ENLITENがREGNOを変えた!?「乗ったら違いが分かる」新しいブリヂストンの基盤技術と「GR-XⅢ」のこと、もっと知りたい!

ブリヂストンが、「深みを増した空間品質と磨き抜かれた走行性能」を謳う乗用車用プレミアムブランド新商品「レグノ GR-XⅢ」を発表したのは、2023年12月12日のこと。年明けの2024年1月23日、その提供価値とコミュニケーション戦略を含めた詳細なメディア向け発表会が開催されました。

ニーズの多様性に素早く対応できる商品設計力

話題の中心は、新しいREGNO GR-XⅢ(レグノ ジーアール クロススリー)で国内市販乗用車向けに初めて採用された商品設計基盤技術「ENLITEN(エンライトン)」がもたらす、製品性能の進化です。

「REGNO」ブランドのコア・コンセプトである静粛性に加え、ハンドリング性能も向上。「レグノ史上かつてない空間品質と質の高い乗り味を両立した新しいREGNO FEELING」が、実現されている。

エンライトン自体は、「EV時代の新たなプレミアム」タイヤというキャッチフレーズで2019年に発表され、OEMを中心にプロダクツ化が進められてきました。

当初ははっきりと、エコロジカルな側面に焦点が当てられていたように思います。けれど2023年12月には、モータースポーツシーンでの技術開発に絡めるカタチでスポットライトが当たりました。

タイヤを構成する部材を3つのモジュールに集約したモノづくり基盤技術である「BCMA(Bridgestone Commonality ModularityArchitecture)」と合わせて、アジャイル(スピード感のある、というニュアンスでしょうか)な開発を加速させるファクターとして、より攻める印象へとスイッチしていきます。

もともとブリヂストンは、独自性をアピールするセンスが抜群です。たとえば1993年に発表された基盤技術「DONUTS」は、タイヤにこだわるドライバーに限らず、幅広いユーザー層に認知されました。タイヤに関する技術名としてはおそらく、日本一知名度が高いのではないでしょうか。

DONUTSの正式名称はDriverOriented New Ultimate Tire Science。「GUTT(自動進化設計法)」「O-Bead(真円性向上ビード)」「LL(長連鎖)カーボン」の3つの新しいタイヤ開発技術で構成されていました。

一般のユーザーでも「乗ったら違いが分かる」「安心・安全」なタイヤ、というイメージを定着させることに成功。タイヤショップに「ドーナツ下さい」というお客さんが、続々押し寄せたとか寄せなかったとか。

1997年にAQ DONUTSに進化、ライフを延ばす「AQコンパウンド」とともに、従来技術はそれぞれ「GUTT-Ⅱ」「O-BeadⅡ」「新L.L.カーボン」にグレードアップしました。さらに2000年には、ますます劣化に強くなったAQ DONUTS2が登場しています。

近年では「ドーナツ」の名が前面に出てくることはなくなったように思えますが、そこで生まれた技術群は今でもブリヂストンタイヤのラインナップに採用されています。

エンライトンはある意味、そんなドーナツの積み重ねてきた伝統を受け継ぐ、新世代の基盤技術。求められるニーズの変化にスムーズかつ素早く合わせることができる「多様性」に優れたタイヤづくりを可能としているのです。

「ゴムを極める」「接地を極める」もちろん環境性能も

実はREGNOもまた、代を経るにしたがって多様性が進められたブランドと言えるでしょう。フラッグシップブランドとして1981年に誕生、40年以上を経た現代では、Great Balanceを意味する「GR」系を主軸にセダン用(GR-XⅡ:従来型)、ミニバン専用(GRVⅡ)、軽自動車専用(GR-Leggera)がラインナップされています。

従来性能をすべて向上させたうえで、プラスアルファのニーズに応える。全方位での商品力アップに、そうとうな自信を持っているようだ。

どのカテゴリー向けであっても、上質で快適な車内空間、という魅力は共通。ロングライフ性能にもこだわり続けてきました。

そんなREGNOがGR-XⅢに進化するにあたって、エンライトンは単なるエコ技術ではない、マルチタレント性を備えた基盤技術であることをより明確にアピールしてきました。コンセプトはずばり、「究極のカスタマイズ」です。

背景には、モータースポーツシーンに由来する、さまざまな技術の熟成と深化があるようです。

2023年ブリヂストンモータースポーツ活動60周年を迎えるに当たって、「極限の挑戦」という次のステージへの挑戦が明らかにされました。株式会社ブリヂストン 常務役員であり製品開発管掌の草野亜希夫氏はその席で、グローバルモータースポーツ活動を通じた「究極のカスタマイズ」への技術開発に取り組むことを宣言しています。

2023年10月22日~29日にオーストラリアで開催された「2023 Bridgestone World Solar Challenge」において、ブリヂストンはエンライトンを搭載したタイヤを当社過去最大35チームへ供給した。太陽光による限られた電力で約3,000Kmの長距離を走り切るという過酷な条件に対応するために、低転がり抵抗、耐摩耗性能、軽量化に特化してカスタマイズするとともに、再生資源・再生可能資源比率は63%に達していた。

そこでは「コア技術開発」の次のステージとしての、モータースポーツの重要性が語られるともに、走る実験室で進化を遂げたエンライトンが、これからのブリヂストン製品にフィードバックされ、新たな価値を創造することが予告されていました。

リリースに並んだ謳い文句だけ見ても、実に挑戦的です。モータースポーツを通じて「ゴムを極める」「接地を極める」その上で「サステナビリティ」への取り組みも加速させる・・・改めてモータースポーツとの関連性を明確にすることで、エンライトンの世界観が一気に広がる。そんな展開が見えてきます。

進化したエンライトンによって「薄く、丸く、軽く」というタイヤの基本性能を徹底的に磨き、従来のタイヤ性能を全方位で向上させた上で、タイヤに求められる多様な性能をお客様ごと、モビリティごとにカスタマイズ…ブリヂストンはそれを、「エッジを効かせる」究極のカスタマイズと定義しているのだと思います。

「エッジ」というととがった印象がありますが、そこには「際立つ個性」といったニュアンスが含まれているようです。

HANDLING(ハンドリング性)とWEIGHT(軽量)へのこだわり

それではエンライトンをはじめとする新技術の採用によって、レグノGR-XⅢはどのような「エッジ」が効いたタイヤに進化しているのでしょうか。

エンライトンともに採用されている基盤技術「BCMA(Bridgestone Commonality ModularityArchitecture)」はタイヤの骨組みであるカーカスと補強帯であるベルトに関しては、モジュール共用している。一方で、市場やユーザーニーズにフレキシブルかつ素早く対応するために、トレッド面で性能をカスタマイズする手法を採る。
GREAT BALANCEの進化と拡張は、妥協ではなくすべての性能の調和を拡大する形で完成されている。

2023年版のブリヂストンタイヤカタログには、「ブリヂストンが考えるタイヤに大切な7つの性能」として、直進安定性/ドライ性能/ウエット性能/低燃費性能/ライフ性能/静粛性/乗り心地が挙げられています。

最新となるGR-XⅢのリリース中では、「これからのタイヤに求められる価値」という目線で、進化したGREAT BALANCEには、SILENCE(静粛性)/COMFORT(乗り心地)/WET(ウエット性能)/ECO(低燃費性能)/LIFE(耐摩耗性)が継続「採用」されています。

一方で新たにHANDLING(ハンドリング性)/WEIGHT(軽量)/MATERIAL CIRCULARITY(資源循環性)が新たに加わり、計「8つの性能」が掲げられました。

ドライと直進性はリストから消えていますが、こちらは「優れていてもはや当たり前」という並々ならぬ自信が感じられます。よりサステナブルで楽しく安心に、という、時代が求めるタイヤの理想が、8項目からなるチャート化につながったのでしょうか。

そこでここからは、全ての性能を拡張する。何かを犠牲にすることはない。新たなGREAT BALANCEが目指す3つの要素について、少し詳しく見ていこうと思います。

GR-XⅡからの進化を支えるピクトとして注目すべきはまず、ゴムと構造の革新でしょう。

新ゴム「GR-tech Silentゴム」は、路面からの振動を吸収しロードノイズを低減。ゴム構造を100万分の1mm単位で自在にコントロールできるNANO PRO-TECHテクノロジーに加え、ウエット特化の新ポリマーを採用していることで「ゴムを極めて」います。さらにREGNOとしては初めて「ウエット向上剤」を使用、さりげなく雨に対する強さも進化しているようです。

「接地を極める」のは、ブリヂストン自慢の見える技術「ULTIMATE EYE」に加えて、「GR-tech Silent 構造」「GR-tech Motionライン」が担当。最適な接地形状が優れた操縦安定性につながります。さらにこの新構造は、従来比で軽量化も達成しました。

こうした技術の融合によって、レグノGR-XⅢはレーンチェンジ時の車体のふらつきを抑制することに成功。優れた操縦安定性がもたらす揺れの少ない快適な車内環境のおかげで、クルマに弱い人でも酔いにくいドライブが楽しめる快適性を実現しています。

新しいGR-XIIIと、従来型(GR-XII)の操縦安定性能を比較したデータ。ドライバーだけでなく、同乗者全員が安心して乗ることができる「安定」という名の快適性を向上している。

MATERIAL CIRCULARITY(資源循環性)への取り組み

続いて、地球温暖化や資源枯渇といった、グローバルで課題となっているサステナビリティに対する、エンライトンの貢献ぶりをチェックしておきましょう。もともと初期のエンライトンは、ガソリン車の走行時にタイヤが原因となるCO2排出量を約30%可能にしていることを謳っていました。

再生資源・再生可能資源を、さまざまな形で活用する取り組みは、タイヤ表面が摩耗することで発生する粉塵問題の解決にもつながるのかもしれない。欧州では2021年に制定された環境規制「Euro7」でタイヤやブレーキから発生する粉塵が規制対象となったが、重量がかさみタイヤへのストレスが大きなEVの販売拡大にともなって、この問題はさらに注目されることになりそうだ。

ケミカルリサイクルを含む再生資源・再生可能資源の活用など、環境負荷低減へのアプローチもまた、エンライトンの重大な使命です。進化する中で、ソーラーカーレース「Bridgestone World Solar Challenge(BWSC)」で使用されるタイヤの再生資源・再生可能資源比率を、2023年には前年比で倍増させたそうです。

REGNO GR-XⅢでは、従来の穏やかな挙動や乗り心地が求められる「ラグジュアリー系」に加えて、車両剛性が高く車重も重いことから、しっかりとした走行性能が求められる「ツーリング系」、そして車重の重さに加えて静粛性にも気配りが必要な「BEV系」まで対応する計51サイズがラインナップされます。

そのうち転がり抵抗AAが29サイズ、Aが22サイズと、高い省燃費性能を実現。同時に、具体的な数値は明らかになっていませんが、サステナブル素材の適用も進んでいるといいます。

GR-XIIIでは新たなレグノサイレントテクノロジーを活用。上質な静粛性、深みのある快適性を「空間品質」として高めることに成功している。

最後にもっとも「レグノらしい」性能を象徴する静粛性について、ぜひ覚えておいて欲しい進化ポイントをご紹介しましょう。それは、「人間が気になりにくい音質へのチューニング」です。

具体的には3Dノイズ抑制グルーブと、「GR-techSilent 構造」「GR-tech Motionライン」によって、音質の最適化が進められました。他にも、「GR-tech Silentゴム」が路面からの振動を吸収、加えてシークレットグルーブが、摩耗時も上質な静粛性を継続してくれます。

これらは「レグノサイレントテクノロジー」として統合されています。ブリヂストン調べで荒れた路面で気になるロードノイズ(低周波)は12%、滑らかな路面で気になるパタンノイズ(高周波)は8%、従来比で低減されました。

レグノとしての本質をしっかりグレードアップしながら、他の性能・品質についても全方位で引き上げられているというGR-XⅢは、ユーザーの我がままなニーズもしっかり応えることができるはず。

さまざまなカテゴライズに合わせてわかりやすくインパクトたっぷりに味付けされた「エッジ」が、どんな走りを味わわせてくれるのか…こんなにワクワクさせてくれるタイヤ技術は、もしかすると「ドーナツ以来」?かもしれませんね。

2024年2月から3月にかけて、計51サイズを発売。希望小売価格は、2万6730円(195/65R15)から10万8350円(275/35R20)となる。

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