【漫画】いまはもうない思い出の喫茶店、あなたにはありますか? SNS漫画『おしまいドルチェ』が温かい

どんなご馳走も食べたら胃に消えてしまう。「食べる」とは時に空腹を満たすと同時に切なさを感じる行為だ。思い出によって作られた空想のカフェを舞台に展開されるSNS漫画『おしまいドルチェ』では後半、主人公が店主から思念が盛られたスイーツを“食べる”ように求められる――。温かいストーリーのなかに漂う一抹の切なさ。本作の魅力はそんなパフェのような機微である。

作者は、ならのさん(@Nara_lalana)。ONE PIECEカードゲーム「オフィシャルカードスリーブ リミテッドエディション」の絵を担当するなど、基本的にイラストレーターとして知られる存在だ。その彼女がどんな意図を以て本作を描いたのか、話を聞いた。(小池直也)

――こちらは2年前に発表された作品だそうですね。

ならの:もともと「コミティア」で発表した同人誌に収録した漫画でした。個人的には背景をしっかり描いて、絵柄のタッチや世界観を閉じ込めた初めての作品なんですよ。

今だったらもう少し上手く描けるなという部分もありつつ、普段描いているイラストではできない表現ができたなと思っています。

――イラストではできない表現とは具体的にどのようなものでしょう?

ならの:私のイラストは一瞬を切り取ったような、数秒後には変化するイメージの表現が多いです。そこになくて漫画にあるのは時間。キャラクター同士が関係を深めたり、その世界を私自身も含めて探検できるなと感じますね。

――世界観の着想は?

ならの:喫茶店などの居心地のいい場所に行くのが好きなんです。本作にはモデルになった店が2つあって、それを混ぜて描きました。それをもとに同年夏にあった「コミティア」で色々な作品に触れた時の創作意欲で一気に描き上げたんです。

あとは誰かと仲良くなってから、不意に「他人同士なんだ」と感じる瞬間の切なさや諦めを人じゃない何かとの関係で描きたくて。そういったアイデアが「人のいない喫茶店」という形に繋がっていきました。

――投稿の最後に「寒い日が続いているのでほっこりできれば思い公開しました」とされていますが、切ない読後感もあります。

ならの:もともと広々とした景色や空が好きなのですが、それも“変わってしまう”“今しか見れない”ものなんですよね。その手の届かない感じに圧倒される感覚に惹かれている気がします。それが作品ににじみ出ているのかもしれません。

――ということは瞬間を切り取るイラストの方が自身の作風としては理想なのでしょうか。

ならの:話を考えるのも好きですが、絵を描く方が先にあるので長く続けてこれたかなと思います。イラストレーターの延長で漫画を描くのか、同じバランスで描いていくのかはまだ探っているところですね。

他の作家さんでいうと市川春子さんや和山やまさん、山口つばさの短編集の世界観はイラスト的だなと感じて好きです。ただ最終的に今自分が表現したいものがイラスト向きなのか、漫画向きなのかと考えて選択する手段なのかなと。

――また最近はONE PIECEカードゲーム「オフィシャルカードスリーブ リミテッドエディション」のイラストも担当されていました。こちらについては?

ならの:「独特な海の表現で『ONE PIECE』の世界を描いてみてください」とメールでオファーをいただきました。描いたのは少し前で、最近発表された感じですが反響は大きいですね。作品は父がアニメ好きで私も一緒に観ていました。まだ家族には伝えてないのですが……(笑)。

――今後の活動についても教えてください。

ならの:今までのイラスト仕事だけではない、新しい表現や活動を模索しようと思っています。人の作品や絵はもちろんですが、それ以上に自分の作品を描いていければ。

(取材・文=小池直也)

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