「SILENT HILL: The Short Message」レビュー:現代を生きる少女が抱える“閉塞感”をホラーの文脈で描く短編「サイレントヒル」

本作は発表とともに配信開始されたホラーゲーム「サイレントヒル」シリーズの新作。2022年に発表された「SILENT HILL 2」(リメイク版)、「SILENT HILL: Townfall」、「SILENT HILL f」、インタラクティブ・ストリーミングシリーズ「SILENT HILL: Ascension」、それから映画「Return to SILENT HILL」のいずれでもない、いわば第6の「サイレントヒル」新作とでも言うべきタイトルだ。

筆者は配信に先駆けてプレイする機会をいただいた。まずお伝えしたいのは、本作が2時間弱程度でエンディングに到達できる短編であり、ひとつの映画を観るのと近い心構えでプレイできる点。

本作が“初めてプレイする「サイレントヒル」”になっても問題ないだろう。かくいう筆者もこれまでシリーズをプレイする機会に恵まれなかった人間なのだが、ほかのシリーズタイトルとの直接的な繋がりはないということだし、そのテーマはこの時代に触れてみるべきものだと感じられた。

その上で、本作はセンシティブな内容を含むゲームでもあるため、あらゆる人に気軽におすすめできるわけではない。ホラーの文脈をなぞりながら描かれる物語は、重苦しいものだ。詳しくは後述するが、この点は理解した上でプレイしてほしい。

■息を呑むフォトリアルな映像と、実写を取り入れた回想シーン、そして恐怖をもたらす異様な空間

「SILENT HILL: The Short Message」のソフトを起動してNEW GAMEを選択すると、最初に表示されるのは自殺、自傷、虐待、トラウマ、いじめなどの表現に関する警告文だ。

昨今は一部のプレイヤーにとって精神的なストレスになる可能性のある創作物において、冒頭で注意喚起を行うものが増えている。ゲームではセンシティブなテーマを扱うインディータイトルにおいてこの傾向が顕著だが、「サイレントヒル」シリーズほどの知名度を持つ国産タイトルの場合、少なくとも筆者は他に思い付くものがなかった。

本作がこういったメンタルヘルスに関わるテーマを正面から描くと同時に、そうした描写で意図せず傷付いてしまうプレイヤーを守るための配慮も欠かさないゲームであることが分かり、ここで筆者は少し姿勢を正した。

ちなみに、冒頭に警告がある以外の表現だと、苦手な人が非常に多い“とある昆虫”なども登場するので、これについても一応注意すべきかもしれない。

物語の主人公は、ドイツのケッテンシュタットという街で学校に通うアニタ。彼女はグラフィティアーティストでもある友人のマヤからメッセージアプリで呼び出され、自殺の名所として知られる廃墟となったマンションを訪れる。ところが、建物の前で意識を失い、気付けば建物の一室で目覚め、マヤの導きで廃墟の中を探索することになる。

ゲームはアニタの主観視点で進行。ウォーキングシミュレーターと呼ばれるゲームジャンルのように廃墟を進んでいく、アクションなどのゲーム性を伴わないパートと、“謎の存在(クリーチャー)”から逃げるパートを繰り返すことで、ストーリーが進行していく。

探索ではまず、極めてフォトリアルなグラフィックに圧倒されるのではないだろうか。長年放置された廃墟全体を包む埃っぽさ、水気を帯びた床や置物から受けるジメジメした印象、不衛生な感じがこちらにも伝わってくる。さらに、マヤが廃墟に残した痕跡やショートメッセージを起点にマヤとの回想パートが差し挟まれるのだが、こちらは実写映像となっている。

こうしたフォトリアルを追求した表現が採用されているからこそ、やがて目撃する尋常ならざる光景には、息を呑むような不気味さを感じられた。

謎の存在から逃げるパートは、迷路のような専用エリアに入ると始まり、このエリアから脱出できれば終了となる。入り組んだ構造をしている各エリアでは、後ろから追ってきていたはずの相手と正面から鉢合わせることもしばしば。謎の存在が近くにいるとスマートフォンのノイズが大きくなるので、これに注目するのも重要だが、恐怖心もあってそう上手くはいかない。

一心不乱に逃げ回っていると、同じ場所をぐるぐると廻ってしまい、一向に出口にたどり着けないこともあった。周囲を冷静に見回し、地形や目印になるものをしっかり記憶するのが攻略のカギと言えるだろう。

■結末からは“どうか救われてほしい”という願いを込めた物語だったと感じられるはず

スマートフォンの明かりだけを頼りに廃墟を探索するアニタ。道中にある説明書きやメモなどからこの廃墟や、ケッテンシュタットという街を取り巻く状況が少しずつ把握できる。マヤが残した痕跡も至るところで見つかる。また、左手でかざしているスマートフォンには時折、マヤのほか、もうひとりの友人・アメリからショートメッセージが届き、この3人の少女たちの関係性も明らかになっていく。

アニタを取り巻く世の中の状況と、アニタの周囲の人間関係、マクロな視点とミクロな視点で、彼女という人物のバックボーンが立体的に浮かび上がる。明らかになるのは、現代の息苦しさを煮詰めたような閉塞感だ。

そしてそれはアニタだけではなく、マヤやアメリもなんらかの形で抱えていたものであることを知る。マヤが描くグラフィティアートはどれも“桜”と“少女”をモチーフにしている。彼女が日系人であろうことも踏まえると、ドイツという国でこの花にどんな願いを込めていたのだろう? といった想像が巡る。

さまざまな真実を知ったアニタは、この世界から逃げ出して楽になりたいと願うが、それは叶わない。まさに謎の存在に追い立てられているときのような、いつ終わるとも分からない焦燥感と絶望――。それはマヤが不気味な廃墟にアニタを呼び出した理由や、アニタ自身が内に秘めた問題が明らかになるにつれ、ますます募っていく。

そんな物語が最終的にどこへ行き着くかは実際にゲームをプレイして確かめてほしいが、本作が絶望に囚われそうになっている人に“どうか救われてほしい”と願いを込めた物語であったということは、きっと感じられるはずだ。

それがひとりひとりのプレイヤーにとって、どの程度“響く”ものになるかは分からない。けれど「サイレントヒル」というメジャータイトルの最新作として作られた本作が、ここまで現代に生きる若者に寄り添おうとしてくれるものだった事実が、自分にはうれしい。

扱っている表現には注意を払ってほしいが、より多くのプレイヤー、とくに若い方の感想が聞いてみたいゲームだ。

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