『大奥』家治の悲しい過去が明らかに 小芝風花に初めて優しい笑顔を見せた亀梨和也

家治(亀梨和也)は不思議な男だ。蛇のように冷たい目をしているが、故郷に恋い慕う者がいたにもかかわらず、無理やり大奥に連れてこられた御台の倫子(小芝風花)を気遣う優しさがある。「好きでもない相手と交わる意味がどこにある」と呟く家治は、どこか寂しそうだった。『大奥』(フジテレビ系)第3話では、そんな家治の悲しい過去が明らかとなる。

裏で結託する老中の田沼(安田顕)と大奥総取締役の松島(栗山千明)。2人は公家が力を持たぬよう、家治にいち早く側室をあてがい、倫子よりも先に子を作らせようと企んでいた。だが、家治は子を作るつもりはなく、ゆえに側室はいらないと拒否。倫子と一夜を共にこそすれ、一切触れようとはしない。それには理由があった。

第九代将軍・家重(高橋克典)とその側室・お幸の方(紺野まひる)との間に生まれた家治。だが、家重は女癖が悪く、挙句に邪魔になったのかお幸の方を幽閉。ろくな食事も与えず、お幸の方は体を壊して亡くなったと女中たちの間では噂されていた。愛のない親の元に生まれた苦しみを知っているから、家治は誰とも子を作ろうとしないのだろう。自分と同じ思いをさせたくない。そんな家治の優しさを倫子は知った。

一方、倫子に悪質な嫌がらせを続ける者たちの事情も少しずつ見えてきた。松島は自身の息がかかるお知保(森川葵)を家治の側室にあてがおうとしており、最後に里帰りしておけと彼女に休暇を出す。大奥を出て、故郷でお知保が見せる顔は今までとはまるで別人。幼い兄弟たちに優しく微笑みかける彼女は聖母のようで、一番上の妹は「姉上は争い事など苦手ではないですか」と大奥で暮らす姉を気遣う。

そんなお知保を変えてしまったのは、不遇な身の上ゆえに苦労した過去だった。生まれが全て。大奥で嫌というほど、それを思い知らされたお知保は大奥で誰よりも偉くなり、高禄を得て家族を少しでも楽にさせるため、松島の言いなりになっているのである。その松島も胸にひどい火傷の跡があり、なにやら壮絶な過去を思わせる。松島と倫子の両方に嫌悪を向ける高岳(田中道子)にも何かしら事情があるのだろう。誰もが大奥で生きていくために鬼にならざるを得なかった。だからこそ、清廉潔白であろうとする倫子のことが許せないのだ。

だが、自分たちと同じように倫子を黒く染めようとする彼女たちの行動はことごとく裏目に出る。御膳所台所頭に命令し、倫子のおやつであるきんつばに碁石を仕込んだ松島。その罪は、お品(西野七瀬)が落とし物を拾ってくれたお礼にと彼女の好物であるきんつばをおやつに出すよう台所頭に勧めた、大奥料理役人の葉山(小関裕太)になすり付けられた。しかし、普通ならばお手打ちになるところを、倫子はこれから膳の管理をお品と一緒に全て任せたいと温情溢れる裁きを下す。自分のせいではないにもかかわらず、言い訳もせず素直に謝罪の姿勢を見せた葉山。これまではお品だけだった倫子の信頼できる味方が一人増えた。

かたや高岳は倫子の寝所に蛇を仕込むが、それは結果的に彼女と家治の絆を深めることとなった。きっと家治も倫子への嫌がらせに気づいているのだろう。それでもなお、人の心を失わず、苦しみとともにこの世を去ったお幸の方に思いを馳せる倫子の姿に心が動かされたのか、再び彼女の元に家治のお渡りがある。星が輝く夜空の下を倫子と散歩する家治。そこで2人は夢を語り合う。「この国は今、子供の数がどんどん減っている。度重なる天変地異で子を産み育てる余裕などないのであろう」という家治の言葉にドキッとした視聴者も多いはず。彼らが生きている世の中は現代と本当によく似ている。そんな中で、家治は国をもっと豊かにし、身分や貧富の差にかかわらず、子どもたちが国内外の学問を広く学べるようにしたいと考えていた。倫子もまた窮屈な思いをしている女性たちが自由に生きられるよう願っている。2人の夢が叶えられた暁には、誰もが鬼にならず、心から笑える世界が待っているのだろう。だが、完全に鬼になってしまったものにそれを理解してもらうのは容易いことではなく、実現には困難がつきまとう。けれど、互いの夢を共有した2人の間には確かな絆が生まれ、家治は初めて倫子に優しい笑顔を見せた。

今度こそ、倫子と本当の夫婦になろうと決意した家治。倫子に背中を押され、かねてより興味を持っていたオランダの商館長を田沼の反対を押し切って城に招き入れることに決めた。しかし、田沼は代わりに側室を持つことを家治に強要する。田安家の当主・宗武(陣内孝則)は自分の息子である定信(宮舘涼太)を次期将軍にするチャンスを虎視眈々と狙っている今、田沼は自分の地位を保つためにも家治に後継ぎを産んでもらわなければならなかった。過去に何かしらのトラウマを持つとみられる家治は、その引き金である田沼の扇子を見せられ、命令に屈してしまう。側室に選ばれたのはお知保だった。少々厄介なことに、どうやら彼女は家治に対して特別な感情を抱いている模様。倫子とお知保の間で、次期将軍の生母という地位や立場ではなく、純粋に家治をめぐる恋のバトルが勃発しそうだ。

(文=苫とり子)

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