国際司法裁、ロシアのテロ条約違反を一部認定 反差別条約でも

国際司法裁判所(ICJ)は1月31日、ロシアがテロと反差別の条約の一部に違反したとの判断を示した。

この裁判は、ウクライナで2014年に勃発したロシアとの紛争をめぐり、ウクライナがロシアを相手に2017年にICJ(オランダ・ハーグ)に提起したもの。

ウクライナは、2014年7月17日に同国東部でマレーシア航空MH17便が撃墜された事件について、関与した戦闘員らにロシアが資金を提供していたと主張した。この事件では乗客乗員298人全員が死亡した。

これに関してICJは、反テロ条約の下では、テロ行為への資金提供に関する訴えのみ検討されうると説示。MH17便の撃墜に使われた地対空ロケットなどの武器供給の疑いは対象にならないとした。

そのため、撃墜に関わった戦闘員らにロシアが資金提供をしていたという特定の訴えについては、判事らは判断を避けた。

一方で、ウクライナ東部の親ロシア分離主義グループに資金を提供したとされる人物を、ロシアは調査しなかったと指摘。これにより、テロ資金供与防止条約(1999年採択)に違反したと認定した。

そのうえで判事らはロシアに対し、同条約に基づいて、ウクライナにおけるテロ資金供与の疑いについて調査するよう命じた。

ウクライナの損害賠償の請求については退けた。

MH17便の撃墜をめぐっては、オランダの裁判所が2022年、ロシア支配下のグループが撃墜したと認定。ロシア人2人とウクライナ人1人を戦争犯罪で有罪とする判決を出した。

人種差別撤廃条約についても

ICJはまた、ロシアが2014年3月に不法併合したクリミアの学校で、ウクライナ語による授業を制限していることについて、人種差別撤廃条約(1969年発効)に違反するとの判断を示した。

一方で、ウクライナが提起したその他の訴えは退けた。その中には、ロシアがクリミアの少数民族タタール人を代表する組織メジュリスを禁止するなどし、タタール人の文化を抹消しようとしているとの訴えもあった。

この訴えについてICJは、メジュリスに対する禁止が人種差別の一例に当たると、ウクライナが証明していないとした。

ただ、ICJは2017年にロシアに対し、メジュリスの禁止を解除するよう命じており、ロシアはこれを無視している。ICJは今回、ロシアがこの命令に違反していると判断した。

ICJはまた、ロシアはウクライナに対して大規模な戦争を仕掛けたことが、ウクライナとの関係を悪化させることを避けるよう命じた前回の判決にも違反したとした。

「重要」な判決とウクライナ弁護団

ウクライナ弁護団のリーダーの一人、アントン・コリネヴィチ氏は今回の判決について、ロシアが国際法に違反したと認められた点で「重要」だと述べた。

この日の法廷では、ロシア側はほとんど空席だった。判決言い渡しの直前、外交官1人とロシア側弁護団のメンバー1人が姿を見せただけだった。

対照的に、ウクライナ側は満席だった。

ICJは今週、ロシアがジェノサイド条約(1948年採択)を不当に利用し、2022年のウクライナへの全面侵攻を正当化したとするウクライナの訴えについて、判決を出す予定。

ICJの判決には法的拘束力があるが、裁判所が強制執行することはできない。

(英語記事 UN court rules Russia broke treaties in Ukraine

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