『【推しの子】』アニメの名シーンは実写でどう再現される?  “天才的”演技への難易度

赤坂アカ×横槍メンゴによる人気マンガ『【推しの子】』が2024年冬に実写化されることが発表され、大きな注目を集めている。ファンのなかには、「原作のあの名シーンをどんな風に再現するのか」と気になって仕方がないという人も多いのではないだろうか。とくに同作に関しては昨年放送されたTVアニメ版が大好評だったため、さまざまな点で比較されることになりそうだ。

『【推しの子】』は“推し”の天才アイドル・星野アイの子どもとして転生した主人公のアクアが、復讐のために芸能界を生き抜いていくストーリー。芸能界の裏側にまつわる生々しいエピソードが次から次へと出てくる一方、ところどころでファンタジー色が強い展開も挟まれている。

まず序盤で度肝を抜かれる展開といえば、「オタ芸する赤ちゃん」のシーンは外せない。まだ赤ん坊だった頃のアクアはアイのライブを客席で観た際、双子の妹・ルビーと共にペンライトを振り回してキレキレの“オタ芸”を披露する。おしゃぶりをくわえた赤ん坊が躍動する姿は、「乳児とは思えないキレだ」と周囲をどよめかせ、SNS上でも話題になる……という流れだ。

アニメ版では2人のオタ芸が贅沢な作画によって表現されており、大きな話題を呼んだことが記憶に新しい。とはいえこれはアニメならではの表現なので、実写版ではいかにして再現されるのか気になるところ。そもそも“中身が大人”の赤ん坊を用意すること自体が不可能なので、CGを活用する形になるかもしれない。

また第1話の終盤にも、同じようにアニメならではの表現を活かした名シーンがあった。アクアは深い絶望を味わう出来事が起きた後、芸能界に“復讐すべき人間”がいることに気が付く。そして必ずその人物を見つけ出し、自らの手で命を奪ってみせると誓うのだが、その瞬間に右目の白い星が漆黒に染まり、不気味に輝き出す。ここでは作画のタッチもガラッと変わり、荒ぶる色彩によって燃え上がる復讐心が表現されていた。

ほかのシーンでも復讐心に駆られたり、悪だくみを思いついたりした際、アクアの右目の星が真っ黒になって輝く表現が頻出している。マンガやアニメでこそ可能な感情表現だが、実写ではいかにしてこれを映像に落とし込むのだろうか。

また『【推しの子】』には、演技の才能をもった“天才役者”のキャラクターたちが登場する。実写版ではその設定にリアリティを持たせるために、キャスト陣にも高い演技力が求められるだろう。

1人目の天才といえば、「重曹を舐める天才子役」ならぬ「10秒で泣ける天才子役」の有馬かな。アクアとは幼少期に出会い、その後高校生になった後に『今日は甘口で』(今日あま)という実写ドラマで共演することになる。当初はほかの役者のレベルに合わせていた有馬だが、アクアのお膳立てを受け、大粒の涙を流す名演技によって観る者の心を震わせるのだった。

ただでさえ説得力を持たせるのが難しい場面だが、そもそも『今日あま』は、“大人の都合で実写化に失敗しかけている人気マンガ”という設定であり、昨今の実写化ブームを皮肉ったような展開となっている。このエピソードが実写化されるのであれば、なおさらハードルは高くなりそうだ。

さらにもう1人の天才役者、黒川あかねも演じるのが難しそうな役どころ。「恋愛リアリティショー編」から登場した彼女は、「劇団ララライ」に所属する若きエースという設定で、その演技力はある種の“異能”のように描かれていた。

アニメの第7話、恋愛リアリティショー『今からガチ恋始めます』(今ガチ)への復帰にあたって、黒川は素の自分ではなくカリスマアイドルのアイを演じることを決意。そして家庭環境から幼少期まで徹底的なリサーチを行うことで、アイという人間を“憑依”させることに成功する。

黒川役の声優・石見舞菜香は、気弱で自信がない少女が豹変し、誰もが目を奪われるカリスマアイドルの生き写しになる瞬間を、神業と言いたくなるような演技で表現していた。原作の作画担当・横槍メンゴはX上で「あかねのアイの演技すごい。あの一瞬でアイに再会するアクアの気持ちになってしまい、泣きそうになった」と投稿し、石見本人に対しても「石見さんにお願いして本当によかったです!」という言葉を贈っていたほどだ。酷かもしれないが、実写版でもこのシーンでは神業クラスの演技が求められるだろう。

なお実写版のキャスティングとしては、それぞれ有馬かな役に原菜乃華、黒川あかね役に茅島みずきが抜擢されている。原は“子役出身”という点で有馬かなとの共通点があり、アニメ映画『すずめの戸締まり』の主人公・岩戸鈴芽役や、NHK大河ドラマ『どうする家康』の千姫役などで注目を浴びた実力派だ。同じく実写化作品となる『恋わずらいのエリー』も待機している。そして黒川あかね役の茅島はモデル・俳優として活躍しており、昨年は『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』(日本テレビ系)での熱演が話題を呼んでいた。

実写版のキャストとスタッフは、名シーンの数々をどのように表現してみせるのか……。“完璧で究極”の実写化となることを期待したい。

(文=キットゥン希美)

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