「鬼越の動画で人生勉強」“ネット断ち”提唱のベストセラー教育学者・齋藤孝のスマホ&ネット「いい距離」活用術

「メールは“蒸らす”」を“再現”してくれた齋藤孝氏(写真・長谷川 新)

「移動中は、YouTubeを観ることが多いですね。お笑い系が好きで、かなりたくさん観ていますよ」

そう語るのが、明治大学教授の齋藤孝氏だと聞けば、驚く人も多いだろう。

なにしろ、齋藤氏はシリーズ累計260万部超のベストセラー『声に出して読みたい日本語』(草思社)で古典の魅力を広く知らしめ、その名も『ネット断ち』(青春新書)という著書もある。同書では、スマホから離れて、書物を通じて夏目漱石やゲーテの言葉にふれることを推奨しているのだから――。

「私自身、じつはスマホは活用していて恩恵にあずかっていますし、X(旧Twitter)も利用しています。重要なのは、いい距離感でスマホと向き合うことだと思います」

では、齋藤氏がスマホやネットを活用するうえで“しないこと”はなんだろうか。

「まず、(1)通知音はすべてオフにし、鳴らさないようにしています。調べもののために、テレビの生放送時にスマホを持ち込むことがあるのも理由のひとつですが、通知があるたびに集中が切れてしまうのを避けたいということが大きいですね。着信があったことは画面を見ればわかりますので、折り返して対応するようにしています」

そして、齋藤氏は(2)LINEを利用しない。

「スマホのショートメール機能で困ったことがないんですよね(笑)。LINEは通知がすごくたくさん来ると聞きますし、いくつものグループに参加すれば、それぞれに対応しなければならない。気遣いでエネルギーを浪費し、“LINE疲れ”を起こしてしまうと、クオリティ・オブ・ライフが下がってしまうと考えています」

Xの使い方も独特だ。

「Xでは、(3)時事ニュースには基本的には言及せず、また(4)ほかのアカウントに返信することもいっさいありません。炎上などのトラブルを避けるためにも、あくまでメモ代わりに利用しています。本の一節や音楽に『ああ、いいな』と思ったとき、140字にちょうど収まるように推敲して発信しています。先日は、大谷翔平選手の活躍を江戸時代の儒学者・佐藤一斎の名言と組み合わせてみました。ポストする内容は、“誰も傷つけない”ことが第一条件です」

“しないこと”を決めたうえで、齋藤氏が積極的にスマホで“すること”が、(11)お笑いのYouTubeの視聴だ。

「テレビプロデューサーの佐久間宣行さんの『NOBROCK TV』の『罵倒キャバクラ』がおもしろいですね。ギャルモデルのみりちゃむさんが錦鯉の渡辺隆さんをこき下ろすんですけど、彼女の罵倒の技術が非常に高い。それを受け入れ、悦(よろこ)んでみせる渡辺さんの“芸人魂”もすごいんです」

お笑いYouTubeは、人生の勉強にもなるという。

「『鬼越トマホーク喧嘩チャンネル』で語られる川瀬名人(ゆにばーす)の半生は劇的です。三角関係や“寝取られ”などの修羅場に、『本当にこんなことあるんだ』と驚かされます。YouTubeは人間のいろんな側面を、じっくり学ぶことができるんです」

そして、その際には必ず(12)コメント欄をチェックする。

「YouTubeやYahoo!ニュースで毎日、数百のコメントを読んでいると思います。最近では『太田上田』(中京テレビ)の公式チャンネルで、ゲストのえなりかずきさんが上田晋也さんをものまねしたときに、そのうまさを『サグラダファミリアより完成してる』と評したコメントがありました。いまは一時期よりも誹謗中傷は落ち着き、このような繊細なセンスを持ったコメントが増えているように思います。コメント欄を見ていると、時代の空気や流れがわかりますし、日本人の感性は信頼できる、と感じます」

そんな齋藤氏は、(13)対話型人工知能「チャットGPT」も活用すべきだという。

「まだ精度が低い部分はありますが、質問次第でフェイクはある程度、排除できると感じました。私は、チャットGPTを、複数の視点を得るための対話ツールとして利用しています。先日は、“人気漫画『SPY×FAMILY』を家族論的にとらえる”ことについて語り合いました」

齋藤氏のように、スマホやネットといい距離感を保つにはどうすればいいのか。

「ネットやSNSを一日1時間、断ってみましょう。1時間ならLINEを返さなくても問題ないはずです。そして、私のように通知をつねにオフにするのは難しくても、終業後や休日くらいは、サイレントモードにしてみてはいかがでしょうか」

© 株式会社光文社