2029年度めどに城端線と氷見線をJR西日本からあい鉄に移管 沿線自治体と鉄道2社が事業再構築で合意 経緯を辿ります(富山県)【コラム】

氷見線を走る列車(写真:まちゃー / PIXTA)

富山県西部を走る2つのローカル線、JR城端線とJR氷見線の運営体制が大きく変わります。富山県と高岡、氷見、砺波、南砺の沿線4市、JR西日本、あいの風とやま鉄道(あい鉄)の鉄道2社は、城端線と氷見線の鉄道事業再構築で合意。5年後の2029年をめどに、両線の事業主体を現在のJR西日本から第三セクターのあい鉄に移管します。

本コラムが再々取り上げる地方ローカル線の経営問題。JRから切り離して地域の三セク鉄道に移し、再生を目指すのは地域密着の原点に立ち返る鉄道運営の基本姿勢といえるでしょう。ここでは関係7者による「城端線・氷見線再構築検討会」の記録をもとに、三セク化合意までの道のりをたどります。

国鉄気動車の走る線区が姿を消す

城端線と氷見線は、いずれも人口約16万人の富山県第二の都市・高岡市が起点。城端線は高岡ー城端間の29.9キロ、氷見線は高岡ー氷見間の16.5キロ。両線ともに単線非電化です。あい鉄とは高岡、北陸新幹線とは城端線新高岡で接続します。

城端線と氷見線の路線図。伏木ー城端間はほぼ一直線、伏木ー氷見間は直角に折れて富山湾沿いを走ります。「令和6年能登半島地震」では氷見線の一部が被災しましたが、2024年1月6日には全線運転再開しました(資料:富山県)

7者連名による再構築計画のポイント。予定期間は、2024年2月15日~2034年3月31日のおおむね10年間です。JRからあい鉄への移管時期は新型車両への置き換え完了時、予定期間のほぼ真ん中の2029年とします。

現在、両線を走るのは国鉄が1970年代後半から量産したキハ40形とキハ47形。詳細はこれからですが、国鉄気動車が走る線区がまた一つ姿を消します。

移管に必要な経費は、新型車両導入費など鉄道施設整備費が342億円、あい鉄への経営安定支援が40億円で、合計382億円(1000万円以下切り捨て)です。

JR西日本は150億円を負担(拠出)。国や自治体は、国が128億円、富山県と4市が150億円を負担します。

拠出金の全体額は428億円で、必要経費の382億円を46億円上回ります。余剰分は、経営安定基金として積み立て、あい鉄が10年後の計画期間終了後も安定運行できるようにします。計画の詳細は、後段でご報告します。

JR西日本にとって離れ小島のような線区

城端線と氷見線のプロフィール。両線は北陸線の支線といった性格の路線です。ルーツは私鉄。中越鉄道が、北前船の寄港地だった伏木港と、米や絹産地の砺波平野を結ぶ目的で建設。大正年間の1912年までに氷見ー城端間が全通し、1920年に国有化されました。

2015年3月の北陸新幹線の金沢延伸開業で、並行在来線のJR北陸線倶利伽羅ー市振間があい鉄に移管されると、城端線と氷見線は他線区とつながらない、JR西日本にとって離れ小島のような路線になりました。

検討会資料によると、2022年度の旅客輸送密度は城端線2481人、氷見線2157人。通学生を中心に一定の利用があるようですが、JR西日本としては沿線自治体とともに、鉄道の将来像を考える線区といえます。

最初はLRT化を検討

富山県とJR西日本などは当初、両線のLRT化を構想しました。2020年6月から「城端線・氷見線LRT化検討会」を設置し、次世代型路面電車化する可能性を探りました。富山県には、富山ライトレール(現在は富山地方鉄道富山港線)の成功例があります。

しかし、元々電化されていたライトレールに対し、城端線と氷見線は非電化。LRT化すると、電化などで1~2年程度の鉄道運休・バス代行期間が生じるほか、軽量のLRT車両では降雪期の安定運行や輸送力の点で課題が残るため、2022年度末までにLRT化を断念しました。

その後、LRT化検討会を発展的に改組して、2023年7月に再構築検討会を立ち上げ。同年12月まで5回の会合を開催して、両線の三セク化や新車集中投入を決めました。

「JR西日本の技術支援が必要」(あい鉄)

再構築検討会の資料に、「あい鉄が城端線・氷見線を引き継ぐための条件」と題した情報が見付かりました。

あい鉄はJR西日本から移管を受ける前提として、「現路線(北陸線)と区分経理し、赤字補てんの保証を受ける」、「技術系要員確保のためJR西日本社員が一定期間、あい鉄に出向する」、「両線を直通化する場合、JR西日本の全面的な技術支援を受ける(いずれも大意)」などを求めました。

JRから三セクへの移管では、お金の問題(赤字補てん)に目が向きがちですが、安定運行には技術、そして人材が何より必要ということです。

新型車両は電気式気動車

新型車両は、JRからあい鉄への移管時までに34両導入します。現在の24両に比べて10両の増備。車両はエンジンで発電してモーター走行する電気式気動車が基本です。JR西日本では豪華観光列車「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」(87系気動車)、JR東日本では2019年デビューのGV-E400系が電気式DCです。

秋田・青森地区に投入されているJR東日本の「GV-E400系」(写真:鉄道チャンネル)

サービス面では、沿線全駅に交通系ICカードを導入(※事業主体変更前)。あい鉄は列車を増発します。現在は高岡で分断される、城端線と氷見線を直通運転して、氷見線沿線から北陸新幹線への乗り継ぎを便利にします。旅客案内システムも採用、両線を近代化します。

「地方ローカル線再生のモデルに」(斉藤国交相)

移管決定に当たり、関係各者はコメントを発表しました。注目すべきは斉藤鉄夫国土交通大臣の、「城端、氷見線のように、鉄道再構築の取り組みが各地で進むことに期待したい」のメッセージです。

最初に書くべきでしたが、富山県などの検討会は2023年10月に施行された改正地域交通法(通称)に基づく法定協議会。斉藤大臣のコメントには、「全国で問題化する地方ローカル線再生のモデルにしたい」の思いが込められます。

過去にあった、JRから三セク鉄道への移管。岩手県のJR山田線は、2011年の東日本大震災で被災し、JR東日本が復旧した上で2019年3月、三陸鉄道に移管しました。この時も地域公共交通法に基づく鉄道事業再構築実施計画を、国交省が有効認定しました。

戦国の城と義経伝説 旅情あふれる沿線

県花のチューリップにちなんだヘッドマークを付けた城端線の列車(画像:富山県)

最後に駆け足で両線の沿線案内。城端線は全線の車窓に田園風景が広がります。砺波駅近隣にはショッピングセンターなどがあり、砺波市の中心地区としてにぎわいをみせます。城端は戦国時代の城端城が駅名の由来。常花と読み替え、JR西日本は「フラワーライン常花線」の愛称名でPRします。

氷見線は越中国分以北で風景が一変、富山湾の海岸線を走ります。雨晴駅は、北陸から奥州に落ち延びる道中の源義経が、弁慶が持ち上げた岩の陰で雨をしのいだという言い伝えに由来します。

記事:上里夏生

© 株式会社エキスプレス