『相棒』が映し出した“人を育て上げること”の難しさ 右京の哲学、深い知識が光る

『相棒 season22』(テレビ朝日系)の第14話は、「亀裂」というタイトル通り、人と人が袖を分かつ瞬間が描かれた。「真の愛情とは手放すこと」という右京(水谷豊)の言葉にも、人を育て上げることの難しさが滲む。

チェス喫茶で右京が一戦交えた相手は20億もの価値になる美術コレクションを有する道明寺(小林隆)という男だった。だがこのとき、道明寺家では殺人事件が起こる。さらに大切な美術品の数々が納められていたコレクションルームはもぬけの殻。警察はこの事件を、1カ月のあいだに2度起きた美術品強盗グループの仕業だと判断するが、右京はこれまでの事件との相違点を指摘する。はたして事件の真相は……。

道明寺は芸術をこよなく愛し、若手芸術家の支援をする立場の人間だった。実は右京と道明寺が対局した同じ日に、亀山(寺脇康文)が美和子(鈴木砂羽)と行った陶芸教室の講師・島川雪乃(清水葉月)も、道明寺から支援を受けるアーティストの一人。“アート界の若きエース”と称されニューヨークに行くことも決まっていた雪乃を筆頭に、一度は名声を得るものの筆を折った水墨画家・関口倫之助(坂口辰平)、そして洋画家の横井正孝(小野健斗)らが道明寺に助けられていた。

道明寺はこうした若き才能に目をかけながら、実は狂った野望を持ち合わせていたのだ。「私の命が尽きるのに、私のコレクションはこの世に残り続ける。それがなんだか悲しくなってしまってね。いっそ同じ運命を辿ればいいのに、なんて考えたりしてね」と右京にこぼした思いからも、その危うさの片鱗が見えていた。

右京の推理により事件の全貌が明かされる。道明寺がこうした芸術への狂った執着を持ち、若い才能にのめり込み過ぎてしまったことで悲劇は起きたのだ。道明寺自身が余命3カ月であることでやけになり棺に入らない分の美術品を叩き割って破壊しようとする暴力性や、倫之助に芸術活動のために全ての人間関係を断つよう迫ったことなど、観ていて胸の痛むシーンが続く。物語を最後まで観れば、改めて「器の悲鳴が聞こえて」と咄嗟に口に出した雪乃の気持ちが痛いほどわかる。自身も美術家である雪乃は、生み出された芸術品が壊される“痛み”を誰よりもわかっていたのだろう。

そして、美術品が壊されることを阻止するため雪乃と正孝が作品を盗み出すよう仕向けていたのは、実は道明寺の仕業だ。これは“罪に問われた雪乃や正孝が孤独になることで、己と向き合い芸術に没頭し続けられる”という歪んだ思想に導かれたものだった。全てが計画通り、まるで鮮やかなチェスの試合のようにコマが動いた第14話であったが、右京は“最初の一手”を見逃さない。狂った執着を紐解き、若手が羽ばたく環境を作るべきだと道明寺を諭すのだった。

右京の人間性や哲学、そして深い知識が光った第14話。ラストは亀山が陶芸教室で作ったティーカップが、“誰へのプレゼント”なのかも明かされ、物語は温かい気持ちで締めくくられた。

(文=Nana Numoto)

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