「真摯な『安楽死』にほど遠い」医師に懲役23年求刑し結審 弁護側は「憲法違反」 ALS嘱託殺人裁判

大久保被告

 難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患う女性から依頼され、薬物を投与して殺害したとして、嘱託殺人などの罪に問われた医師大久保愉一(よしかず)被告(45)の裁判員裁判の論告求刑公判が1日、京都地裁(川上宏裁判長)であった。検察側は「真摯(しんし)な『安楽死』とはほど遠く、医療知識を悪用して死にたい人間を殺害するという極めて特異な罪質の事件だ」として懲役23年を求刑。弁護側は改めて無罪を訴え、結審した。判決は3月5日。

 大久保被告は、知人で元医師の山本直樹被告(46)と共謀し、山本被告の父靖さん=当時(77)=を殺害したとする殺人罪にも問われており、併せて審理されている。

 最終意見陳述で大久保被告は「話すべきことはお伝えした。拙い表現でしたが真剣に聞いてくれてありがとうございます」と涙ながらに述べ、頭を下げた。

 これまでの公判で大久保被告は、嘱託殺人罪について起訴内容を認めた上で、「女性の願いをかなえるために行った」と主張。弁護側は、被告の行為に同罪を適用することは、自己決定権を保障した憲法に違反すると訴えていた。

 検察側は論告で、大久保被告は医療に見せかけて殺害することに関心を持っていたと指摘。「『死にたいと願う難病患者は積極的に殺害する対象』という思想の実践として行ったもので、完全犯罪をもくろんでいた」とした。

 また、女性は死期が迫っていなかったとし、病状を詳しく把握することもなく、短時間で殺害行為に及んだと指摘。事前に130万円を送金させ、発覚しないよう偽名を使うなどした点を踏まえ、「ビジネスとして実行し、正当行為に当たるはずがない」とした。その上で「女性は生きたいという希望も持っていた。その希望、生命を断ち切った結果は重大だ」と非難した。

 一方、弁護側は、被告の行為がなければ「女性は苦痛や恐怖と闘いながらの生を強いられることになった」と反論。「尊厳ある人生の終わりを迎えるために女性が自らの意思で決定したことを、最も苦痛のない形で実現した」と訴えた。

 海外では、医師による自殺ほう助を禁じるなどの刑法の規定が違憲とされた判例があるとし、「個人の自己決定権は最大限尊重されなければならない」と述べた。

 起訴状などによると、山本被告と共謀して2019年11月30日、ALSを患っていた京都市中京区の林優里(ゆり)さん=当時(51)=の自宅マンションで、林さんから頼まれ、胃にチューブで栄養を送る「胃ろう」から薬物を投与し、急性薬物中毒で死亡させたとされる。

© 株式会社京都新聞社