EPIC 45th Anniversary「EPICソニーから遠く離れて、それでもEPICソニーは終わらない」  EPICレーベル45周年を記念したコンピレーションアルバムがリリース!

“EPICレーベル” の源流としての「EPICソニー」

BAYFM『Wave Re:minder』という番組に出演させていただいた。さる1月31日と2月7日の25時からのオンエアの中で、『EPICレーベルを彩った名曲たち』というテーマでいろいろとしゃべった。

2021年『EPICソニーとその時代』(集英社新書)という本を上梓した。その中では “EPICレーベル” =「EPICソニー」時代の歴史や名曲を分析し、佐野元春本人や、彼を見出した伝説のプロデューサー・小坂洋二氏に対するインタビューを敢行した。というわけで「EPICレーベル」については、人よりもちょっと詳しいはずだ。

ーー と “EPICレーベル” と「EPICソニー」という言葉を使い分けた。前者を一般的な言い回しとすると、後者は法人名。当時の正式な表記は「EPIC・ソニー」。

1978年に「CBS・ソニー」の子会社として設立され、1988年、その「CBS・ソニーグループ」に吸収されることなる、たった10年間だけ続いた法人『株式会社EPIC・ソニー』――この10年間が “EPICレーベル” の源流であり根幹であり、まさに黄金期だったと考える。

EPICソニーがもたらしたレーベルビジネスとヴィジュアル・マーケティング

ーー では、この時代のEPICソニーが何をもたらしたのか。

その1つ目は “レーベルビジネス” だ。例えばシュープリームスやスティービー・ワンダーを擁した「MOTOWN」のように、ある音楽的個性を軸としてビジネスを成功させたという、日本では極めて稀なレーベルではなかったか。その個性とは人呼んで―― “ロック・レーベル” 。

ただ、成功に向けて明快な戦略があったというよりは、設立時のリーダー:丸山茂雄の “歌謡曲嫌い” から後天的に生まれた方向性だというのが面白いのだが。

70年代 “ニューミュージック・レーベル” としての東芝EMI「EXPRESS」(松任谷由実、オフコース、チューリップなど)や、90年代「ダンスミュージック・レーベル」としての「avex trax」(いわゆる “小室哲哉系” など)と並ぶ、「レーベル・ビジネス」の稀有な成功例だったことが、まず指摘できよう。

EPICソニーがもたらした2つ目は “ヴィジュアル・マーケティング” だ。こちらも営業体制の脆弱さから後天的に編み出されたようなのだが、プロモーションビデオ(PV。今でいう ”MV”)を “営業マン” として有効活用し、楽曲を広めていくという方法論が、EPICソニーを成功に導いた。

この点については、”ビデオ班” にいた坂西伊作という天才 / 鬼才映像ディレクターがいたことが大きい。またヴィジュアル重視戦略の中、EPICソニーの音楽家自体も、おしなべてフォトジェニックでファッショナブルだった。

絶対に無理と思われていた日本語とロックとソウルビートの融合

しかし、もたらしたものの3つ目にして、決定的なものが “日本語とビートの融合” ではなかったか。

自著『EPICソニーとその時代』の中で、佐野元春、大沢誉志幸、岡村靖幸を “EPICソニーの背骨” だと断じた。彼ら “背骨” の功績、その本質は「絶対に無理と思われていた日本語とロックとソウルビートの融合」だと考える。

ここで突然 “ソウルビート” という言葉を出してみた。EPICソニーの歴史を “ロック” という言葉だけでは背負いにくいと思ったからだ。大沢誉志幸、岡村靖幸に加え、例えば大沢とタッグを組む鈴木雅之など、黒人音楽フレーバーの高いラインもEPICソニー独自の魅力であり、そして、そんな魅力が結晶したのが、大沢誉志幸 presents 「Dance To Christmas」である。

話を戻すと、例えば、佐野元春のデビュー曲「アンジェリーナ」の歌い出し、たった4つの八分音符に「♪シャン・デリ・ア・の」――つまり4つの音符に「シャ・ン・デ・リ・ア・の」の6文字が詰まっている。

つまり 「シャン」「デリ」を1つの音符に複数の文字を詰め込む “文字詰め唱法” 。この佐野元春が編み出した方法論を、EPICソニーの音楽家は、惜しげもなく使うのだ(《  》内)。

▶︎ 大沢誉志幸「ゴーゴーヘブン」 「♪悪いヤツだゼ《いつ》までも」

▶︎ 大江千里「GLORY DAYS」 「♪《きみ》の目に映るぼくがいて」

▶︎ 渡辺美里「My Revolution」 「♪《非常》階段 《急》ぐくつ音」

▶︎ TM NETWORK「SELF CONTROL」 「♪君を連れ去る《クル》マを見送って」

▶︎ 岡村靖幸「カルアミルク」 「♪《あと》もう一回《あな》たから」

ーーこの唱法に加えて、大沢誉志幸は異常にソウルフルなフェイクをかまし、岡村靖幸は歌詞を意味の呪縛から解放した――。そうしてEPICソニーの音楽家は一様に、彼ら “背骨” からの影響を受けながら “背骨" にまとわりつく筋肉と血管を震わせて、日本語をグルーヴィに響かせたのだ。

ミスターEPICソニー=佐野元春がいる限り

1988年にEPICソニーがCBSソニーに吸収され、丸山茂雄もいなくなってからの平成時代、”ヴィジュアル・マーケティング” も “日本語とビートの融合” も普通になってしまった。言い換えれば―― すべてのJ-ポップがEPICソニーになった。

そして、レコード会社は次々と合従連衡を重ねて肥大化、そしてサブスクリプションはいよいよ浸透、結果として “レーベル” という概念自体が無効化しつつある。

ーー となると、レーベルとしてのEPICソニーがもたらしたあれこれは、ついに昔話となるのだろうか―― と一瞬思いながら、それでもEPICソニーがもたらした4つ目の功績の巨大さに気付くのだ。

――佐野元春。”ミスターEPICソニー” としての彼がいる限り。

今や “EPICレーベル” ではないものの、ソニー系となった「Daisy Music」からリリースされた2022年のアルバム『今、何処』は、佐野元春の現役性・現役感を見せつけた傑作アルバムだった。

 空っぽの街に響き渡る   ハンディートーキーの声   誰も気にしちゃいない   この植民地の夜 (植民地の夜)

 そうさ、英雄もファシストも   いらない   いらない (大人のくせに)

2022年7月8日、安倍元首相狙撃事件のニュース速報をスマホで確認したとき、私のスマホから流れていたのはこのアルバム、この言葉だった。

どうだろう、この現実感は。私は Yahoo!ニュース エキスパートの連載に、『今、何処』に対する推薦として、こう書いた。

「大人のくせに、ロックンロールかよ?」

「いや、大人なんだから、こういうロックンロールなんだよ」

佐野元春が、時代に寄り添った音楽活動をしている。だから私の中でEPICソニーは終わらない。だから『Wave Re:minder』で最後にかけた彼の「約束の橋」は、あの頃EPICソニーを聴いた私たちに、今でもいきいきと響いてくる。

 今までの君はまちがいじゃない  これからの君はまちがいじゃない

EPICソニーは終わらない。終わってたまるものか。

カタリベ: スージー鈴木

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