地震に負けない…あわらの女将「石川、富山の温泉地も応援を」 大宮駅で観光宣伝、北陸3県引っ張る覚悟

JR大宮駅構内で北陸新幹線福井県内開業をPRする「あわら温泉女将の会」=1月21日、埼玉県さいたま市(福井県提供)
町家を改修した「オーベルジュほまち 三國湊」の宿泊棟。インバウンドなどをターゲットにしている=1月23日、福井県坂井市三国町神明3丁目

 1月下旬、埼玉県さいたま市のJR大宮駅で行われた北陸新幹線福井県内開業の出向宣伝で、福井県あわら市の「あわら温泉女将の会」が呼びかけた。「能登半島地震で和倉温泉(石川県七尾市)が被災してしまった。ぜひ皆さま、石川、富山の温泉地も応援してほしい。あわら温泉、そして北陸にぜひお越しください」

 新幹線開業への機運が高まる中で起きた地震。北陸各地の温泉では予約キャンセルが相次ぐ。あわら市の「白和荘」の女将、立尾清美さん(61)は大宮駅で日本酒と美食を紹介するセミナーを開き「私たちはこの時期にPR活動をしていいのか、かなり逡巡した」と参加者に明かした。

 それでもPR活動に踏み切ったのは、和倉温泉の女将がニュース映像の中で「北陸新幹線沿線の観光地が共倒れになってはいけない。他の温泉地の予約をキャンセルしないでほしい。どうぞ北陸に来てください」と訴える姿を見たからだ。あわらの女将たちは「北陸3県の元気を引っ張る」覚悟を強くし、「能登の復興につなげるためにも、私たちが一生懸命PRしたい」と意気込んだ。

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 3月の北陸新幹線県内開業が迫る中、正月に能登半島地震が発生した。震度5強を観測したあわら市では旅館で一部被害が出た。あわら温泉は現在、全旅館で通常の営業態勢に戻っているが、1~3月の予約キャンセルが相次いでいる。

 風評被害を打開し新幹線開業を盛り上げようと1月21日、「あわら温泉女将の会」の7人が、JR大宮駅でPRに力を注いだ。「かがやきで大宮―芦原温泉間が2時間半」「三国港の越前がに、日本酒で乾杯を!」と駅利用客に笑顔を振りまいた。

 15旅館が加盟する芦原温泉旅館協同組合は、温泉街のにぎわいづくりやブランド力の向上に力を入れている。2023年2月には5カ年計画「あわら温泉Rebornプロジェクト」を始動。組合内の女将会や青年部も連携し、キャッチコピー「OUR LOVE.(アワラブ) 越前あわら温泉」をつくった。2月末には、温泉旅館「美松」の大広間で「学生まくら投げ選手権」を初開催する。

 同組合の美濃屋啓晶副理事長(55)=みのや泰平閣社長=は「お客さまにリピートして来てもらうため、まちの価値を上げていく」と力を込める。

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 芦原温泉駅の利用圏内では、宿泊施設を備えたレストラン「オーベルジュ」開業の動きもある。同駅から車で約20分の坂井市三国町。かつて北前船の海運で栄えた旧市街地「三国湊」に1月28日、点在する町家9棟を改修した客室16室と、フレンチレストラン棟を用意した「オーベルジュほまち 三國湊」がオープンした。「世界が憧れる古き湊町」とうたい、インバウンド(訪日客)などを呼び込むプロジェクトだ。

 仕掛けたのはNTT西日本で、地元企業など10社と組むプロジェクト運営会社「Actibaseふくい」(坂井市三国町)を立ち上げた。同社の樋口佳久社長(54)は「三国湊は歴史、文化、伝統が集積した“日本文化の宝箱”。関東からのアクセス、認知度向上に期待している」。

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 オーベルジュ建設の動きは永平寺町でも生まれている。福井駅や芦原温泉駅から車で約30分、九頭竜川や里山を望む同町下浄法寺では23年4月、総事業費約14億5千万円の計画が動き始めた。約1万8800平方メートルの土地に宿泊棟8棟やレストラン棟(22席)などができる予定で、24年10月ごろの開業を見込む。

 整備するのは黒龍酒造の親会社石田屋二左衛門(永平寺町)、前田建設工業(東京)、アクアイグニス(同)、西村組(永平寺町)の4社。石田屋二左衛門の水野直人社長(59)は「福井の食材を中心に北陸を発信していきたい」と語る。ターゲットはインバウンドや富裕層を見据えるほか、「福井に初めて訪れる方や、お客さまのおもてなしのために県民の皆さんに利用してもらい、自然や禅など福井の魅力を感じてもらえれば」と話している。

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◇あわら温泉18旅館改修

 福井県あわら市のJR芦原温泉駅西口に2023年3月、にぎわい施設「アフレア」がオープンした。11月にはアフレア内に飲食物販スペース「いろはゆAWARA」が開店し全面開業となった。

 あわら温泉では新幹線開業に向け、旅館の客室などの改修が進められている。あわら市によると、23、24年度は8割以上に当たる18旅館で国の補助金を使った「高付加価値化改修」を行っている。総事業費は約25億円で、国の補助が約半分。

 駅舎では1月27日に一般向け内覧会が開かれた。コンコースは県産スギを使った行燈風の柱が配されるなど、随所で温泉らしさを演出している。

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 3月16日の北陸新幹線福井県内開業を契機とした新時代の福井のあり方を探る長期連載「シンフクイケン」は第6章に入ります。テーマは「福井が変わる」。地域の特色を生かしたまちづくりや、県外客を意識した取り組みの現状と展望を探ります。連載へのご意見やご感想を「ふくい特報班」LINEにお寄せください。

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