「御史(オサ)とジョイ」 テソ(イ・ジェギュン)の悲哀に満ちた表情が胸に迫る7~8話レビュー【韓国ドラマ】

「御史(オサ)とジョイ」は2021年、韓国のtvNで放送されたテレビドラマ。悪事を暴く正義とトキメキの捜査劇です。NHK BS・NHK BSプレミアム4Kで2023年12月より、日曜よる9時から放送中。全16話の作品の7〜8話のレビューをお届けします。
※ネタバレにご注意ください

貧しい人々や子どもを酷使し、地方役人と癒着して暴利をむさぼるソヤン商団。御史としての使命に目覚めたラ・イオン(テギョン)はその根城や砦に踏み込み、商団を支配するパク・テソ(イ・ジェギュン)と決死の対決に挑む7~8話。父子の愛、家族の情とは何かを考えさせられる。

大乱闘の末、テソをソヤン商団の根城から追い出し、占拠することに成功したイオンは、力を貸してくれた翊衛司(イグィサ/世子の護衛)から、世子が烏頭(うず)を多量に服用させられていた事実を聞き、死の真相に不審を抱く。烏頭は使い方によっては毒にもなる薬草。しかも、根城周辺には、広大で美しい烏頭の花畑が広がっていたのだ。

一方、ジョイはソヤン商団の悪徳を暴くべく帳簿調べをする最中、根城をうろつく元姑と再会。放蕩息子は借金の代償としてテソの隠し砦である銀鉱山で働かされている、と知る。

ならばテソは山奥にある銀鉱山に逃げ込んだ、と睨んだイオンは、一人で場所を突き止めに出かける。が、生来の方向音痴で大苦戦。ジョイや従者たち、援軍を連れてようやくたどり着く。

さらに、テソを探す人物がもう一人。父である領議政パク・スン(チョン・ボソク)の許可を得て、金回りのいい庶子テソの資金源を突き止め、全てを我が物にしようとする嫡子のパク・ドス(テェ・テファン)だ。

イオンとドス、2組の追手が迫る中、テソは砦の入り口に烏頭を塗った毒矢の罠を、そして精錬所全体に地雷と導火線を仕掛ける。

イオンが砦の入り口を開けた途端、「私を怒らせたら、全員吹っ飛ばす」という言葉どおり、手にした松明で導火線に火をつけたテソ。あちこちで激しい爆発が起き、噴石が降りかかる中、導火線の火を消そうとするジョイをかばって精錬小屋に入ったイオンの姿ががれきの中に消えていく。茫然と立ち尽くすジョイと従者たち……。これだけ大掛かりな撮影はおそらく、一発勝負。映像には緊張感がみなぎって、見ごたえ十分だ。

亡骸が見つからないまま、漢陽の祖母宅ではイオンの葬儀準備が進められていた。イオンの亡父は、王位継承者である世氏の教育を担った高官。役人の腐敗に嫌気が差し、科挙の受験を頑なに拒むイオンに、「世子をお傍でお守りしたいなら、科挙を受けて出世を」と強く勧めたことを祖母は悔やんでいた。人生に名誉や栄華は何の意味もない、ということを、孫のイオンに身をもって教えられた形。人生はご飯を炊くことと変わらない、という言い伝えの正しさを祖母は悟ったのだ。そして、イオンの料理好きは、そのことに気づいているからなのかもしれない。

再会したジョイと姑との間柄にも変化があった。息子にひもじい思いをさせまいと山中を歩いて弁当を届けるという姑に「あの人(元夫)はいつまでお義母さまに苦労させる気?」と怒るジョイ。村に戻る姑に、ジョイはなけなしの路銀を渡そうとする。「私は孝行したくても母はいないので」と言うジョイに、「お母さんに会ったら渡さないと」と断る姑。「体を大事に」と言い残して立ち去る。あれほど嫁いびりの限りを尽くした姑の心が、ジョイのちょっとお節介だけれど純粋な真心に触れ、ふっとほどけた瞬間。見ていてなんだかほっとする。

そして、爆破によって大事な銀鉱山を失い、抜け穴を伝って逃げ延びたテソ。そこで、ドスの口から「お前を殺せと父さんに言われた」と告げられ、もはやこれまで、と重大な決意をする。

突然、父とドスのいる漢陽の屋敷にあらわれたテソ。「私を殺せと言ったのはまことですか?」と父を問い詰め、父が大切に守ってきた族譜(家系図)に抜いた剣を突き立てる。「庶子ごときが血迷ったか……」という父の叫び。テソは成人の日に父から授かった家紋入り玉飾りのついた結び紐を引きちぎり、「お体を大切に」と深くお辞儀をして背を向けた。父との絶縁だ。

庶子であるがゆえに、父に愛されたい、家族に認められたいという一心で、死に物狂いに努力してきたテソ。最高位官職にある父の不正に手を貸すことになると知りながら、税穀の横領、烏頭の栽培、不法な銀採掘と様々な悪行に手を染めてきた。父も、テソが自分の愛情を求めていることを知りながら、それを利用してきたのだろう。お互いがWINWINであればこそ、父子の絆はギリギリのところで維持されてきた。

でも、利権の大きな銀鉱山を失ったテソに、もはや利用価値はない。それどころか、父の威光を借りてヘラヘラ生きている嫡子ドスの人殺しの罪をテソになすりつけようと画策を始める。

庶子の生まれ、という卑屈な感情と、嫡子には負けたくない、父を見返したいという野心がないまぜになった青年テスを演じるイ・ジェギュンの悲哀に満ちた表情が胸に迫る。父と絶縁後、毅然と漢陽を旅立つ姿に、テソの新たな物語の予感がする。

そして、国王に“暗行御史ラ・イオン”の死が報告されている宮殿の扉が開き、そこにスクッと立っていたのはイオンだった。ドラマはまだ折り返し地点。やはりイオンは、生きていた。

ちなみに、8話のラストは、前半の振り返り映像が次から次へと繰り出して楽しめる演出だ。しかも、OSTの「Let’s Get it」が、時代劇とは思えないほどPOPでノリのよい曲。耳にこびりついて離れなくなること必須なので、ご注意を。


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