90年代の“明るい”殺し屋カンフー映画『ヒットマン』 はジェット・リー主演の隠れた名作!? CS特集放送「24時間 カンフーアクション」でチェック!

『ヒットマン』(1998)©2010 Fortune Star Media Limited. All Rights Reserved.

2024年は「ドラゴン」の年!

2024年は辰年。そう、つまりドラゴンの年! もう放送するしかねえじゃん、カンフー映画を‼

そんな理由があったのかはサッパリだが、CS映画専門チャンネル ムービープラスさんでカンフー映画11作品を24時間流しまくる特集「24時間 カンフーアクション」が2月に放送される。ブルース・リー師父、ドニーさん、ジャッキー、サモ・ハン、ジェット・リー……“龍の系譜”をビシバシと感じさせてくれるメンツだ。まさにガード不可の主演映画11連コンボである。

その中でも、個人的に目を引いた作品がジェット・リー『ヒットマン』(1998年)だ。他の作品は分からないでもない。だが、なぜに『ヒットマン』!? 絶妙すぎるぜ! チョイスが‼ と思わず唸ってしまった。

イケイケだった90年代ジェット・リー主演作『ヒットマン』

『少林寺』シリーズ(1982年ほか)や『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』シリーズ(1991年ほか)で飛ぶ鳥を無影脚で叩き落とす勢いだった、リー・リンチェイことジェット・リー。そんな彼が返還された香港からハリウッドへ飛び立つ前に製作されたのが、今回の特集のラインナップに含まれた『ヒットマン』だ。

この『ヒットマン』だが、地元のレンタル屋に2本だけ新作VHSが貸し出しされていたのを記憶している。あの時、レンタルが開始されたと知るや否や「ジェットの新作じゃん! 見よう‼」とチャリの人生最速ラップ(推定)を放課後に叩き出した思い出が個人的にはあるのだが、まさか、その『ヒットマン』がカンフー映画特集で取り上げられるなんて……。なんつーか人間、長生きはするもんですね! あと必死にチャリを漕いだ甲斐があったってもんだ、当時‼

とはいえ、あんまりファンから語られない……ていうか、かくいう俺も今の今まで鑑賞した経験をすっかりド忘れしていた作品なのだが、今回の特集放送を機にジェット・リー主演『ヒットマン』について改めて語りたい。

日本ヤクザ VS 殺しの田舎っぺ大将

日本のヤクザが積み立てた殺し屋対象の復讐基金を巡り、腕は立つのにターゲットを仕留められないジェット・リーが押しかけ参戦! 口が達者な詐欺師を相棒に、正体不明な殺し屋界のトップ<炎の天使>を仕留めるべく香港を奔走する……というのが本作の主なあらすじだ。

ゼロ年代の香港映画では3本に1本くらい何かしらの役で出ていた気がする俳優サイモン・ヤム、怖い人から愉快な人まで演じる演技派俳優エリック・ツァンが脇を固めた本作。「忍たま乱太郎」ならぬ、「殺たまジェット・リー」の様相を呈している。タイトルとあらすじだけ見ると実に殺伐としているが、いざ蓋を開けてみれば老若男女問わず安心して見れる殺し屋映画だ。

本作でのジェットは、地元に残したお母さんの為に立身出世を目指す、殺しの田舎っぺ大将な役柄を好演! 殺し屋ながら、お人好し演技が劇中でキラリと光っている。

人によっては、ジェットといえば真っ先にカンフーが来るかもしれん。だが、それだけではない。良い意味での少年っぽさ、人懐っこい愛嬌も彼が持つ重要な個性の一つだ。おかげさまで、困っている人を見捨てられない、子供に優しいなど、殺し屋としての致命的な部分すらも魅力的に思わせてくれる。

正直、彼のカンフーの妙技だけを見るなら、他の作品でも足りるかもしれん。だが、ジェット・リーが『男たちの挽歌』のチョウ・ユンファや、『レオン』のジャン・レノのコスプレをしてはしゃぐのを見れるのは本作だけ! 当時でもそれなりの年齢だったはずだが、ジェットの“カンフー合法ショタ”っぷりが極まっているのも見逃せないポイントであろう。

もちろん可愛いだけではない。取調室で唐突に披露する人を喰ったシリアスな演技、何といってもド迫力のカンフーファイトはもちろん健在。マッドに誇張されたアグレッシブな日本ヤクザや殺し屋相手に拳のヒットマンぶりを存分に披露している。

共演陣にも注目!いま観ても味わい深い“陽”の殺し屋映画

そして相棒の詐欺師を演じるのがエリック・ツァン。ジェット・リーがカンフーなら、エリック・ツァンはトークがキレキレ。カタギ、反社関係なく、口八丁手八丁で周囲を煙に巻いていく。しかも、馬子にも衣裳とばかりにジェットの殺し屋としてのビジュアルを整え、大飯食らいのジェットに飯を奢ったかと思えば、さらに居候として家に置くなど、なんだかんだ言いながらもパパ活か!? と思うほど援助しまくるツンデレっぷりを披露!

言ってしまえば本作でのコメディリリーフなわけだが、父親として娘に向き合えない切なさや悲哀を短いカットながら印象的にキッチリ演じている。月並みかもしれんが、「やっぱ演技上手いな、この人……」と思わせてくれるのだ。

そんな即席コンビを追うクールでミステリアスなデカを演じるのがサイモン・ヤムだ。イケイケな不動産の営業課長のような髪型およびルックス。そして常に微笑みを崩さない。敵にも味方にもなりそうな雰囲気が実に油断ならない。どちらにつくか? とヤキモキさせつつも、最終的には漢気を発揮しフルアーマー・サイモン・ヤムな姿で参上するシーンは実にグッとくる。

同年に公開された、ジェットがハリウッドで冷酷無比な殺し屋を演じた『リーサル・ウェポン4』がA面とすれば、ヒューマニズムに溢れた本作『ヒットマン』はB面。同じ殺し屋という役にしても“陰と陽”だ。奇しくも彼が習得している太極拳精神も感じさせてくれる。

この『ヒットマン』以降、飛龍の如くハリウッドでの主演作品が続くジェット・リー。劇中の『プリティ・ウーマン』みたいな展開も、その後のスター街道を歩む姿と何処か重なってしまう。また、ジェット以外のキャストも後に香港映画界で大活躍していく、という意味でも実に味わい深い作品だ。

おかげさまで俺も久しぶりに再鑑賞した結果、最初の“絶妙”という印象とは裏腹に「ムービープラスのチョイス、分かってるねえ! おい!」と立ち飲み屋の馴れ馴れしい常連みたいな気分になったのであった。まあ俺の現金な性格は脇に置いといて、他の特集作品はもちろんだが、この作品を見逃す手はないですよ‼

文:“DIE”suke

『ヒットマン(1998)』はCS映画専門チャンネル ムービープラス「24時間 カンフーアクション」で2024年2月放送

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