古舘伊知郎 間違っている世の中で「思いっきり楽しく間違ってくれ」 テレビの強迫から解放された場で若者に語る

経済学者・成田悠輔がMCを務めるトーク番組『夜明け前のPLAYERS』。第12夜では、ゲストのフリーアナウンサー・古舘伊知郎と成田が巧みで大人な言葉の応酬を見せた。話題はテレビ、そしてテレビ報道の行方へ。その中で、2004年から12年間『報道ステーション』のキャスターを務めた古舘が語る報道への愛憎から、成田が引き出した言葉は“テレビの衰退”だ。そこにはテレビの栄枯盛衰を目の当たりにしてきた古舘だからこその生き様が込められていた。

■テレビが衰退しても「しゃべることしかない」 アントニオ猪木から学んだ生き方の物語化

今もテレビ報道に興味があるという古舘に成田は、テレビ、特に民放の報道が衰退していくのであれば今後「報道は誰が担っていけば良いのか」と問うた。テレビや新聞はこれまで、成田いわく“特殊な免許事業”のおかげで各地に人を張りつけ、コスパを度外視してでも調査をやり続けられた。その仕組みが機能しなくなる未来への問いだ。

「いやあ、分かんないな」と窮する古舘。「非常に簡便な情報の断片、つまり事件や政治模様、経済模様の情報の断片が踊る中で、自分がどう解釈するかといったリテラシーの問題になるのかな」と絞り出す。

受けて成田は「その断片的な情報を手に入れるセンサーのようなものは増えていますよね」と、誰もが“トレーニングされていないジャーナリスト”のような振る舞いの昨今を指摘。「断片的でまったく信頼できないような情報をうまく集約して、質の良い情報に変化させる装置を誰が作れるのかということが問われている」と議論を深めると、今度はさらりとかわす古舘。「成田さん、そういうの作ってくださいよ。それで俺にしゃべらせてくださいよ。月~金、ぜんぜん嫌じゃないですよ(笑)」

古舘の前のめりな覇気に当てられた成田が「そのみなぎる体力はどこから?」と笑うとすかさず「しゃべることしかないんだと自分の物語を固めましたから、当然エネルギーは一本化されるわけです」と古舘。自分が荼毘(だび)に付されるまでの実況中継を披露し、古舘ワールドに成田を引き込んだ。

古舘は、生き方の“物語化”はアントニオ猪木の姿を見て学んだのだと言う。テレビ朝日に入社後間もなく『ワールドプロレスリング』の実況担当となった古舘にとって、アントニオ猪木は近しい存在だ。何度も病床に見舞いに行く中で、やせ細る自らをさらしながらも「元気ですか!」と最期まで“アントニオ猪木”を配信し続ける姿を見た。

「人間としてのもろさや弱さを“アントニオ猪木”という、自分が作り上げたネーミング、プロレスラーのほうで固めた人。自分で作ったモノの物語の中に人間としての別の部分を封印しちゃった人」とリスペクトし、自らも同じ道を歩むと決めたのだと言う。

■「テレビは生き残ろうと思わなくてもいい」 多様な欲望とスタイルが乱立する時間を体験すべき

この日は、たまたま見学に来ていたという現役大学生3人がサプライズでスタジオに呼び込まれた。古舘と成田の“テレビ衰退論”に対し「テレビの“良かった時代”を取り戻したい」という学生や、自説を2人にぶつける学生など、さながら講義のような様相に。そんな中飛び出した「民放の報道が生き残るには?」との質問に古舘は「生き残ろうと思わなくてもいいんじゃないか」と答えた。

「テレビというゆりかごで育ってきたから、生き残るために、テレビの良さをもっと出すためにってずっと思ってきた」としつつも、物事の移り変わりに従って何時にどの番組を見るかといった形や時間に支配される時代ではなくなったと冷静な現状認識を語る。さらに個人的には「極論すれば(民放の報道が生き残るか否かは)どうでもいい。とにかく自分がいろいろなことをしゃべれていればいいってすごくエゴイスティックになる」と告白した。

成田は「それぞれの人が、そういった欲望とスタイルを全開にしたものが大量に乱立している、戦国時代的なところに突入しつつあるのかな」とし、それを体験することが大切だと話す。その先のことは「予測すると言うより、これら全体を包み込むような新しいプラットフォームをどうやって作るかという実践次第だと思う」と答えた。

■「間違っていると思って思いっきり間違いを生きて」 最期に若者に伝えたい言葉

古舘と成田の言葉と知恵の応酬は「もはや戦いのようなトークだ」とネットでも話題だ。古舘も後にこの収録を「子どもの頃、夜の浜辺に出てずっと暗い海を見ているようなワクワクを感じました」と振り返った。モニターの明かりとわずかな照明という”テレビの定番“を崩したセットの中で、間を排除し笑いを求められるテレビの強迫からすべて解放された気分だったと語った。

成田が古舘に最後に問うたのは、今際の際(いまわのきわ)に古舘のことを知らない若者に何を伝えたいかということだった。少し考えた古舘は「思いっきり楽しく間違ってくれ」と答えた。

「君が生きる世界は確実に間違っているから。人間が生きるということは、基本的に間違えるから……。でもそれが人生だと思うので間違っているからって気にしないで。でも間違っていると思って思いっきり間違いを生きて」。死ぬまでしゃべっていたいと思いながらも、報道番組を担うことで言葉を自制した経験を持つ古舘の言葉は重い。

さらに「人間が欲望に従って自己保存の法則(=本能)を持ってエゴイスティックに生きるというのは、ほんとうは間違っていると思うから、間違っているのだからしょうがないって生きたほうが良いような気が僕はする。成田さんは違いますか?」と返す。「そう思うかどうか、もうしばらく試行錯誤したいと思います」と即答せずに言葉を収めた成田に、「そうか」と一言、古舘はほほ笑んだ。

収録後、感想を聞かれた成田は「だべっているだけに見える言葉というのが実は、人間や社会にとって最も中身のある、実態のあるものなのかもしれない」と感じたと言う。久々に魔術的な言葉の原点に戻れたと言う本対談は『夜明け前のPLAYERS』公式HPでノーカット版が、公式YouTubeでディレクターズカット版が配信されている。

「夜明け前のPLAYERS」
公式HP:PLAY VIDEO STORES
公式YouTubeはこちら

写真:(C)日テレ

© 株式会社 日テレ アックスオン