古舘伊知郎“伝説のF1実況”に成田悠輔が大爆笑 「もはや伝えようとしていない。言葉の意味を超越している」

経済学者・成田悠輔が、“未来の日本を切り開く変革者=PLAYER”と深夜のバーで語らう風情で繰り広げるトーク番組『夜明け前のPLAYERS』。第12夜のPLAYERは、『報道ステーション』初代メインキャスターとして知られるフリーアナウンサー、古舘伊知郎。初対面の成田は「日本の失われた30年の栄光と没落を語り手として支えてきた“おしゃべり大魔神”」とスタジオに呼び込んだ。

それを受けて古舘は「素晴らしい紹介をしていただいて」とシニカルな笑みを見せる。ネットで“神回”と称されたこの回、この後、互いに一歩も引かず、マイペースで交わされる会話の応酬に視聴者は脳内をかき乱されるのだが、まずは、古舘が好きだというアルマニャックを飲みながら、出身小学校(在・東京都北区滝野川)が近所だという軽いジャブから会話は始まった。

■北区出身の2人が迫る“言葉の正体” 視聴者おいてけぼりの専門談義がさく裂

「何で俺を呼ぼうとしているのか」どんなに探っても分からなかったという古舘に「まさか滝野川つながりで?」と問われた成田はニヤリ。いきなり“言葉の正体”に迫る難問を切り出した。「半世紀近く語り手をされてきて、言葉について強さを実感されますか。それとも無力さ、虚(むな)しさ?」。

1997年にテレビ朝日入社以来、プロレス実況から『報道ステーション』のメインキャスターまで数々の番組で語りを担った古舘は「両方ある」と答える。詩人・田村隆一の一節を借りて“言葉の強さ”を示すも「反面で言葉って、幻想だとも思うんですよ」。それは「書けば文字になるけれど、それはどこまでいってもインクだったり、光る画面だったりする」と、“言葉”そのものの実態に触れたことがないと説明する。

さらに、釈迦(しゃか)の推し活をしているという古舘。自身の煩悩について言語学者の金田一秀穂氏と語らった際、「釈迦は煩悩の正体は言葉だと悟ったんじゃないか」と言われ虚(むな)しく思ったとも告白。次いで、自身が傾倒するアメリカの哲学者、ノーム・チョムスキーが唱える生成文法・普遍文法を挙げ、人間は生まれながらにして言語に関する知識を持っているという解釈にロマンを感じるなど、全方位からの知識と言葉で成田に畳み掛けた。

返す刀で成田は「人間が言語を使ったり習得するプロセスだけを考えると生理学的、身体的な基礎は重要かもしれない」としつつも、脳も身体もない生成AIが人間と同レベルの言語を扱えるようになっていると指摘。その点から、言葉の一番大きなポテンシャルは、脳や身体とは別の“独立した何か”ではないかと語り、古舘をうならせた。

一方古舘は、“文法上正しいが意味のない文章”が成り立つことを挙げて生成文法・普遍文法にこだわる。成田も同調、歌詞を例に「絶妙に無意味じゃないと人の心をつかみにくい」とし、その状態を「言語が言語として勝手に自走して、僕たちの解釈や理解と関係ない世界を勝手に作り出す」と表現。「言語の世界性や宇宙性というのは魔術的だ」と思いにふける。

視聴者からは「このまま対談し続けたら、何かしらの大きな謎にたどり着いて解き明かしそう」「いろいろなインスピレーションを刺激してくれる」「前半ぶっちゃけ何言っているか分からなかったけど、なぜか面白かった」とトークの難解さはありつつも絶賛だ。本人たちも「冒頭から田村隆一とかチョムスキーとか、こんな話になるとはまったく想像していなかった」と言うほど予測不能な専門談義がさく裂した。

■古舘は実況病?! 「客席の中でヤジを飛ばしている客みたいな感じ」

「現世の話をしましょう」と成田が視聴者目線で注目したのは古舘のプロフィール。関わった番組の多様さだ。エンターテインメントだけを取ってもプロレスの実況中継からバラエティー番組の司会までをこなしてきた。しゃべりの構造がまったく違うのにすごいと称賛し「どれが一番、興奮するとか楽しいとかありますか?」と成田。

古舘は迷わず「実況中継」と答えた。「言葉の数と表現の仕方と描写の力でガッツンガッツンいく」自身の実況を“よろず実況”と呼び、唯一無二と感じてもらいやすいとも説明する。と突然、目の前に座る成田の出で立ちを実況し始めた。「黒あるいはネイビーブルー、深い色を基調といたしまして、比較的変わった……」と30秒間息も継がず流れるように言葉を紡ぐ。「放っておいたらずっと何時間でもずっとしゃべれるんです。楽しくなってくるんです」とうれしそうに話す古舘に、笑いを抑えられない成田は「それ、病名はないんですかね?」。

「実況病」と笑いながら答える古舘に成田はさらに「普通“語る”って、語っている側が語り掛けている側に相対するじゃないですか、でも実況って、聞いている側と実況者が同じ方向を向いている」とし「客席の中でヤジを飛ばしている客みたいな感じ」と実況の不思議を指摘。加えて、そんな特殊な形態が驚くほどハマる古舘という人物は他の語り手と何が違うのかと興味を示した。

古舘は「ちゃんとした描写から外すのが好きなんです」と通常のF1実況と古舘節の違いを実演して見せる。「スタートした!ゲルハルト・ベルガーがトップで入っていった!そして各マシーンが、“五月雨をあつめて早し最上川”!」と伝説の語りを披露すると、間近で聞いていた成田は大爆笑だ。

「そういう“雰囲気”で聞いてもらっちゃう。そういうのが好きでガンガン入れたんですよ」と言う古舘に「さっきの話に戻って、それ、言葉の意味を超越していますから。もはや伝えようとしていない!」と成田。確かに「そうだ」と古舘も腹を抱えて笑い、2人は杯を交わした。

■ズルいまでの成田の声で催眠講演会を実施!? 同調圧力になりつつある“笑い”にメスを

そんな古舘も「スマホの画面をぶん殴りたくなった」ほど成田に嫉妬したことがあると言う。とある学校の卒業式で放物線を人生になぞらえて語った成田の声を聴いた時だ。反則だと思ったのだとか。職業柄、声のいい人には沢山会ってきた古舘。声がいい人は言葉の最初の音や語尾など、どこかしらに響きがあると分析する。しかし「成田さんがズルいのは、全音が響いている」のだそうだ。ゆえに訴求力、説得力たるや半端ないのだとか。

また番組についても、成田の声がいい子守歌になると評する古舘。すると「僕の声、寝るために聞いているって言う人によく会うんですよね」と成田。講演会に来たファンが、普段成田の声を寝る時に聴く習慣のせいで講演会でも寝落ちしてしまうと明かす。「今後は“いかにみんなを眠らせるか”という催眠講演会をやっていこうかと」と冗談めかすと、意外にも古舘が大賛成の声を上げた。

その理由はこうだ。「生きているうちが一番いいんだという中で今”爆笑病“という病があると思うんです」と古舘。「受ける」という言葉を一般の人が頻繁に使うこと、そして、突出したり目立ったりすることを「痛い」と言うことで起きる同調圧力。そのために皆が「笑っておけばいいや」と自分のキャラを演じてうまくやろうとしていることを憂う。

「笑いも、激しすぎると“笑わなきゃいけない”という強迫観念になっておかしい。(最近)そっちばっかりに偏っている」そして「今どき(の日本)は睡眠障害の嵐じゃないですか」という理由で催眠講演会を支持するのだそうだ。

「(催眠講演会は)笑いを超える癒やしになるかも」と吉本興業に新事業として睡眠部門を提案しようなどと2人は大盛り上がり。成田は吉本興業の大﨑前会長に「睡眠部門、よろしくお願いします」とモニター越しにメッセージを送った。

本対談は『夜明け前のPLAYERS』公式HPでノーカット版が、公式YouTubeでディレクターズカット版が配信されている。

「夜明け前のPLAYERS」
公式HP:PLAY VIDEO STORES
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写真:(C)日テレ

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