事を任されていました。多忙な毎日は、やりがいを感じるよりも大きな負担でした。つらくても「休みたい」の一言を伝えることができません。上司は2、3歳年上で、彼女と同じく日々忙しい状態。何かお願いすれば上司もパンクしてしまいそうで相談できませんでした。

 残業時間は労働基準法の法定内、給与額についても人並みにもらっていました。それは、つらくても文句は言えないと思うもう一つの理由でした。つらい気持ちを心にしまったまま、働いていくうちに「逃げたい」「消えたい」「死にたい」という思いで心が埋め尽くされていきました。

 プライベートでも、彼女を理解してくれる相談相手はいませんでした。母親に言っても、すぐに口論。かつて彼氏がいましたが、半年で別れてしまい、それ以降は男友達すら作ろうとは思わなかったと言います。

 逃げ場のない毎日を送り続け昨年9月に東尋坊へ。自死のための下見でした。そして今日、死を決意し、再び東尋坊を訪れたのです。不幸中の幸い、この日は大雪注意報が出るくらい天気が悪く、崖から飛び込むことを決意できず電話ボックスで暖を取っていたところを私たちに保護されました。

 「私が会社で何か行動すると周りの人に迷惑が掛かるため何もできない。会社は人員に余裕のない職場なので、休暇を取りたくても取れない状態です」と女性。病欠を届け出ることはできないのか尋ねると、「皆に迷惑が掛かるので、そんなことは出来ない」と言います。

 精神科医の診察を受けて会社に診断書を提出して傷病手当を受けて生活したら…と女性に提案。もし、それが難しかったら、私たちが東京まで行って会社の上司と話し合ってあげると伝えたところ、やっとで納得してくれました。JR芦原温泉駅に送り迎えた頃には、女性は幾ばくか元気を取り戻し、再出発を約束してくれました。

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 女性が周囲の人たちの迷惑になるまいと誰にも相談することなく一人で抱え込んだ心情は理解できます。出口は絶対にないと感じていた閉塞感の中で苦しんだことと思います。それでも人にその悩みを相談することは大切だと私は思います。閉塞感を打ち破る糸口になるからです。そして、誰かがつらい思いを吐露したときに、それを受け止めてあげるだけの優しさもまた大切だと思います。

⇒東尋坊で活動する「心に響く文集・編集局」ってどんなグループ

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 福井県の東尋坊で自殺を図ろうとする人たちを少しでも救おうと活動するNPO法人「心に響く文集・編集局」(茂幸雄代表)によるコラムです。

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