流通と物流はお客さまに寄り添うことで生活を支える長期ビジョン連載記事 vol.5

2022年11月に公表された西鉄の長期ビジョン「まち夢ビジョン2035」。2050年に目指す西鉄の姿から逆算し、どのように歩んでいくのかを示した指針である。今回は西鉄の「流通」を担う雑貨館インキューブ天神店の店長を務める秋永順子さんと、「物流」を担う国際物流事業本部の伊藤正信さんに話を聞いた。

「まち夢ビジョン2035」とは?

西鉄が定めた「まち夢ビジョン2035」は、2035年~2050年の未来像からバックキャストでビジョンを導いた。

「まち夢ビジョン2035」の中で流通はBtoC、物流はBtoBの領域で大きな役割を担っている。

物流部門は、世界で戦える事業規模の確保と高度な専門性により、濃やかなロジスティクス事業を構築していく。流通部門は、店舗が地域のコミュニティのハブとなることを目指し、新しい出会いや購買体験を創出しようとしている。

これからの流通や物流の未来はどうなるのか。そして、西鉄の物流事業と流通事業はどのように変化していくのか。

秋永順子さん

株式会社インキューブ西鉄 天神店 店長
インキューブが誕生した頃、アルバイトでインキューブに勤務。その後、新卒で別会社に入社したものの、インキューブ時代の同僚との繋がりもあり、のちに復帰し社員になる。商品計画や新店立ち上げなどを経験したのち、天神店店長に就任。

伊藤正信さん

西日本鉄道株式会社
国際物流事業本部東日本営業部 関東第二営業所 所長
入社前は世界史の教員を目指し、大学院に進学してヨーロッパの歴史を学ぶ中で海外に関わる仕事をしたいと考えるようになる。海外研修でアメリカに1年間、香港と中国の広州に6年間駐在した経験があり、帰国後は営業所勤務を経て、営業企画部においてアジア・オセアニア圏を担当しながら、航空輸出の現場業務改善プロジェクトにも参画し、現在に至る。2006年入社。

西鉄の流通事業とは?

まずは、流通を担っている、雑貨館インキューブ天神店の店長を務める秋永順子さんに話を聞いた。

そもそも「流通」によって、私たちの暮らしはどのように支えられているのでしょうか。

(秋永さん)
流通で私達の生活に絡んでいるものといえば、まずうかぶのは食品だと思います。絶対必要なものですよね。まず生産者の方が作ったものを運ぶ物流があって、それを仕入れて販売するスーパーとかがあって、ようやく私たちが食品を買うことができるわけです。

流通があってこその物流。物流があってこその流通なんですね。

(秋永さん)
そうですね。流通は私たちの生活にとって、必要不可欠なものだと思っております。

「まち夢ビジョン2035」を策定する際、2050年から逆算したと思うんですが、2050年の流通はどのようになると考えますか?

(秋永さん)
2050年から考える時、最初はあまりワクワク楽しい感じではありませんでしたね。

えっ、それはどうしてでしょうか?

(秋永さん)
「小売業がなくなったらどうしよう」という不安が強かったからです。「まち夢ビジョン2035」を策定する時は、ちょうどコロナ禍で。外出自粛になってECや配達とかデリバリーとかがどんどん増えてきていたので。

たしかにあの時期だと「将来お店なんてなくなるかも」って、思うかもしれませんね。

(秋永さん)
でも「いやいや、やっぱり残るよね」という考えに行き着きました。リアルの店舗とECサイトと2極化になるという考えに行き着いて「じゃあ未来の小売業ってどういう形になっていくのかな」という話からスタートしました。

流通部門が「まち夢ビジョン2035」を達成するために

まち夢ビジョン2035において、流通部門では、どのような目標を掲げていますか。

(秋永さん)
「五感を刺激して買う体験」を大切にしたいと考えています。ECだとモノも欲しいモノも探して買えると思います。しかも、自分の欲しい時に届きます。とても便利ですが、実際に手に取ることができないですよね。

(秋永さん)
目の前のモノを見て、自分で選んで匂いを嗅いで触ってみる。そういった、五感を刺激して買う体験というのは、リアル店舗にしかできないことです。あとは、コミュニケーションですね。

たしかに、ECサイトではコミュニケーションはできませんね。

(秋永さん)
先日、システム手帳のイベントを開催したんです。すると、お客さま同士がそこで商品を見ながら、うれしそうにお話されているんです。「これいいよね」とか「私、これ持ってます」とか。

手帳好き同士で自然な交流が始まったんですね。すてきですね。

(秋永さん)
新しい出会い、体験、コミュニケーション。そういったことは、やっぱりリアル店舗だからできることじゃないかなと思うので、大事だと思います。

そんな流通部門の目標を達成するうえで、行っている取り組みを教えてください。

(秋永さん)
取り組みとして大きく分けて3つ考えております。1つ目が「コミュニケーションという価値ある体験の場」ということと、2つ目が「オンライン上のコミュニケーションとOMOの構築」というもの。最後が「コト消費型の新しい体験価値の創造」という3つです。

1つ目の「コミュニケーションという価値ある体験の場」とは、どのような場を指すのでしょうか?

(秋永さん)
リアル店舗に来ていただいて、一緒にお話をすることで、その方に合うものがご案内できると考えています。我々の中ではコンシェルジュという言葉を使っております。

たしかに、店員さんが目的に合った物を一緒に探してくれる光景って、コンシェルジュそのものですね。

(秋永さん)
コンシェルジュの場合はパーソナライズといって、一人一人と直接コミュニケーションを取ることによって、その方に寄り添うことができ、より良いご提案ができると思います。まち夢ビジョン2035のスローガンに「濃やかに、共に、創り支える」とあるように、濃やかな対応ができるはずです。

それでは、「オンライン上のコミュニケーションとOMOの構築」とはどのようなものでしょうか。

(秋永さん)
OMOとはオンラインとオフラインの融合という意味です。ネットで見てリアル店舗でものを確認して購入する。その逆もあると思います。オンラインとオフラインの融合したものの売り方を活用し、一人一人に寄り添った方法を構築したいと考えています。例えば、SNS上のデータとか、いろんなお客様の購入履歴とかで、もうちょっと趣味嗜好に沿った商品のご提案とかができるようなものができればなと思ってます。

なるほど。では、「コト消費型の新しい体験価値の創造」というのは、どのようなことですか。

(秋永さん)
今、やっている取り組みでいうと、参加型の教室とか体験教室ですね。

たとえば、生産者と消費者が会話できる機会を作ったことがあります。文房具メーカーの方と消費者が直接会話できる「文房具マルシェ」というイベントを開催しました。メーカーの方には、文房具のよいところをお客様にたっぷり話していただきました。

なかなかできる体験じゃないから嬉しいですね。話を聞いて「いいな」と思って購入した商品には、愛着が湧きそう。

(秋永さん)
これからは「コトの体験」ができるようなスタイルを考えていきたいと思っています。たとえば、スーパーでも、畑を有したお店を作っているケースがあります。収穫体験からお料理を一緒に作って食べるっていうところまでができたり。

いいですね。大人だけじゃなくて、子どもにも喜んでもらえそうだし、食育になりますね。

(秋永さん)
自分たちの口に入るものが、どう作られているのかを知るよい機会になると思います。さらに、海外だと「グローサラント」といって、スーパー店内で買った生鮮食品をその場で調理して食べられる飲食業態があるので、参考にしたいと思っています。

「買うだけのスーパー」から、ECサイトにはマネできない「体験して買うスーパー」への進化が始まっているんですね。わくわくします。

2050年の未来でも「流通」は必要不可欠

リアル店舗は未来でも必要だと思いますか?

(秋永さん)
間違いなく必要です。本当にコロナ禍で思いましたけど、人と会えないとか、人とコミュニケーション取れないのって、かなりのストレスですよね。リアル店舗はコミュニケーションを生む場所だからこそ、なくなってほしくないなと思いました。

たしかに、どんなにECサイトが便利になっても、リアル店舗がないまちは寂しすぎると思います。最後に秋永さんが思う「流通」とはどのようなものですか。

(秋永さん)
私にとって流通とは生きていく上で欠かせない存在だと思っております。モノを売るだけではなく、人とコミュニケーションを取ることで、人と人とが笑顔あふれる場を作り出すことも重要だと思いますし、地域のハブみたいになってコミュニティができていったらなっていうのが理想です。

本日は貴重なお話をありがとうございました!

西鉄の物流事業とは?

小売店に届くまでには、商品は生産者から小売店に輸送されている。その部分を担っているのが、物流分野だ。そんな物流分野に関して、国際物流事業本部の伊藤正信さんに話を聞いた。

そもそも「物流」って、どのようなものなんでしょうか?

(伊藤さん)
物流事業とは、生産したものが消費者へ届くまでの物の流れに関わる事業のことです。たとえば、食品の物流で考えてみましょう。 食品は農家さんが野菜を作ったり、工場で食品を作ったりしますよね。でも、それだけでは消費者に届きません。

えーっと、食品を小売店に届けないといけませんよね。

(伊藤さん)
そうです。皆さんにとって身近なスーパーやコンビニといった、小売店に運ぶ必要があります。そうやって、生産者と消費地を繋ぐのが物流の仕事です。

なるほど。では、「国際物流」とは?

(伊藤さん)
国際物流とは、国境を超えて行われる物流のことです。

暮らしにかかわるもの全てに、国内外問わず、物流が関わっているわけですね。

(伊藤さん)
そうです。物流がなくなると、企業だけではなく、一般消費者の皆さまも困ってしまう。「モノの流れを止めない」ということを念頭に置いて、業務に取り組んでいます。

とはいえ、西鉄で船や飛行機を持っているわけではないですよね。具体的にはどのような業務になるのでしょうか。

(伊藤さん)
船や飛行機のスペースを買って、荷主企業に提供する代理店業が中心となります。

なるほど、そういった仕組みなんですね。

(伊藤さん)
また西鉄の物流は、飛行機と船だけではなくて、その前後にある通関や保管も行っております。トータルで最適なサービスをお客さまに提供しています。

2050年の物流はどうなる?

「まち夢ビジョン2035」を策定する際、2050年から逆算したと思うんですが、2050年の物流はどのようになると考えますか?

(伊藤さん)
かなり先になるので予想はなかなか難しいものでした。「人口動態」を手掛かりに予想していきました。つまり世界ではどこの人口が増えて、どこの人口が減るのか。そして、どのような経済の反応があるのか。

どうして、人口動態から物流の未来を予想できるのでしょうか。

(伊藤さん)
人口が増える地域では労働力が確保しやすくなります。となると製造業の中心は人口の多い地域に移動していくだろうという予想ができるんです。工場があれば、生産した物を運ばなければならなくなるので、物流が発生します。

なるほど、そういうロジックになるんですね。ちなみに人口動態で見ると、今後盛り上がってくるのはどこになるんでしょう。

(伊藤さん)
人口動態で見ると、アフリカ、南米は盛り上がってくると思います。

そういった物流の情勢と「まち夢ビジョン2035」を照らし合わせた時に、物流分野ではどんなことを目標にしていますか。

(伊藤さん)
まずは「お客さまに寄り添う」ということを目標に掲げています。

物流でお客さまに寄り添うというと、どんな内容になるのでしょうか。

(伊藤さん)
国際物流を扱う私たちにとってお客さまは企業になるわけですが、顧客企業によっては、規模の大きな輸送が求められたり、高度な専門性を要するような輸送が必要だったりします。そういった要望の一つ一つと向き合い、どう応えるのかということを考えていくことになりますね。

物流部門が「まち夢ビジョン2035」を達成するために

物流部門では「まち夢ビジョン2035」を達成するために、どのような取り組みを行っていますか。

(伊藤さん)
大きく分けて、3つの取り組みを考えています。グローバル拠点の拡大・連携強化、物流ロジ倉庫の拡充、サステナビリティ対応です。

まずは「グローバル拠点の拡大・連携強化」について教えてください。そもそも、グローバル拠点とは何ですか?

(伊藤さん)
グローバル拠点というのは、海外にある西鉄の拠点のことですね。世界でくまなく西鉄の拠点を作り、西鉄の高品質なサービスを提供するというようなことがグローバル拠点の拡大の意味するところです。アフリカや南米が進出の候補地となっていくと思います。

また「物流ロジ倉庫の拡充」というのもあるんですが、倉庫が必要になってくるんですか。

(伊藤さん)
物流における倉庫は、一般にイメージされる「使わない物をしまっておく場所」とは全然違い、お客さまからお預かりしたものをいかに完璧に把握して、いかに動かしていくかということが重要になります。

物をしまっておく場所ではなく、動かす拠点ということなんですね。

(伊藤さん)
はい。高度な管理のできる倉庫をご用意することで、よりお客さまに寄り添ったサービスが可能になります。

高度な管理をできることがお客さまに寄り添う上で重要なんですね。

(伊藤さん)
そうですね。また保管場所についてもご要望をお聞きしながら最適な提案をしていきます。生産地側なのか消費地側なのか、日本なのか、それとも北米、ヨーロッパ、アジアなのか、などなど、とことんお客さまに寄り添って考える、それが、西鉄の物流のスタイルです。

なるほど、最後に「サステナビリティ対応」を実現するためには、どのような取り組みを行っていますか。

(伊藤さん)
航空貨物の輸送時に大量に排出されるCO2が問題になっています。CO2排出の少ない燃料を使っていくための取り組みを、航空会社さんとタッグを組んでやっています。

どういった内容の取り組みになるんでしょうか?

(伊藤さん)
Sustainable Aviation Fuel 持続可能な航空燃料、略してSAFという、主に動植物や廃棄物由来の原料から製造される航空燃料ですね。航空燃料はこれまで全て原油から作られてきました。いっぽうでSAFには例えば食品工場から廃棄されていたような食用油も原料の一つとして使われているんです。製造過程や使用時に排出するCO2の量は従来の燃料からおおよそ80%削減されると言われています。

80%削減! それはすごい。最近ではどの企業でもサステナビリティの考え方から環境対応を行っていますよね。そういったお客さまへの貢献を含めて持続的な物流サービスを考えていくこと、まさに寄り添った物流を実現しようとしているんですね。

人と調和し、ハーモニーを奏でる西鉄へ

「まち夢ビジョン2035」の策定に携わってみて、伊藤さんご自身はどのように感じましたか?

(伊藤さん)
西鉄で働く人、お客さま、株主の皆さん、いろんな方々の思い、期待を汲み取ることが重要だなと改めて感じました。

どういったことを通じて、そのようなことを考えたのでしょうか。

(伊藤さん)
まち夢ビジョン2035のスローガンとして「濃やかに、共に、創り支える」という日本語のタイトルがあるんですが、西鉄は海外進出しているという面も踏まえ、英語のタイトルも必要ということになったんです。それが「Grow in harmony with you」というタイトルになります。

日本語をそのまま英語に置き換えたものではありませんが、込められた思いが伝ってきますね。

(伊藤さん)
日本語を直訳するのではなく、シンプルかつナチュラルな表現で日本語に込めた思いを置き換えられないか、と考えて生まれた、英語版のスローガンです。日本語のスローガンに込められた思いを、『お客さま、会社の仲間、パートナーの会社=with you』と『濃やか、寄り添い=harmony』、そして『創る、成長する=grow』とし、このような英語表現が策定メンバーの中で提案されました。西鉄グループの英語圏の現地法人に在籍するネイティブスピーカーへ背景を伝えた上で、意味の通ったナチュラルな表現になっている?と確認もしたんですよ。

シンプルに言い換えることで、海外でも受け入れやすく、イメージは鮮明になりますね。未来への明るいチャレンジ、と捉えることもできそうです。

(伊藤さん)
そうですね。西鉄の文化としては「安全・安心」が根底にあると思うのです。もちろん「安全・安心」は絶対にこれからも守っていくことが必要です。ただ、西鉄は新しいことにも次々とチャレンジしています。国際物流の分野でもそうです。西鉄は「安全・安心」の土台に「挑戦」も加えて動き出しているということ、これがもっと広く知られるといいですね。

最後に、伊藤さんにとって「物流」とはどのようなものでしょうか。

(伊藤さん)
目立たないけれど、経済産業の最前線に携わることのできる分野だと思います。西鉄で物流に携わっている仲間たちには、自分は最前線に携わっているんだ、それってちょっと格好いいな、と感じながら仕事をしてもらえたらな、と思っています。

本日は貴重なお話をありがとうございました!

今回の取材を通じ、物流と流通は人々が暮らしを営む上で、必要不可欠であることがよくわかった。それは、2050年の未来でも変わらない。

物流と流通がよくなれば、暮らしが良くなる。暮らしが良くなれば、一人一人の人生が豊かになる。そうすることで「まち夢ビジョン2035」「濃やかに、共に、創り支える」というスローガンが、達成に大きく近づくことは間違いないだろう。

西鉄と人と社会が調和し、居心地良い幸福感あふれる社会へ。伊藤さんと秋永さんの今後の挑戦に期待したい。

© 西日本鉄道株式会社