無数にある山中の「くくり罠」 イノシシ駆除の仕掛けが野犬の命を奪うという現実

くくり罠などにかかり、瀕死の状態で保護される野犬が後を絶ちません

数多くの行き場を失ったワンコの命や生活を救ってきた団体、ピースワンコ・ジャパン(以下、ピースワンコ)。その活動の一番の目的は「日本から犬猫の殺処分ゼロ」を目指すものですが、他方でもう一つ頭を悩ませている問題もあります。

それは、くくり罠。

畑を荒らすイノシシなどを駆除するために設置されているもので、ピースワンコが本拠地を置く広島県では、その山中に無数のくくり罠があるとされます。2022年には1600匹ものイノシシがこの地で駆除されているといった数字からも、くくり罠とこの地を取り巻くイノシシによる被害の多さを想像できますが、ここで問題となるのが、このくくり罠に誤って野犬が挟まってしまうこと。多いときは1カ月に10匹もの野犬がかかってしまうのです。

苦痛から自ら足を噛みちぎる犬もいる

くくり罠。この仕掛けを踏むと、バネが跳ねて動物の足をワイヤーで締めて捕獲する仕組み

また、山中に仕掛けられているのはくくり罠だけではなく、違法なトラバサミが設置されている場合もあります。

トラバサミとは主に金属でできた狩猟に使う罠のひとつで、中央の板に足が乗ると両側から半円の金属が合わさり足を強く挟む仕掛けです。これにかかると、人間でさえも自力で外すことができないとされ、現在は鳥獣保護法で禁止され、違反者は罰金や懲役刑が課せられます。

しかし、深刻な被害を受けている地域では、いまだにトラバサミが設置してあるところもあるようで、これにかかってしまう野犬もいます。

くくり罠、トラバサミともに、一度かかってしまうと、自力で外すのは容易ではなく、罠にかかったまま逃げようと暴れれば暴れるほど、その仕掛けがさらに体に食い込んでしまうという悲惨なものです。

また、罠にかかった野犬の中には、なんとかして罠から逃げ出した後も、傷が広がったり、傷口から感染症に侵されることも少なくなく、あまりに苦痛から自ら足を噛みちぎったりしてしまうこともあります。

目下の理想は犬猫の重さではかからないようにすること

罠にかかり足を失った元野犬

犬好きが聞けば、この話はあまりに痛ましく、トラバサミだけでなくくくり罠を規制してほしいと願うばかりですが、農家の立場になれば「では猪の被害をどう防ぐのか」といった声も当然上がります。難しい問題ではありますが、ピースワンコは「罠をしかける人たちと、今後さらに冷静な議論をすすめていくべきだ」と語ります。

スイスやドイツなどの動物福祉の先進国に比べ、日本はまだまだ後進国であるとも言い「殺処分、くくり罠など、犬猫だけでなく、あらゆる動物にかかわる問題の議論の機会がもっと増やしていきたい」とも語ります。難しい問題だからこそ議論を後回しにせず、さまざまな意見をかわしながら、犬猫が暮らす社会が一歩ずつ改善されることを願うばかりです。

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(まいどなニュース特約・松田 義人)

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