「無理しないでいいから」収入減の兄を案じて100万円を貸した弟が犯した「最大の過ち」

兄弟や姉妹にお金を貸す時、あなたは契約書を作るだろうか。おそらく兄弟姉妹の間ならと契約書を作成せずに貸そうと考えるのが一般的だろう。だが、それは基本的には間違いだ。兄弟姉妹の間だからこそ契約書を作るべきだ。それを伝えるべく、今回は荒木兄弟の事例を紹介する。

仲良しの兄弟の絆が崩壊したきっかけ

荒木兄弟はともに20代(当時)の兄弟だ。兄の優さん(仮名)が29歳、弟の健斗さん(仮名)が26歳で兄弟仲は非常に良好である。

兄の優さんは一足早くに結婚して6歳になる子どもがいた。仕事に子育てに忙しい人ではあるのだが、暇を見ては弟の健斗さんと遊びに行っている。子どものころから弟思いで面倒見のいい兄だった。それが大人になり家庭を持った後でも変わらない。当時の私から見ても優さんは理想的な兄に見えていた。弟の健斗さんはそんな彼を慕い尊敬しているようで、子どものころから変わらず兄に着いていっている。

今回、私に相談を寄せてきたのは弟の健斗さんの方だ。彼とは年数回、地元に戻った際に飲みに出掛けるのだがその時にはさまざまな相談を受ける。今回の相談もその中で受けたものだ。

「兄弟に契約書とかいらないでしょ」弟の気遣い

お金の貸し借りに至ったきっかけはよくあるものだ。兄の優さんにおいて勤務先が業績不振に陥り収入減。やむを得ず弟の健斗さんへ相談したという流れになる。

「契約書もしっかり作る。必ず返すから、100万円を貸してくれないか?」

健斗さんは優さんからこのように頭を下げられたという。優さんは子どもが私立の学校に通っているなどの事情もあり、生活に行き詰まっていたようだ。

健斗さんは優さんが悩んでいることに気付いていた。仲のいい兄弟だから当然と言えば当然かもしれない。ただ、兄が弟からお金を借りるというのは、男としてプライドの問題もある。幼いころから兄として健斗さんを引っ張ってきた優さんのような人なら、なおさらだろう。

だがしかし、背に腹は代えられない。彼も恥を忍んで弟を頼った。その優さんの気持ちを健斗さんはひしひしと感じていたようだ。「『恥ずかしい兄ですまない』。そう言って頭を下げる兄の姿が脳裏にこびり付いている」と、健斗さんは複雑そうな顔で私に語った。

その時、落ち込む優さんを気遣い、健斗さんは本当は契約書を作るべきだろうと思いつつ、「俺ら兄弟に契約書とかいらないでしょ!」と、明るく言ってのけた。兄に元気を出してほしかったからだ。

優さんはそれに対して、「分かった。じゃあ毎月3万円ずつ返していくよ」と返事をした。健斗さんはそれに対して、「無理しないでいいから。余裕がある時にでも返してよ」と返したという。そうして、健斗さんは優さんへ100万円を貸すこととなった。

「思えばこれが最大の間違いだったのかもしれない……」

弟の健斗さんは当時を振り返りながら私にそう語った。

●兄を元気づけようと、契約書を作らずお金を貸した健斗さん。しかし、これが後の大きなトラブルを引き起こしてしまいます。後編【25年の絆が“100万円”で崩壊…弟にお金を返さない兄が発した「信じられない言葉」】で詳説します。

※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。

柘植 輝/行政書士・FP

行政書士とFPをメインに企業の経営改善など幅広く活動を行う。得意分野は相続や契約といった民亊法務関連。20歳で行政書士に合格し、若干30代の若さながら10年以上のキャリアがあり、若い感性と十分な経験からくるアドバイスは多方面から支持を集めている。


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