Z世代オーナーが大幅改良されたNDロードスターに感じたこと。「みあちゃん」が「ミアさん」に変化した...?

まもなく10年目となる4代目ロードスターが、登場以来初となる大幅改良を実施した。2022年式に乗る筆者が20代の下道専門オーナー目線で、何が、どう変わったのかを忖度なしに正直レビューしていこうと思う。

きっかけは「サイバーセキュリティ法」

今回の大幅改良は自動車のサイバーセキュリティ対策(ハッキング対策等)が国際基準で法制化され、2024年7月以降は規制が開始されてしまうことがきっかけである。

従来のNDロードスターは初代マツダコネクトを搭載してきたが、2013年の登場からすでに10年が経過しており、年々高度化していく最新のサイバーセキュリティシステムについていけるシロモノではないため、CX-60が搭載している最新型の2代目マツダコネクト(以降マツコネ2)システムを導入する形でアップデートが図られた。

この最新システム導入の過程で、ロードスターの聖域である“軽量な車体”を損なう10~20kgの重量増が発生。とくに、最軽量のSグレードではオプション設定だったサイドエアバッグが標準装備となったことも相まって990kg→1010kgとなり、車体重量1トン以下のグレードが消滅、990Sも廃止に追い込まれてしまった。

マツコネ2の採用で一気に雰囲気が近代化、代わりに10kgの重量増が発生した

普通のクルマであれば、たかが10~20kgの重量増など誤差の範疇なので誰も気にしない、というか気づかないし、10年前の車載システムから最新のシステムに進化したといえば、利便性の向上という点でユーザーからも大歓迎されるはずだ。

しかし、ロードスター界隈では逆であり、とくにマツコネを持たない990Sオーナーからすれば、車載システムが最新になる方が誤差の範囲で、10~20kg“も”重量が増え、1トンを超えてしまったということに注目してしまうかもしれない。

齋藤主査は改良モデルの開発を知った上で、990Sを所有することにしたそうだ

この10kgの差をはっきりと感じることができるかどうかはさておき、あれだけマツダがこだわっていた軽量化への執念に反する“重量が増えた”という事実や、NDロードスターの象徴となる1トン切りグレードがなくなってしまうということに対する物悲しさを抱いてしまうユーザーもいることだろう。

そこで、ユーザー側にもちゃんとメリットがある車体性能UPと見た目の変更も加えた“ユーザーフレンドリー”なビッグマイナーチェンジが行われることになったのである。

街乗りオーナーも気付く、見た目の近代化改修

ロードスターはシンプルで潔いのが美学のクルマである。他のマツダ車が次々とマツコネ2に切り替わる中、初代マツコネを使い続けてきたし、Sグレードやその特別仕様車990S、モータースポーツベース車のNR-Aにいたってはディスプレイすらつかず、セグメントオーディオを採用するという漢気ぶりであった。

デビュー以来9年間の歩みとしては、毎年毎年ボディ・幌・内装のカラーを変えた特別仕様車を出すことで違う世界観を表現して新鮮さをキープ。NDロードスターという圧倒的なポテンシャルを秘めたモデルだからこそビッグマイナーチェンジを受けずとも輝きを放ち続け、なんなら990Sの登場により発売7年目にしてND型として最高の販売台数を達成するという“異常現象”が起こったのである。

ところが、今回の大幅改良ではついにそんな内外装にも大きくテコ入れされることとなった。

NDロードスターのオーナーであれば、エクステリアをパッと見ただけでも“照準器”をイメージしてデザインされたレーダーユニットやジェットエンジンのアフターバーナーを意識したテールランプなど、戦闘機の要素が追加されているのがわかるだろう。

戦闘機のアフターバーナーを意識したテールランプ。夜間に見るともっとカッコいいはずだ

従来もメーターフードや円形のエアコン吹き出し口など、どことなく戦闘機っぽい要素はあったので、今回の改良でよりアグレッシブなデザインになったと言えるのではないか。

続いて車内に乗り込んでみると、なるほど、確かに質感が大幅に近代化して、平成→令和仕様に引き上げられていることにすぐ気付く。エンジン始動時に目に入るメーターも針と盤面のコントラストが上がったことで視認性が向上し、初代マツコネ(7インチ)→マツコネ2(8.8インチ)に大画面化した専用サイズのディスプレイは画質も良く、ベゼルレスのバックミラーと合わせて一気に最新のスポーツカーとなった。

ND初のタンカラーのセンターコンソールとなる「Vセレクション」は必見!このパーツのみ旧モデルとの互換性があるそうだ

初代マツコネは縦にも長く運転視界の端に見えるイメージだったが、マツコネ2では横長で縦のはみ出し量が減ったことで運転視界に入り込まなくなり、運転により集中できるようになったことも嬉しいポイントだ。

このように、街乗りでまったりとドライブを楽しむライトなオーナーであっても、ドライバーから見える景色が異なっているのでしっかりとロードスターの世界観を楽しめるように仕上げられている。

全グレードでマツコネ採用の背景&990Sとの別れ

今回の改良でS・NR-Aにもマツコネ2が標準装備となったため、全てのグレードで新しいディスプレイの質感を体感できるが、これは国土交通省が2024年5月以降に販売されるすべての自動車にバックカメラまたはバックセンサー等「後退時車両直後確認装置」の搭載を義務化したことによるものと考えられる。

逆にいえば、LSDレス、セグメントオーディオ採用などの徹底した軽量化により、安価に1トン切りのパッケージングを実現していたS・990Sのようなモデルは今後出てこないことを意味している。

もっとも10kg~20kg程度の重量であれば街乗りではほとんど違いを感じないだろうし、いざとなれば乗り手側の努力(つまりダイエット)で絞り出すこともできる数値ではあるが、990Sが売れまくっていたことを考慮すれば“1トン切り”という象徴的なモデルが消えたことは、マツダにとっても苦しいアップデートだったかもしれない。

より“スポーツカー”な乗り味へと変化

今回のビッグマイナーチェンジ、シャシー領域では「LSD」や「電動パワーステアリング」の変更とモータスポーツ用「DSC-TRACK」モード(サーキット走行用モード)の追加が行われ、パワートレイン領域では「1.5Lエンジンの出力向上」と「エンジンレスポンス向上」、「エンジンサウンドの進化」が行われている。

問題は、これらの変更がロードスターの本領である“公道のワインディング走行”で体感できるのかという点だが、安心して欲しい。サーキット経験ゼロ、かつ下道をのんびり走るのが趣味のポンコツ筆者であっても、走りの違いは体感することができた。

まず、走り出しの時点でステアリング操作の軽さに驚く。軽いといっても、ただ軽いだけという意味ではなく、回す時のフリクションが低減して回しやすくなったというイメージで、抵抗感や引っかかる感じがなくスムーズに回り、ステアリングを戻す時も従来よりもクイックに戻せるため、運転時の“腕や肩”の疲労度が全然違うのだ。

ワインディングを走行すると回しやすくなったステアリングホイールの恩恵を感じる

続いて少しアクセルペダルを踏み込んでみると、エンジンから聞こえてくる音が従来と全く異なることにも気付くだろう。回転数の上昇に比例して「キューン」といった感じの少しメカニカルな感じの音が響くのだが、これは2021年の年次改良(KPC追加)の際に、車外騒音規制で小さくせざるを得なかった排気音という形でのロードスターの“咆哮”が、エンジンサウンドという別の形で現代に蘇ったということなのだろう。

ちなみに、この音はエアクリーナ開口部の追加で人為的に発生させているそうで、RSでは標準装備、ほかグレードにはオプションで設定されるインダクションサウンドエンハンサーと組み合わせるとさらに大きく車内に響き渡り、エンジンと会話している気分が高まるので、ぜひ乗り比べて確かめてみて欲しい。

吸気系を改良し、よりダイナミックな音を車内に響かせるように進化した

余談だが、ポンコツ筆者は2022年式のS スペシャルパッケージ(新型純正マフラー搭載車・ボンネットインシュレーター付)に乗っており、初めて運転した際に、「あれ、ロードスターってスポーツカーなのに音小さくない…!?」と驚いた経験があるくらい、近年のロードスターのサウンドは小さい。

筆者のようなKPC登場以降の極小サウンドモデルのオーナーであれば、この新旧モデルの音の違いは敏感に感じることができるはずなので、2015~2021年モデルからの乗り換えを検討中の方は、一度KPC搭載モデル(新型の静音マフラー採用車)に試乗してサウンドを体験してから比較すると何が変わったかよくわかるかもしれない。

公道ではLSDの違いがよくわからない

コーナーに差し掛かり、減速操作と再加速を行うと、走行性能の違いをうっすらと感じる。うっすらというのは、試乗コースがサーキットではないワインディングで、しかも目の前で融雪剤を散布されてしまったことでビビりながら走行したため、開発陣に教わった新開発のLSDが得意とする“減速旋回時の安定性”が必要となる場面がなかったということである。

ポンコツ筆者によるチキンな走行では減速時にそこまでの差を感じ取れなかったが、エンジンのレスポンスとコーナリング中~後半の接地感の向上、再加速シーンでの安定性の違いについては感じることができ、タイヤの食いつき具合が少し上がっている印象を受けた。

レスポンスについては前述のエンジンサウンド変更によって耳が反応してしまっている(プラシーボ効果)の可能性があり、安定感の向上については前述のパワステ改良による操作フィールの向上と車重が少し重くなったことに起因しているかもしれないため、なんとも言えないというのが嘘偽りない感想だ。

足元の安定感が上がっているが、それが新型のLSDによるものなのかまではわからなかった。

つまるところ、少なくとも公道走行においては、スムーズに回せるようになったステアリングホイールや、より大きくダイレクトに耳に入ってくるエンジンサウンドに変わったというわかりやすい変更点がまず存在し、その裏で走りを支える新LSDが安定性をさりげなくサポートするという組み合わせで新たな走行フィールを生み出していると感じ、LSD単体での恩恵を感じることはなかった。もしかすると、2021年モデルまでのKPC非搭載車との比較であれば、より大きな違いを体感できるのかもしれない。

今回の改良では最大の特徴であった「車体重量」が重くなってしまった代わりに、その増えた車重を感じさせないようにエンジンサウンドといった官能性に加えて、パワートレイン・シャシーの両方をアップデートし、バランスを取ったことで、よりしっかりとしたドライビングフィールにつなげているように感じた。

可愛くてふわふわした女の子がキリッとした美人になった

このご時世にこんな表現をするのは不適切かもしれないが、あえていうなら大幅改良モデルは「小さい頃いつも一緒にいた幼馴染の女の子が、大人になって久しぶりに会ってみるとキリッとした美人になっていた」というイメージで、ちょっとポンコツで優しく扱いたくなる「みあちゃん」(※米国名:Miata)から、なんでもテキパキとこなす「ミアさん」になった印象だ。

ロードスター(ミアータ)という同一人物であり、基本的な性格にも変化はないものの、女の子から大人な女性に変化した感じといえばわかりやすいだろうか。

目つきも変化し、パッチリお目目を強調するアイラインが追加された

改めて今回の改良を一文でまとまえると、内外装の質感が大きく近代化して街乗りの満足感が向上し、10~20kgの重量増分を補うためにエンジン制御変更やサウンドの追加、アシンメトリックLSDによる安定性向上を行い、スポーツカーとして一歩ステップアップした、ということになる。

これにより、公道ドライブメインの方でも、目に見える部分の質感が高まったので所有満足度が上がり、走行安定性が向上したことで普通のスポーツカーのようにカッチリとした走行フィールになったので、サーキット走行にチャレンジする方にも嬉しい改良であることは間違いない。

ロードスターならではのひらひら感という意味では、従来のロードスターの方がふわりとした走りをしているため、端的に言えばひらひら・ふわふわ・可愛いロードスターが好みであれば従来モデルを、よりきっちりした“スポーツカー”としての走りや内装のラグジュアリー性、最新のシステムを求める方は新モデルを購入すると良いのではないだろうか。

ハードトップのRFもよりラグジュアリーな雰囲気を纏うようになった

ロードスターは、乗り手の想いに応えてくれる素直で優しいクルマなので、自分が気に入ったモデルが自分にとっての最良のパートナーである。

筆者の場合は新しくなった「ミアさん」との“ドライブデート”でその良さを味わいつつ、「みあちゃん」と比較することで自分の愛車の良いところに改めて気付き、これからも人生を共に歩んでいきたいと思った、そんな試乗会であった。

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