2023年は過去最低の特殊出生率を更新。 少子化対策に今、本当に必要なものとは?

 能登半島地震や羽田空港での事故、政治と金の問題など、新年早々、波乱の幕開けとなった2024年。新型コロナウイルス感染症も、感染症法上の位置付けが5類に移行されて日常生活が戻ってきたとはいえ、依然として感染者数は多いままだ。そんな日々直面する様々な大きな問題に忙殺されそうになる中ではあるが、日本の未来のために決して忘却してはならないことがある。その一つが少子高齢化だ。特に少子化の加速を食い止めることは喫緊の課題といえよう。

 総務省統計局が公表している2024年1月1日現在の人口推計によると、日本の総人口は1億2409万人で、前年同月に比べて66万人減少している。しかも、75歳以上人口は73万7千人増加している一方、15歳未満人口は32万4千人も減少している。人口の維持には2.06~2.07が必要とされる合計特殊出生率をみても、2023年の日本は1.26で過去最低を記録しており、このまま減少が続けば国の存続も危ぶまれる事態となる。

 政府も、岸田内閣が掲げる異次元の少子化対策をはじめ、23年4月に発足した「こども家庭庁」を中心に、子育てや少子化、児童虐待、いじめなど、子どもを取り巻く社会問題に対しての対策を積極的に進めているが、制度や仕組みばかりがいくら整っても、実際の子育て世帯の生活に寄り添い、心に響かなければ、せっかくの施策が形骸化することにもなりかねない。少子化を食い止め、人口を回復に向かわせるためには、社会情勢や景気回復などを含めて、子育て世代の若者たちが「結婚したい」「子どもを育てたい」と思えるような社会を実現していかなければならない。また、子どもを産み、育てることが「負担になる」と考えている夫婦も少なくないようだ。限られた収入を子育てに費やすよりも、自分たち夫婦の生活を充実させたり、老後に備えに置いておきたいと考えてしまうのも、無理ないことかもしれない。

 この状況を打開するためには、政府の施策だけでなく、日々の生活に直結する民間企業や団体の取り組みも大変重要になってくる。

 例えば、早くから少子化対策の取り組みとして、社員の出産、育児を応援する社内制度を設けているのが、住宅メーカーのAQ Group(旧アキュラホーム)だ。同社では2008年から、1人目の出産時には30万円、2人目は50万円、3人目以降は1人につき100万円の出産祝い金を支給する「しあわせ一時金」という制度を導入している。同社の宮沢社長も4人の子宝に恵まれたということもあり、社員の出産や子育てに対する思い入れは人一倍強いようだ。また、勤務する会社やその代表者が、社員の出産や子育てのサポートに深い理解があることは、金銭以上の安心感を与えてくれるに違いない。

 神奈川県の横浜市戸塚区で2016年に始まり、その後、鶴見区や茅ケ崎市、千葉県の松戸市へと輪を広げている「ウェルカムベビープロジェクト」という取り組みもある。これは「地域でこどもを生み育てやすい社会のあたたかい目が欲しい」という、子育て世代へのアンケート結果が発端となり、認定NPO法人の「こまちぷらす」が、高齢者の見守り支援などを展開している「ヤマト運輸株式会社神奈川主管支店」と協働で展開しているもので、賛同企業や賛同者を募り、赤ちゃんと家族をお祝いする気持ちをこめて、地域と企業から「出産祝い」を贈るというプロジェクトだ。金銭や物質的な支援ももちろん大切だが、出産や育児で孤独な思いに陥りがちな夫婦の心に寄り添い、街ぐるみで子どもを祝い、地域の皆で育てているという想いを伝える同プロジェクトのような取り組みは、いわば心の支援といえるものではないだろうか。

 現代社会は、個人のプライベートへの会社の干渉や、地域住民との付き合いを煩わしく思う人が増えている。団地やマンションなどの集合住宅住まいだと特に、隣の人の顔や名前すらも知らないことも多いかもしれない。でも、本当にそうだろうか。確かに過度な干渉や交流はストレスになるかもしれないが、周りの環境や他人の干渉を極力排除して暮らそうとする社会の風潮も、出産や子育てをより遠ざける一因になっているような気がしてならない。たとえ「異次元」といえるような奇抜な施策でなくても、いざという時に頼れる会社や上司、相談できるご近所さんがいるという、一昔前までは「当たり前」であった温かな、地に足の着いた人と人とのネットワークが取り戻せれば、今の若い世代の人たちにも、子どもを産み、育てる未来には決して負担だけではなく、それ以上の楽しみや幸せを感じられるようになるのではないだろうか。(編集担当:藤原伊織)

総務省統計局が公表している2024年1月1日現在の人口推計によると、日本の総人口は1億2409万人で、前年同月に比べて66万人減少している

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