水の大切さ、改めて実感 能登地震で田辺市職員が見た被災地、和歌山

石川県能登町で給水活動をする田辺市職員(和歌山県田辺市提供)

 能登半島地震の被災地では広い範囲で断水が長期化し、全国の自治体から給水車が相次いで派遣されている。石川県能登町で給水支援に当たった和歌山県田辺市水道部の職員に、現地での活動や災害時の水の備えについて感じたことを聞いた。

 石川県内では、地震発生から1カ月たってもなお、約4万戸で断水が続いている。

 田辺市が被災地に派遣したのは、水道部工務課の島野浩樹さん(53)、永井明吉さん(53)、小和田泰成さん(25)。1月22日朝、3トン給水車と普通車に分乗して田辺市を出発。23~27日に能登町で活動した。

 町内の浄水場で水を補給し、給水拠点まで運んだり、福祉施設で給水したり。給水拠点となっていた旧駅舎には、ポリタンクやペットボトルを手にした住民がひっきりなしに訪れていた。生活用水までは賄えず、川で洗濯をしているという話も聞いたという。

 道路の状態が悪く、渋滞の影響もあり、宿泊先の金沢市からは片道4時間近くかかることもあった。毎朝4~5時にホテルを出て現地に向かい、夕方5時まで活動して、再び金沢市まで戻ることを繰り返した。島野さんは「住民の方から『ありがとう』と言っていただくことが励みになった」と振り返る。雪が降る中、「南国から来たら寒いでしょう」と声をかけてくれる人もいたという。

 一緒に活動した他の自治体の備えも参考になった。「寝袋やコンロを車に積んでいたり、軽微な修繕に対応できる工具を準備していたりと、すぐに出動できる用意ができていた」。今回の経験を基に、市水道部でも準備物をリスト化するなど、見直しを図ったという。

■水の確保 日頃から

 今回の地震では、生きるのに欠かせない「水」の大切さが改めて浮き彫りになった。

 人口減少が急速に進み、水道事業の経営が厳しくなる中、水道施設の耐震化や老朽化対策は全国の自治体にとって共通の悩みだ。市によると、市内の水道管の基幹管路は約572キロ。耐震化率は40.8%となっている(2022年度末時点)。

 そんな中、市では昨年12月、基幹浄水場である「小泉浄水場」(高雄3丁目)で新しい浄水施設を起工。南海トラフ巨大地震に備えた津波対策と現施設の老朽化対策を兼ね、水をより安定供給できる施設の整備に着手している。

 また、給水車の操作をはじめ、いざという時の水の確保に備えた訓練にも定期的に取り組んでいる。

 それでも、「現地に行ってみて、災害が起こった場合は道路の状況によって復旧活動が大きく左右されてしまうということを痛感した」と島野さん。「家庭での水の備蓄など、市民一人一人の日頃からの備えが大切だと改めて実感している」と話している。

 能登半島地震発生から1カ月が過ぎた。断水や道路の寸断で、復旧作業は制限されている。被害の把握もいまだ十分ではない。過疎、高齢化が進む半島は紀南との共通点も多い。浮き彫りになった課題から、南海トラフ地震への備えを考える。

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