怒鳴る保育士、園児に無理やり食べさせる…苦手な食べ物を 泣く園児は放置、容姿を中傷して失笑 埼玉で相次ぐ不適切保育、浮かび上がった背景 大声で叱責、劇の練習中あくびしたら罵声

保護者説明会で謝罪する小林哲也市長(左から2人目)ら=1月27日午後、熊谷市中曽根の大里コミュニティセンター東棟ホール

 埼玉県熊谷市と草加市の市立保育所で不適切保育が行われていたとして、両市の保育士が昨年12月~今年1月にかけて相次いで処分された。両市は再発防止策を発表したが、背景には保育士不足などの社会的問題もある。専門家は「保育士を増やすだけでなく、自由な意見が言える環境づくりが大切」と訴えている。

 「大変なご迷惑とご心痛をおかけし、心よりおわび申し上げます」。1月27日午後、熊谷市中曽根の大里コミュニティセンター東棟ホール。同吉見保育所で不適切保育が行われていた問題で、保護者説明会が実施され、小林哲也市長が市幹部と共に深々と頭を下げた。

 市によると、2022年度から23年12月までの間、市立保育所で入所園児19人に対し不適切保育があった。容姿を中傷する言動や園児の自尊心を傷つけるような失笑、必要以上に大きな声での脅かしや叱責(しっせき)などの心理的虐待、泣き止まない園児を一人で放置するなどのネグレクト(育児放棄)に当たる行為もあった。

 小林市長は「風通しの悪い閉鎖的な組織となってしまい、異議を唱えられなくなってしまっていたこと、建物の構造として他の保育室から隔離され、他の目が届かないことが複合的に作用し、不適切な保育が生じてしまったと考えている」と語った。

 問題は昨年11月に保護者関係者から市に相談があり、保育室内の状況を録音したデータで不適切保育が発覚した。市は同保育所前所長(51)を停職6カ月、同保育所前主幹(49)を停職3カ月の懲戒処分とし、同調していた職員5人を文書注意の訓告処分にした。再発防止策として、見守りカメラや虐待防止委員会の設置、ケアや交流機会の増加、見守り体制の強化を図る。

 保護者説明会には64人が参加し、予定より1時間長い3時間に及んだ。参加した30代女性は「処分が軽いし、現在も通常通りに勤務している先生もいる。説明は受けたけど、納得できる内容ではなかった」と不満そうだった。

 草加市も昨年12月、市立保育園で職員の保育士4人が園児に対し、怒鳴ったり閉じ込めたりするなど12項目の不適切な保育を行っていたと認定した。

 保育士は19~21年度の間、おもらしをした子どもの頭を未使用のおむつではたく▽苦手な食べ物を無理やり食べさせる▽教材室に子どもを一人にする▽劇の練習中、あくびをした子どもに怒鳴る―などの行為を行った不適切な保育があったのでは、と相談があり、市は職員に聞き取り調査を実施。保育専門家を加えた外部調査を1年以上かけて行い、検証した。

 保育士4人は32~48歳までで性別は明らかにしていない。市は最年長の職員に文書訓告、ほかの3人に文書・口頭注意の処分を行った。4人は聞き取りに対し「保育の一環のつもりで、子どもたちの気持ちを理解できなかった」などと理由を説明しているという。

 市は保育ガイドラインを策定するほか、保育職員対象の研修などで再発防止に取り組んでいる。子ども未来部は「(不適切保育が行われていた)当時はコロナ禍で、職員同士でもコミュニケーションがなかなか取れなかった時期。話し合いや注意し合う環境ができてなかったのでは」と話している。

 虐待問題に詳しい羽生市下岩瀬、埼玉純真短大こども学科の高橋努准教授は「保育業界は人材が不足していて、大人のいら立ちが子どもに向けられた可能性がある」と指摘。保育士の資格が取得できる同短大の1学年の定員は150人だが、毎年600~700人程度の求人希望があるという。「保育士から人気のある保育施設には働きやすい環境があり、保育士を集めるには今の時代に合った職場づくりが大切」と話していた。

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