秋田出身の店主が魅せる、立川『ほじなし』の月替わり中華そば。爽やかな山わさびご飯を添えて

立川の閑静な住宅地にある『ほじなし』は、1日1種類のみ登場する中華そばが人気。秋田出身の店主によるアレンジの効いた中華そばは、懐かしさと新しさを兼ね備えている。夜は秋田の郷土料理や日本酒を提供。古民家風の店内は、つい長居をしたくなる空間だ。

その道30年の店主が中華そばをスタート

ちょっぴり不思議な店名で気になってしまう。

立川駅からほどよく離れた、閑静な住宅地にひっそりと店を開ける『ほじなし』。

以前は「あかつき」という店名で約10年にわたり和食とそばを提供していたが、中華そばを提供する店にガラリと業態変更して2023年で丸3年になる。

木を基調とした店内は、落ち着く雰囲気。

店を一人で切り盛りする店主の柴田信博さんは、料理の道に約30年携わってきたベテランの料理人。これまで、和食やフレンチ、イタリアン、焼き鳥など、多種多様なジャンルの店で腕を磨いてきた。

そんな長い料理歴を持つ柴田さんだが、ラーメンを作るのは『ほじなし』が初めて。これまでの経験は活かしつつも、あえて知識のない料理を一から研究するというチャレンジ精神に脱帽する。

「僕の場合は同じことをずっとやるより、いろんなことをできる人間になりたくて。陸上の十種競技でチャンピオンになった人を“キング・オブ・アスリート”と呼びますが、そんなイメージですね」。

そう話す柴田さんは、2014年に自身の店をオープンしたときから「何屋をするかは決めていなかった」と話す。そのため、どんな店にでもなれるようにと、店内はあえてシンプルな造りにした。言われてみると、落ち着きのある店内は、定食屋、居酒屋、ラーメン屋、そば屋……と、思い浮かべれば何でもしっくりきてしまう。店を途中で業態変更することも、実はオープン当初から思い描いていたことなのだとか。

「自分の経験値になることであれば、何でもやろうと思っています」と柴田さん。現在でも中華そばをメインにしながら、夜は和食を提供するなど一言で「ラーメン屋」とは言いきれない、独自のスタイルを貫く店だ。

初めてのことにチャレンジし続けるのは苦労がつきものだが「そのスリルがたまらないんですよね」と柴田さん。店名の「ほじなし」という言葉も、自身の出身地である秋田の方言で「まともじゃない、おかしい」などの意味を持つ言葉で、自分のことを表現したのだと笑う。

この店名に反応して、秋田出身の人たちが来店してくることも少なくないそうだ。

入店して初めてわかる“本日の中華そば”

取材時に提供していたのは、昔懐かしい見た目の淡麗煮干しそば950円。

中華そばは1日1種類のみ提供し、月に一度くらいのペースで内容が変わる。これまでにも、生姜醤油、喜多方中華そば、旨辛生姜秋田味噌など、個性豊かな中華そばが登場してきた。

基本的には東北のご当地ラーメンからインスパイアされたものが中心だ。その日提供している中華そばの内容は店先の看板などにも書かれていないので、入店してから初めてわかる、というワクワク感と面白さがある。

取材時は、柴田さん自身も昔から慣れ親しんできた、秋田のご当地ラーメン「十文字ラーメン」をベースに、福島のご当地ラーメン「喜多方ラーメン」の要素をミックスするなどしてアレンジした、淡麗煮干しそばを提供していた。

スープは、鶏と豚の清湯スープに煮干しや焼き干し、かつお節の出汁を合わせ、背脂を散らしている。魚介系のやさしさを感じつつ、動物系のパンチもじわじわと効いてくる、まさにいいとこどりのバランス。まとまりのある味わいは、計算しつくされ、なおかつ丁寧に仕込まれているのが伝わる。

本来、十文字ラーメンに動物系の出汁は使わないそうだが、動物系の出汁を加えることでギリギリあっさりだけど満足感もある、万人受けする一杯となっている。

存在感のある太麺は、昨年から取り入れた手打ち麺。そば打ちの経験から生み出された、もちもちとしたコシのある麺はスープによく絡み好相性。あえて素朴な田舎テイストのラーメンにしているそうだが、この手打ち麺がいい味を出している。

具材も、十文字ラーメンのトレードマークといえる「麩」を入れて再現したり、チャーシューは八角などのスパイスで味付けしてアクセントにしたりと、一つ一つにこだわりが光っている。

食べ終わったあとは「ほかの中華そばも食べてみたいなぁ」と自然に考えていた。

お供には山わさびご飯、夜は秋田の地酒で乾杯

中華そばと合わせて食べたい、山わさびご飯200円。

男女問わず、中華そばと一緒に食べる人が多いというのが、北海道産の山わさびを使った山わさびご飯だ。ラーメンと合わせるご飯ものといえばチャーシュー丼やチャーハンなどが一般的だが、山わさびご飯は「もう少し食べたい」というときに、ちょうどいいサッパリ感。醤油を垂らしながら、ネギやかつお節と一緒にちょびちょびと食べよう。マイルドな辛さが鼻を抜け、爽やかな後味で締めにもいい。

日本酒好きにはたまらない、秋田の珍しいお酒がずらり。

夜営業では、「あかつき」時代から提供していた秋田の郷土料理とともに、地元の酒屋から仕入れた日本酒を味わえる。東京ではなかなかお目にかかれないレアな銘柄もラインナップしている。「なるべく開けたばかりのフレッシュなお酒を飲んでもらえるように」と、コンパクトな四合瓶で用意しているのも粋な計らいだ。

夜は地元の人を中心に、一人でふらりと来店する人が多いそう。お酒を飲みながら、柴田さんとお客さん、そしてお客さん同士の会話も弾む。

なお、中華そばの提供は年内で終了し、『ほじなし』はまた新たなステージへと進む予定だ。柴田さんの作る中華そばを味わえるのは今がチャンスかもしれない。気になったら迷わず足を運んでみよう。

ほじなし 住所:東京都立川市高松町3-26-16/営業時間:11:30〜14:00・18:00〜21:00
※ラーメンの提供は14:00まで。/定休日:火、第2・第4月/アクセス:JR立川駅から徒歩9分

取材・文・撮影=稲垣恵美

稲垣恵美
ライター
北海道出身のお散歩・お出かけ好きライター。晴れた日はどこかに出かけたくてソワソワしだす。フリーペーパーの出版社勤務後、現在はフリーランスで活動中。

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