[社説]「共同親権」導入へ 懸念の払拭が大前提だ

 夫婦が離婚した後、子どもをどう守り育てていくか。

 法制審議会の家族法制部会が、離婚後も「共同親権」を選べるようにする民法改正の要綱案を取りまとめた。子の養育に関する制度を大幅に見直すものである。

 現行法は離婚した父母のどちらか一方が親権を持つ「単独親権」のみを定めるが、要綱案の柱は、双方の合意によって共に親権を持ち続ける共同親権の導入だ。

 父母の協議で折り合えなければ、家庭裁判所が共同か単独かを判断する。

 家裁の判断に当たっては、虐待やドメスティックバイオレンス(DV)の恐れがある場合は、単独親権と定めるという。

 2022年の人口動態統計によると、離婚件数は約17万9千件、親が離婚した未成年の子は約16万2千人に上る。

 家族の形や価値観の多様化が進み、共同親権を求める声が高まっている。離婚後も双方が養育に責任を持つことは重要といえる。

 しかし一方で、DV被害者らの反対は根強い。

 加害者の元パートナーと子どもに再び接点が生まれ、「子どもの安全が守れない」と声を上げる。 

 中間試案に基づき実施されたパブリックコメントでは、個人では共同親権への反対が賛成の約2倍に上った。

 要綱案の採決では21人の委員のうち3人が反対。家族の在り方の大きな転換点になるにもかかわらず、全会一致とならなかった異例の展開が、この問題の溝の深さを物語っている。

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 要綱案は、父母が折り合えず家裁が判断する際の考慮要素として「父または母が子の心身に害悪を及ぼす恐れ」「父母の一方が他方から暴力や心身に有害な影響を及ぼす言動を受ける恐れ」を挙げる。こうした事情で子に不利益が生じる場合、共同親権は認めないとする。

 ただDV被害者らは「そもそも力関係に差があり、対等に話し合えない」「話が通じない」ことを懸念する。家裁による判断についても、密室のDVや児童虐待をどのように確認するのか。

 さらに要綱案は、共同親権であっても緊急手術のように「急迫の事情」があれば単独で親権を行使できるとするが、何が急迫かの範囲はあいまいな部分が多い。

 そもそも家裁は共同親権絡みの多くの争いを適切にさばくことができるのか。この点でも疑問は尽きない。

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 虐待やDVへの懸念から、要綱案と併せて、父母の別居や離婚に当たり行政や福祉など「各分野の支援の充実が必要」とする付帯決議も付けられた。

 22年に警察が虐待の疑いで児童相談所に通告した子どもは約11万5千人、DV相談は約8万4千件で、ともに過去最多だった。

 法務省は民法改正案を今国会に提出し、成立を目指す方針という。

 「子どもの利益」を第一に、懸念と不安を一つ一つ払拭していく慎重な議論が求められる。

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