植物の水分解メカニズム解明 岡山大教授ら、人工光合成へ前進

 岡山大異分野基礎科学研究所の沈建仁教授(生化学)、菅倫寛教授(構造生物学)らの研究グループは、植物が光合成する際に水を分解して酸素の生成を準備するまでのメカニズムを解明した。1日に英科学誌「ネイチャー」に掲載。環境に優しいエネルギーの生産が可能な人工光合成の技術確立に向けた大きな一歩として注目される。

 植物の光合成では、「PSII」と呼ばれるタンパク質の複合体が水を分解して酸素と水素イオンを生成する触媒としての役割を担っている。グループは、PSIIの結晶に光を照射した後の水の動きをナノ秒(10億分の1秒)単位で捉えることに成功。水から水素イオンが分離して残った酸素が一時的にカルシウムにくっつき、その後にマンガンの間に結合することが分かった。

 これまでPSII内で分解される水の経路は分かっていなかった。今回の研究は、物質の動きや変化を原子レベルで調べられる「エックス線自由電子レーザー」がある理化学研究所の施設「SACLA(サクラ)」(兵庫県佐用町)を活用した。

 人工光合成が実現すれば、水分解で生じた水素イオンなどで水素を作って燃料電池に活用したり、電気を生み出したりすることができるという。菅教授は「膨大なデータを解析し、成果を出すまでに5年がかかった。人工光合成における触媒の設計に役立つ結果が出せた」としている。

 沈教授らは2011年にPSIIの構造を解明し、米科学誌「サイエンス」で同年の科学十大成果に選ばれた。今回の研究で光合成メカニズムの全容にさらに近づいたことになり、沈教授は「最後のステップとなる酸素が生成されて排出される仕組みの解明を急ぎたい」と意気込んでいる。

大きな指針に

 野口巧・名古屋大大学院理学研究科教授(生物物理学)の話 水の動きがしっかり見えており、世界が追っていた水分解の謎が解けた。人工光合成で水を分解するときの大きな指針になる。

新エネ創出へ 文科省が55億円助成

 岡山大は文部科学省が2023年度末から始める「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業」に採択され、人工光合成による新たなエネルギー創出など世界的な課題に挑む。5年間で55億円程度の助成を受ける。

 人工光合成に関しては、光合成のメカニズム解明▽人工光合成の技術開発▽実用化のための素材開発―の3分野に分けて研究を進める。このほか砂漠の農地化や、デジタル技術による医療制度の変革なども目指す。助成金は研究設備の拡充や研究者招聘(しょうへい)といった人件費に充てる。

 那須保友学長は「世界トップレベルの研究拠点、社会変革を起こす大学にしたい」と話している。

 同事業は低下が指摘されている国の研究力底上げを図る目的で創設された。69大学から申請があり、12大学が選ばれた。

沈建仁教授
菅倫寛教授

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