ルノー子会社アンペアの新規上場中止はEV失速の前兆なのか

アンペアのIPO中止は何を意味するのか(Photo By Reuters)

電気自動車(EV)は失速するのか?仏ルノーが2024年1月29日にEV子会社アンペアの新規株式公開(IPO)を中止すると発表した。株式市場の状況が悪く、上場のタイミングではないと判断したという。同30日には独フォルクスワーゲン(VW)もEV向けバッテリー生産子会社パワーコのIPO計画を棚上げすると報じられた。こうした事態は「飛ぶ鳥を落とす勢い」で成長したEVに対する逆風なのか?それとも…。

欧州EV市場の競争激化で消えたアンペアのIPO

ルノーはアンペアの業績が損益分岐点を超える2025年まで、株式市場からの資金調達に頼らず開発資金の先行投資を続ける。日産自動車と三菱自動車工業は、アンペアに合計8億ユーロ(約1270億円)の出資を決めている。しかし、ルノーのティエリー・ピエトンCFO(最高財務責任者)は「両社が出資するかどうかについては話し合う必要がある」と、両社からの出資中止も懸念している。

アンペアのIPOに逆風が吹いている理由は、欧州EV市場の競争激化だ。中国から低価格EVの輸出が本格化してきた。一方で欧州各国は財政再建のために、EV購入補助金の削減に向かいつつある。補助金なしの価格競争となった場合、欧州車メーカーが生産するEVに価格競争力がないのではないかとの懸念が浮上。一般投資家がアンペアへの出資をためらう可能性が高まっている。

VWは補助金や税制優遇策の縮小を受けて、2023年10月にEVの減産に着手。11月には決定済みのドイツのザルツギッター、スペインのバレンシア、カナダのセントトーマスに続く、東欧で検討していた第4電池工場の候補地選定を延期している。


「EVの失速」ではなく「欧米EVの失速」

ルノーのルカ・デメオCEO(最高経営責任者)は、中国製EVに真っ向から対決する構えだ。アンペアの売上高を2031年まで毎年30%成長させ、EV生産コストを今後5年間で40%削減する野心的な目標を掲げている。

中国製EVの追い上げを受けている米テスラも、2023年5月に本国でEVセダンの「モデル3」を1300ドル(約19万円)以上値下げしたが、競争が激しい欧州市場では中国製「モデル3」で最大3490ユーロ(約55万円)、ドイツで生産した「モデルY」には3660ユーロ(約58万円)もの大幅値引きを断行した。

その結果、同社の2023年10-12月期決算では前年同期比47%もの営業減益となり、時価総額は年初から約2100億ドル(約30兆円)も吹っ飛んだ。アンペアが値下げ競争に巻き込まれれば利益が抑え込まれ、株価が下落するのは避けられない。

それを避けるには中国製EVを上回るコスト削減が必要だが、投資家は欧州の生産拠点で中国よりも低コストのEV生産ができるとは見ていないだろう。投資家を納得させるには、実際に低価格EVを販売し、高い営業利益を出して見せるしかない。それができない限り、アンペアのIPOは実現不可能だろう。

こうした背景からアンペアのIPO中止は「EV市場の失速」ではなく、「先進国製EVの失速」と見るのが妥当だろう。英市場調査会社のロー・モーションは、EVの世界販売台数が前年比31%増だったことを明らかにした。前年の同60%増に比べると伸びは鈍化したが、同社は「急激に拡大する市場では予想の範囲内」としており、2024年も同25〜30%増の成長を予想している。

この見方が正しいとすれば、欧米車メーカーはもとより、EVシフトで完全に出遅れた日本車もEVの低価格化競争に着いて行けず、中国製EVが世界市場を席巻するだろう。「リーフ」を世に出した日産に代わって世界市場を牽引(けんいん)してきたテスラは、2023年10―12月にはEV販売で中国のBYD(比亜迪汽車)に追い抜かれた。通年でもBYDは157万5000台(同72.8%増)と、テスラの181万台(前年比38%増)に迫っている。

文:M&A Online

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