精神科医・名越康文「他人との比較は地獄の入り口」 個性との上手な付き合い方6つ

個性を磨きたい人、そして自分の個性を活かしたい人への処方箋を、精神科医の名越康文さんと文筆家のひらりささんに聞きました。

知りたい! 自分の個性と楽しく付き合う処方箋。

名越康文(以下、名越):人間は本質的に個性的な存在。自分らしくふるまえば個性は自然に発露します。ただ、今の日本社会では同調性を求められるゆえに、個性を十分に出せない人が増え続けているのも事実です。

ひらりさ:企業や会社だと、個々のパーソナリティを抑え込むことで仕事が回る一面もあって、個性が押し潰されちゃいますよね。

名越:一方、個の発信に目を向けると、めちゃくちゃ多様化しています。SNSのみならずYouTuberやVTuberも増えて。

ひらりさ:アイドル界では従来の「あらかじめパッケージされた中から推しを選ぶ」方法が進化して、〈PRODUCE 101〉のようなサバイバル番組のスタイルが人気。受け手もプロデューサーとなって幅広い選択肢から推しを推すやり方です。

名越:つまり選ばれる側=発信側の個性が今まで以上に重要、と。

ひらりさ:はい。だけど社会は複雑だから、たぶん「型」が必要。ある程度わかりやすい型の中で遊び、自分らしさをブランディングできた人がウケている気がします。

名越:面白いな。型の中で遊ぶというのはとても日本的ですね。

ひらりさ:そもそもエンタメにおけるキャラや個性は、エンタメ用に作られたもの。その人の実像とはズレがあると認識した方がいい。

名越:その通り。エンタメに限らず、「一人の人間に個性はひとつ」は幻想です。対人関係において、人はパーソナリティのカードを何枚も持っている。「相手によって人格は変わる」のが当然なんです。

ひらりさ:SNSだとその辺は了解されていて、複数アカウントを持つのも浸透してます。ただ誰でも発信できる分比較対象も多すぎて、全部見てたら確実に病みます。

名越:「私はみんなみたいに個性的な生活を送れてない。個性がないんだ」と落ち込んでしまうか、逆に自分の個性はこのリア充な人たちから浮いている、と悩むか。

ひらりさ:でも、1日1枚インスタにキラキラ写真をあげてる人が、24時間キラキラなわけじゃない。それは編集された個性です。人から見える個性は編集力や加工力で作られ得ることを、みんなが想像できるといいんじゃないかな…。

名越:その視点は救いになる。他人との比較は地獄の入り口だから。

ひらりさ:でも、比較って、ついついしてしまいませんか?

名越:僕の場合、精神科医だけど音楽活動もしてるしYouTubeでゲーム実況もして…と同じような立場の人がほかにいないので、あまり比較しないで済むんです。

ひらりさ:精神科医「だけど」っていいですね。自分のメインパーソナリティと違うコミュニティもあるとラクになるのかも。

名越:そう。比較から解放される。

ひらりさ:あと、今いるフィールドの一番を目指すのはツラくないですか? 推し活でいうと、推しの現場に一番乗りするとかライブに全通するとか…そこは自ら「ずらす」方がいいと思うんです。

名越:わかる。みんなが目指すところを追うとしんどくなるから、僕は絶対同じ土俵で競わないです。

ひらりさ:VTuberも、「生身で活動する」という従来の表現からずらした世界ですよね。

名越:僕が以前対談したVTuberの方もすごかった。自分と向き合ったうえで、キャラとして発信する「ずらし」によって、生きづらい社会や攻撃してくる圧の中でもやっていく道を見つけていて。

ひらりさ:やっぱり自分を知ることが大事なんですね。

名越:自己分析とかされますか?

ひらりさ:私は毎朝30分、思いついたことをノートに書く「モーニングページ」を続けているんです。作家のジュリア・キャメロンが提唱している、まあ日記ですね。

名越:なるほど、僕らの世界でいう自由連想法だ。とにかく頭に浮かんだことを書く。「おでん食べたいな~」から始めるやつ(笑)。

ひらりさ:自分しか読まないことをただただ書くのがいいんです。

名越:それが本来の日記。SNSやブログのような、人に見せる前提の発信を休んで、自分を見つめ直す作業にエネルギーをかければ、個性は必ず見つかるし磨かれます。

ひらりさ:会社みたいに個性の需要がない場所では出さなくていいことにも気づきました。個性はむしろ、出し方やタイミングが大事。

名越:そして自分と向き合うには、心はもちろん体も休ませること。日本では多くの人が慢性の睡眠不足で、潜在能力を出しきれていないですから。個性を磨く処方箋は、心身のセルフケアなんです。

個性との上手な付き合い方6

1、「型の中で遊ぶ」ことで個性が輝く時代です。

「今エンタメ界で人気なのは、作られた型の中で個性を発するのが上手な人。K‐POP界で性格判断『16Personalities』の公表が流行っているのも納得です。型を受け入れ、その中で遊べる人が強いですね」(ひらりさ)

2、「一人の個性はひとつ」は幻想かも。

「個性はひとつじゃない。相手によって人格が変わるのが普通。むしろ自ら別キャラを立ててもいいくらいです」(名越)。「個性は流動的で日によっても変わる。自分はこうと決めつけない方がラクですよね」(ひらりさ)

3、推しキャラを楽しむ技術を、対人関係にも活かしてみよう!

「エンタメにおける個性は生身の本人と別物。推し活もキャラを楽しむ遊びだと、みんな理解していますよね。ならば日常で他人と接する時も同じ。個性と実像は違うと認識していれば人付き合いにも役立ちます」(ひらりさ)

4、SNSは「比較しない」をこころがけよう。

「SNSで見えている他人の個性は編集されたもの。それでも見ている限りは自分と比較してしまうので、SNSから遠ざかる時間を定期的に持つことをお勧めします。比較は茨の道。心理学的にも立証されています」(名越)

5、自分のパーソナリティとはギャップのあるコミュニティを見つける。

「例えば“僕は会社員だけど”という立ち位置のままで、ゲーム好きコミュニティに参加してみる。通常仕様とはギャップのある居場所を持つことで、息苦しさや生きづらさから解放されるということがあるんです」(名越)

6、「ずらす」ことで、より輝ける場所を見つける。

「このフィールドでは勝負できないと思ったら、目指す場所やキャラクターをずらせばいい。学校でも会社でも趣味の場でも、他人に負けることを怖がらず、個性を活かして輝ける別の道を探してほしいです」(名越)

なこし・やすふみ 1960年、奈良県生まれ。精神科医。専門は思春期精神医学、精神療法。音楽活動、映画評論、マンガ分析で活躍。会員制動画CH「名越康文TVシークレットトーク」も。

ひらり 1989年、東京都生まれ。文筆家。オタク文化、BLなどを題材にエッセイやインタビューを執筆。平成元年生まれ女子のサークル「劇団雌猫」メンバー。近著『それでも女をやっていく』。

『anan』2024年2月7日号より。イラスト・JenTwo(visiontrack) 取材、文・輪湖雅江

(by anan編集部)

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