[本田泰人の眼]毎熊の台頭で「穴」が「武器」と化した。勝負のイラン戦、最大のポイントは三笘の起用法だ【アジア杯】

アジアカップで3大会ぶり5度目の優勝に向けて、日本がバーレーン戦で2つの「自信」を手にした。

1つ目は右サイドだ。グループステージで「穴」だった日本の右サイドは、バーレーン戦では「武器」と化した。その理由は毎熊晟矢の台頭なくして語れない。

堂安律、久保建英のコンビに毎熊が加わったトライアングルで、日本は立ち上がりから何度も右のポケットを攻略。32分には、毎熊の迷いのないミドルシュートがポストに跳ね返り、こぼれ球を堂安が流し込んで先制点を奪った。

毎熊と菅原由勢との違いは、「相手に合わせるプレー」だ。堂安がボールを持った時、どのタイミングで動くべきか、どこのポジションにいるべきか。状況に応じて、選択すべきプレーが毎熊は的確だ。

たとえば、堂安の得意なプレーの1つは、右サイドでボールを受けてからのカットイン。その良さを引き出すために、毎熊が囮となって堂安の外側を回って走り出す。タイミングの良いオーバーラップがあるから、堂安にはカットイン、クロスという2つの選択肢が生まれる。毎熊の存在によってイキイキとプレーできるようになった。

守備もパーフェクトに近い出来だった。攻め上がるタイミングも良いし、戻りも早い。相手のカウンターに対してファウル覚悟で食い止めたシーンではイエローカードをもらったが、流れを止めた判断も間違っていない。最後まで足が止まらなかったタフさも見せた。

インドネシア戦に続くスタメン起用で、巡ってきたチャンスをモノにした毎熊自身は、大きな自信をつけたはずだ。

一方、左サイドバックの中山雄太には不安が残る。毎熊とは違い、「相手に合わせるプレー」ができていない。だから、左サイドMFの中村敬斗がストレスを感じながらプレーしているように見える。

中村の特徴を考えると、伊藤洋輝のように、後ろからフォローする、ボールをつけたらオーバーラップするといったシンプルなプレーに徹したほうが、彼の良さが活きる。

攻撃は“阿吽の呼吸”が大事だが、中山の場合、菅原と同じくパスを出すタイミング、動き出しのタイミング、サポートするタイミング...すべてのタイミングが周りと合っていない。

最も警戒していたセットプレーでボールウォッチャーとなって、相手に簡単にヘディングを許し、失点に関与したのも減点材料だ。

インドネシア戦、バーレーン戦の2戦で、日本のサイドバックは毎熊と中山がスタメン出場したが、右と左で完全に明暗が分かれた。

日本が手にした自信の2つ目は、上田綺世だ。

大迫勇也以降、ストライカー不在が課題の1つだったが、インドネシア戦に続いて、上田はバーレーン戦でも久保や堂安との好連係を見せた。72分には強引な突破からエリア内に侵入して、鋭いシュートを突き刺した。1点差とされたなかでのゴールは非常に価値がある。

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調子を上げてきた上田と対照的なのは、その上田に代わって80分に途中出場した浅野拓磨だ。

三笘薫を投入して攻撃が活性化されていたなか、点が取れなかったのは浅野の技術が低いからだ。85分には三笘のラストパスから「あとは決めるだけ」という1対1の状況でトラップミスして転倒したり、終了間際には中山のスルーパスに抜け出して1対1で決めきれなかったり...。

細かく指摘するのも嫌になるほど、決定機の場面でことごとくミスを連発。3-1の状況でピッチに立って、相手にトドメを刺したかった。

スタートから出ている選手がミスをするなら話は分かる。後半になると疲れてくるから軸足もズレて、パスがズレてくるからだ。

しかし、途中で出てくる選手は言い訳できない。チャンスをしっかりモノにするのがフォワードの仕事だが、浅野には決め切れる技術が足りない。

次のイラン戦は相手の戦力を見るかぎり、事実上の決勝戦とも言える。負けたら終わりの試合では、まずは失点しないこと。守備ありきで戦うべきだ。私が監督なら、次のようなスタメンを選ぶ。

システムは4-2-3-1。ゴールキーパーは鈴木、4バックは右から毎熊、板倉、冨安、伊藤。ダブルボランチは遠藤と守田、2列目は右から堂安、久保、三笘。センターフォワードは上田だ。

最大のポイントは「三笘の起用法」だ。

相手が疲れている時の三笘投入も効果はあるが、スタートから使うだけでも、チームに勢いを与えられる。

相手からすれば、最も脅威となる三笘に長い時間プレーされるのが一番嫌なはず。早めに先制点を奪いたいことを考えても、コンディションが万全なら、三笘を先発で起用して「三笘システム」を復活すべきだ。

課題の左サイドバックは伊藤で行く。シンプルなポジション、シンプルな戻り、シンプルなさばきで「守備ありき」でプレーできる。

鈴木は将来性があるだけに、我慢して使い続けるしかない。しかし今大会での鈴木は本当に良いところがない。初戦のベトナム戦からスタメン出場しているものの、キャッチングのミスが多く、パンチングも遠くに飛ばない。ビッグセーブも一度もなく、クリーンシートが一度もない。とにかく流れが悪い。

これまでの結果を見れば、今の日本の攻撃陣なら1点以上は取れるはずだが、1失点する可能性も高い。優勝するチームには必ずヒーローが出現するもの。イラン戦ではそれが鈴木であってほしい。日本が優勝するための最後のピースとも言えるだろう。

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なお、本田泰人氏のインドネシア戦の採点は以下のとおり。
※採点は10点満点で「6」を及第点とし、「0.5」刻みで評価。

GK
23鈴木彩艶/5

DF
16毎熊晟矢/7.5☆MOM
4板倉滉/7
22冨安健洋/7.5
19中山雄太/5.5

MF
6遠藤航/6
20久保建英/6.5(67分OUT)
(→8南野拓実/6)
17旗手怜央/6(35分OUT)
(→5守田英正/6
10堂安律/7(80分OUT)
(→18浅野拓磨/5)
13中村敬斗/6(67分OUT)
(→7三笘薫/6.5)

FW
9上田綺世/7.5(80分OUT)
(→15町田浩樹/6)

監督
森保一/6

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【著者プロフィール】
本田泰人(ほんだ・やすと)/1969年6月25日生まれ、福岡県出身。帝京高―本田技研―鹿島。日本代表29試合・1得点。J1通算328試合・4得点。現役時代は鹿島のキャプテンを務め、強烈なリーダーシップとハードなプレースタイルで“常勝軍団”の礎を築く。2000年の三冠など多くのタイトル獲得に貢献した。2006年の引退後は、解説者や指導者として幅広く活動中。スポーツ振興団体『FOOT FIELD JAPAN』代表。

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