「寄付はお金持ちがする」は、どう変えられる?メルカリの新しい提案

「日本人は寄付をしない」(※)とよく言われます。

が、一口に寄付と言っても、コンビニレジ前の募金箱、NPO・NGOへの月額寄付、クラウドファンディンング、被災地への義援金など、さまざまなかたちがあるもの。

日本で寄付文化が醸成されない要因の一つには、「人に言うようなことじゃない」「自慢していると思われる」という日本人独特のメンタリティが大きく影響しているかもしれません。寄付をした時に、「この前〇〇に寄付した」と会話の中で話題にしたり、SNSで発信したことがある、という人は少ないのではないでしょうか。「寄付はお金持ちがするもの」というイメージもまだまだ根強くあります。

しかし1月1日の能登半島地震を受けて、2日に「メルカリ寄付」が寄付先に能登半島地震による被災地の支援を追加すると、2日間で約5000万円の寄付金が集まったのです。

寄付へのハードルを下げることに成功した「メルカリ寄付」は、従来の寄付とは何が違うのでしょうか?

寄付文化の醸成に力を入れるメルカリグループ日本事業責任者の山本真人さんと、「メルカリ寄付」機能で連携する日本財団常務理事の笹川順平さんに話を聞きました。

メルカリグループ日本事業責任者の山本真人さん(右)と、「メルカリ寄付」機能で連携する日本財団常務理事の笹川順平さん

「メルカリユーザー」と「寄付」には意外な親和性があった

──1月1日に能登半島地震がありました。今なお被災地では余震も続いていて、必要な物資や人員が十分に行き渡っておらず苦しんでいる方がたくさんいます。メルカリからは、1月2日にすでに「メルカリ寄付」機能で被災地への支援を受付開始したとリリースが出ていましたね。

笹川順平(以下・笹川):午後4時10分ごろに地震が起きてからすぐにメルカリさんと連絡を取り合い、その日の夜8時、9時頃には意思決定をしていました。1月2日には日本財団の職員が現地に入って、情報収集や、連携する災害支援NPOとともに支援活動を開始しました。そして、ユーザー数2300万人というメルカリさんのプラットフォームで、2日間で約5000万円が集まったということは、私は日本の寄付文化の歴史で見ても特筆すべき点なのかと思います。小さな金額の積み重ねで、ここまでになったということです。

山本真人(以下・山本):「メルカリ」のお客さまは日頃から、「自分が持っていた時は価値を発揮していなかったものが、必要としている人の元に届いて価値を発揮する」ということを実感されています。その肌感覚があるから、今回の被災地への寄付に関しても、特別なことと感じることなく、これまでしてきたことの延長線上ととらえられたのではないでしょうか。

寄付すると「お金持ってるんですね」と言われてしまう日本

──日本には寄付文化がない、日本人は寄付をしない、とよく言われますが、東日本大震災や、クラウドファンディングの誕生で潮目が変わってきたという分析もあります。日本独自の文化的背景があると思うのですが、お二人はどのようにご覧になっていますか?

笹川:寄付文化が盛んなアメリカは「節税のため」と実利的に割り切っている印象があります。一方日本は「人に言うようなことじゃない」と、自分の中にしまっておくことを美徳とする国民性がある。

山本:私は幼少期にヨーロッパの国に住んでいたのですが、特に成功した人ほど「自分を育ててくれた社会に還元する」という考え方が浸透しているように感じられました。

日本では、寄付を表明すると「お金持ってるんですね」「自慢してるんですか」と穿った見方をされてしまうことがあると思います。だから、全く後ろめたいことではないのに「誰にも言わずにやりたい」という空気になってしまう。誰かが寄付をしている姿が見えないと、ますます「自分もやってみようかな」という気づきが生まれにくくなってしまいます。

でも今回、X上で「メルカリで被災地に寄付しました」と躊躇のない様子で投稿する方をたくさん見かけたんです。これまでの寄付と何が違うんだろう? と考えていたのですが、「いらなくなったものを売ったお金がちょうどあるので、それを寄付した」という言い方ができることがポイントなのかと。

──なるほど! それが寄付のエクスキューズになったということですね。日本人には「私はお金を持っていないけど」と自分を守るための方便が必要だったのか……

笹川:日本財団では 「ポイント寄付」にも力を入れていて、かなり寄付額が伸びてきているのですが、これも似ていると思います。「貯まったポイント」だと寄付しやすい、という心情があるのかもしれませんね。

メルカリグループ日本事業責任者の山本真人さん(右)と、「メルカリ寄付」機能で連携する日本財団常務理事の笹川順平さん

「困っています」と募金箱を出すアプローチの限界

──日本は「世界人助け指数」でワースト2位ですが、首位はケニア・インドネシア・アメリカ。つまり、国の経済力や個人資産の多寡は人助けには関係がない、ということがわかっています。もちろん災害時に国の支援が最も大切ですが、助け合いの文化も同時に必要だと思います。

笹川:日本財団で子どもたちの支援をしている中で変化を感じるのは、今、ネグレクト、虐待、貧困など問題が増え続けているということ。昔は「そんな子周りにいないでしょう」という空気だったのが、最近は「クラスにいる」と認識が異なってきているので、「じゃあ何かできることがあったらやりたい」という人が非常に多いです。

山本:日本が以前よりも豊かな国とは言えなくなったことで、課題へのビジビリティが上がっているんですね。すると、寄付という動作に促すためには「こんなに困っている人がいっぱいいます」ということを可視化して伝えていくのが一番いいのでしょうか……?

笹川:たぶん、寄付を使って何ができたか、ということを伝える方が価値があると思います。例えば、今回被災地に水のシステム、トイレやシャワーをお届けすることができたら、こんなに喜ばれていると様子を伝える。誰かの喜びに自分が貢献できたとわかると嬉しいじゃないですか。

山本:なるほど! そういえば僕は社内屈指のメルカリ利用者で、めちゃくちゃ売ってるんですが(笑)、買っていただいた方がどれだけ喜んでるかを伝えてくださるのが一番嬉しいんですよね。

笹川:「困っています」と募金箱を設置しても、情報の抽象度が高くてなかなか人の心に響かない。でも、今まで寄付はそれが限界だったように思います。

山本:「どう困っているか」ではなくて、寄付のおかげで「こんなに助かりました」ということを伝えていくのか……本当にその通りですね。それを可視化していく機能も検討の余地がありそうです。

メルカリグループ日本事業責任者の山本真人さん(右)と、「メルカリ寄付」機能で連携する日本財団常務理事の笹川順平さん

少額でも、一度寄付を経験した人は必ずリピートする

──日本ならではの寄付文化が今後根付いていく予感がありますね。メルカリと日本財団のパートナーシップで今後どんなインパクトを生んでいきたいですか?

山本:メルカリは2023年に10周年を迎え、「あらゆる価値を循環させ 、あらゆる人の可能性を広げる」という新しいミッションを掲げました。「メルカリと寄付」は意外な組み合わせだと思う人もいるかもしれませんが、僕らにとっては非常に自然なこと。

これまでも、「メルカリ」の売上金をメルペイとして「メルカリ」外のお買い物でも使えるようにするなど、価値の循環が外に広がってゆく設計にしてきました。 私たちだけではできないことも多いのでパートナーとともにものごとをすすめることが重要だと感じています。日本財団さんとは、2021年に提携してから、家庭内で使わなくなった物を分別するための「メルカリエコボックス」や、「寄付型梱包資材 チャリティボックス」などを展開してきました。これからもお力を借りながら、循環の輪をもっともっと大きく広げていきたいです。

──2023年12月には「メルカリ寄付」に「かんたん寄付設定」という機能が追加されました。

山本:これは出品者が出品時に、売上の中から5・10・50・100%の寄付割合を選んで設定できるものです。「メルカリ寄付」をさらに一歩、アクティブに活用できるよう設計しました。

CtoCの「メルカリ」では、出品者も購入者も同じ「個人」なので、お店よりも身近に感じやすい。寄付設定を活用している人と取引すると、「私もこれやってみようかな」と行動がどんどん伝播していきます。文化は日々のアクションの継続で自然と根付くものだと思うので、堅苦しくなく、気軽にチャレンジできる機能を目指して今後もアップデートを重ねていきます。

笹川:僕はよく知人に、「騙されたと思ってまずは一回やってみて」と寄付を勧めるのですが、面白いことに、一度経験した人は必ずリピートするんです。寄付額が多いか少ないかは関係なく、「自分は存在していていいんだ」「自分は人に必要とされているんだ」という誇りにつながる。ある種、自己満足でもいいと思うんです。その先に笑顔を見ることさえできるなら。

日本財団の活動理念は「痛みも、希望も、未来も、ともに。」です。社会のどこかに痛みを抱えている人がいるなら、誰よりも早く駆けつけて、何が必要かを見極め、瞬時に行動を起こすというのが鉄則。メルカリさんのプラットフォームとともに、新しい価値を生み出すことができると期待しています。

(※)イギリスの慈善団体「Charities Aid Foundation」が発表したデータによると、日本は「世界人助け指数」は118位で世界ワースト2位。(参考:日本財団ジャーナル)人助け指数は「寄付をしたか?」「ボランティア活動をしたか?」「見知らぬ人を助けたか?」などの質問に対する回答を国別に集計したもの。

(取材・文:清藤千秋 編集:泉谷由梨子/ハフポスト日本版)

© ザ・ハフィントン・ポスト・ジャパン株式会社