目指すのは欧米ブランド依存からの脱却。羽田空港に集まった、日本の「ラグジュアリー」を世界へ

国際線の発着枠が拡大されたことで、訪日外国人の観光の拠点にもなっている羽田空港。2023年12月、第3ターミナルの出国エリア内に「ジャパン マスタリー コレクション(Japan Mastery Collection)」がオープン。「地方創生型日本発ラグジュアリーブランド」を掲げる同店の立ち上げ背景には、日本のものづくり産業、そして地方の再生を後押ししたいという思いがありました。

日本最大の空の玄関口である東京国際空港、通称・羽田空港。

成田国際空港が開港して以降は国内線を中心に運用されてきた羽田ですが、2010年から年を追うごとに国際線の発着枠が拡大。現在では世界的な国際空港としてもプレゼンスを高めており、英国OAG社のデータによると、直近の2023年12月期には国際線の便数が4393便となるなど、コロナ禍前の2019年同期を2割ほど上回っています。

国際線がメインとなる羽田空港第3ターミナルには、世界各地の国際空港同様、出国エリア内に多数の免税店が出店。そこに2023年12月、「ジャパン マスタリー コレクション(Japan Mastery Collection、以下JMC)」の店舗がオープンしました。

提供:羽田未来総合研究所

「地方創生型日本発ラグジュアリーブランド」を掲げるJMCは、服飾品や雑貨、アート作品まで、日本各地のものづくりの粋を集めた、これまでにない店舗です。

「日本のGDPの半分以上を占めているのは、首都圏を除く各道府県。地方の再生なくして、日本の国力を上げることはできません。地方創生は、私たちの事業の柱のひとつとして捉えています」

JMCを運営する羽田未来総合研究所の地方創生事業部長、楊井吉彦さんは、立ち上げの経緯についてこのように語ります。

世界の「羽田」だからこそ

「守るべき日本の美と技」をテーマに、ラグジュアリーブランドお墨付きのデニムを使ったパンツや、金箔があしらわれたレザースニーカー、伝統芸能で使われる能面にデザインを施したアート作品といった贅沢な逸品が揃うJMC。

さまざまな商品のそばにはQRコードが設置され、スマートフォンで読み込むことにより、産地や生産者などの商品説明を3言語(日本語、中国語、英語)で閲覧することができます。

海外でも人気のシューズブランド、オニツカタイガーにカンサイヤマモトが別注した羽田限定スニーカー。姫路の熟練タンナーが鞣した姫路レザー(姫革)に金沢の箔貼り職人が本金箔(箔一)を施している。提供:羽田未来総合研究所

「最高峰の技術や素材など、日本のものづくりは世界に誇る文化。ですが、どんなに良いものも、日常に馴染む現代的な製品にアレンジされていない場合、多くの人に認められづらいということも事実です。

そこで、QRコードによる商品説明閲覧の際に選択した言語や、実際の購買データは独自に分析し、生産者へ情報をフィードバックしています。その後の商品開発や出店先の選定など、日本のものづくり事業者が海外進出をする際の一助となりたいと考えているからです」

近年の羽田空港の出国エリアは訪日外国人が最後に訪れる場所にもなっているため、日本のものづくりの魅力を世界に発信する場所としてうってつけだといいます。

羽田空港に出店するメリットはそれだけではありません。ハブ空港である羽田には、日本における観光の拠点としての側面もあるからです。

提供:羽田未来総合研究所

「QRコードから商品がつくられた背景などを知っていただくことで、『この商品はこういう場所でつくられているんだ、次はここに行ってみようかな』というように、次回来日時の観光提案にもつながると考えています。

単に日本が世界に誇るものを販売するだけではなく、海外の方に地方にも目を向けてもらうきっかけを提供する。そこまでを考えたときに、首都である東京にもっとも近く、国際線と国内線の両方のハブ(拠点)である羽田は理想的な出店場所なのです」

欧米依存からの脱却

もうひとつの課題として捉えていると話すのは、日本の欧米ラグジュアリーブランドへの”依存”です。

「例えば、福井・鯖江の眼鏡や岡山のデニム生地などは、欧米のラグジュアリーブランドの製品にも多く使用されています。ですが、素材を提供するメーカーや工場には、ブランド側と同等レベルの対価は支払われていないという現状があります」

そのため、JMCでは「ラグジュアリー」にフォーカス。その方針は、店内に並ぶ商品のラインナップにも表れています。

岡山県の人気デニムブランド指定工場で生産した、オリジナルのデニム製品Hirohiko Namba / OTEMOTO

「ウェブサイトも含め、"日本のいいもの"を扱っているお店は数多くあります。そこで、差別化をはかるために重視しているのはハイクオリティなグレード感です。ある程度量産されている伝統工芸品などは扱っていません。

例えば、百貨店では1万円前後で販売されているような南部鉄器も、JMCで取り扱っているのは熟練の職人さんがこだわってつくった、付加価値の高い3〜5万円前後のもの。そうすると、必然的に希少性が高くなり価格も上がりますが、そのぶん生産者への還元額も多くすることができるのです」

それでも、希少で高額であることだけを「ラグジュアリー」とは捉えていないと語る楊井さん。

「所有し、使う体験によって心が豊かになる。そうした精神性こそがラグジュアリーだと思うんです。そのため、店内のしつらえや販売員の立ち振る舞いなど、販売する商品に付随する部分も切磋琢磨し、より高めていかなくてはならないと考えています」

商品のラインナップは、「ラグジュアリー」であることだけにとどまりません。選定基準として大切にしているのは、現代のライフスタイルにもなじむこと。そのために必要となるのは、センスという言語化が難しい抽象的な感覚です。

「商品の選定は、羽田未来総合研究所の代表取締役社長の大西洋(元三越伊勢丹ホールディングス社長)、JMCのバイヤー、そして私も関わっていますが、三者の意見が揃わないということは実はほとんどありません。それは、3人とも百貨店の出身で、店頭での仕入れ・販売・接客等に関する経験があり、これまでに見てきた"景色"が同じだからだと思うんです。

例えば漆器の場合、伝統工芸品を扱うお店では和柄のものを置いてある場合が多いですが、私たちはそういったものは選びません。インテリアに溶け込むシックな色合いだったり、キャンプなど屋外でも使えるようなデザインだったりと、現代のライフスタイルに即した商品選定にこだわっています」

生産者を置き去りにしない

希少性が高く、他にはない選りすぐりの商品を販売しているJMC。既存の店舗とは異なる運営スタイルは、裏を返すと、安定した供給での継続が難しいという一面もあります。

「実は、商品の大半はものづくりのリードタイム(納品までの所要時間)が長いもの。手間暇がかかるうえに、つくることができる人も少ないものですが、だからこそ残していかなければならないんです。

そこで、JMCがオリジナル商品を一定数発注するというリスクをとって、商品に適正な価格をつける。これによって、生産者への資金還元もできるのです」

神楽面作家の小林泰三さんとグラフィックアーティストの牧かほりさんのコラボレーションによる、島根県の伝統芸能「石見神楽」の能面をアレンジしたアート作品提供:羽田未来総合研究所

こうした独自の取り組みをもとに、JMCが未来へ残したいと考えているのは、日本各地の優れた技術や素材、そして感性。その実現のために忘れてはならないのが、日本のものづくりの今後を担う、後継者の育成です。

「日本各地のものづくりの現場を訪ねると、伝統を受け継ぎながらも、若返りをはかろうと奮闘するメーカーや工場が数多くありました。そうした生産者に共通していたのは、トップの方が危機感をもっていたり、ブランディングという視点をものづくりに生かしていたことです。

私たちも、単に日本の伝統的なものづくりを紹介するだけでなく、そうした技術を現代的に昇華できることを発信していきたい。若い人たちにも『こういうものも世界に誇れる日本の文化や技術なんだ』と興味をもってもらう入り口をつくることが、後継者育成にもつながると考えているのです」

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